第7話 紫月のもどかしさ……

一夜明け、三人は朝食を摂っていた。

「料理長、今朝も美味しい朝食をありがとうございます」

「有難い御言葉です、本日は和風の弁当にしつらえました、御堪能ください」

食後には、紫月のお気に入りの煎茶をすする。朝の食事のあと、これを頂くことで、三人はこの後の学業に専念できる。

すると、紫陽が、

「……ところで、紫苑、家の前に、見知らぬ『超高級胴長外車』が、いるのだが……」

紫月も、

「……そうですね、熱視線も感じられますし……紫苑お兄様……?」

「あ、うん僕の後輩だ……」

「ほう……ならば、少し待ってろ」

少しして紫陽が戻り、玄関を開けた。目の前には、瞳を爛々らんらんと輝かせた、碧月みずきが立って待っていた……制服のスカートのすそを少し手繰り上げ、深々とお辞儀をする『カーテシー』を行い、

「紫陽様、紫月様、おはようございます、……お初にお目にかかります、私は『朝倉碧月あさくらみづき」』と申します昨日、紫苑様の弟子と認めて頂けました。どうぞ、お見知りおきを」

(ん、紫苑の?弟子?かなりの教育を受けた令嬢だな……)

(紫苑お兄様?まぁ、なにかお考えがあってのことでしょうけど……あんなに美しいカーテシー)⇒二人の考察はあるが、嘘である、紫苑が場面に流されただけ……

「私は長兄の紫陽です、こちらは、妹の紫月」

「紫月と申します、宜しくお願い致します」

紫月もカーテシーで返す。

「そんな……三人は、学校で、凄い存在なのですから、とうに存じ上げておりますよ。さあどうぞお乗りください、遅刻でもしたら、私の責任です、ふふ」

四人は車に乗り、学校に向かい始めた。紫陽は、さっそく、

「ところで、朝倉さんと紫苑は、どこで出逢ったのです?」

どっ直球で、尋ねてみた、すると、碧月は、淀みなく、昨日のことの顛末を話した。

紫苑は、若干こそばゆかったのか、車窓を眺めていたが、耳が赤かった。

ふと思った紫苑は、

「あぁ、そうだ、碧月君、今後、僕を呼ぶときは『御師匠様』でなく、紫苑『君』と呼ぶように、分かったね?」

「はい、私、朝倉碧月、命に従います……」

紫陽と紫月は、(はぁ……⁉)と、心の中で、思った。


校門前に、超高級胴長外車が到着し、執事がドアを開け、四人が車から下りる、他の学生たちの歓声たるや、輝く視線、もの凄いものだった。

「す、凄いな……デュアル・プリンスと月銀の紫翠姫ルナ・エメジストの三人を車に乗せて……」

「あ、あの御嬢様は、『朝倉ホールディングス』の御令嬢の『朝倉碧月』様だ……」

紫苑と碧月は、紅茶についての話をしながら校舎に向かった、が、女子からの妬みの視線が、紫陽と紫月にも分かるくらい、閃光の様な刺さる視線が送られていた、が二人は、何も気にしない様子で校舎に入った。

ただ、これは一部の『紫苑好き好き』のアホがもたらした一時の現象、他の者達からは、あの三兄妹に近づくなんて……はは、碧月様は、なんて凄い淑女なんだぁ!と、碧月の『挌』と『株』が爆上がりしていた(本人は気づいていないが)

紫陽と紫月は、

(あの四方からの熱視線をサラリと躱し、あれも、また凄いな……はは、)

(……ですね~、紫苑お兄様の特技というか、ふふ)

すると、後ろから

「おはよう、紫陽!」

「お!おはよう『楓』、今日もよろしくな!」

紫月が闇落ちするには十分な条件だった……

紫月が濃い紫のオーラを纏い、何やら熟考している……?

……え?この方、紫陽御兄様を、敬称なしで、「し・よ・う」と、呼び捨てにしましたわよね……?貴方は何様……私から、紫陽お兄様を奪うつもりなの……?

その目の前に黄白色おうびゃくしょくの光を纏った美しい少年がいた、

「紫陽の妹君の『紫月』さんだね、有名だから、どう接して良いか分かりませんが、僕は『蒼宮寺・楓』と申します。不束者ふつつかものですが、紫陽の友達です!」

紫月は、驚きつつも、

「初めまして、私は妹の『燦之宮 紫月』と申します、これからも、よしなに」

紫陽が、

「不束者とか、誤解招く表現使うな、ったく……紫月、こいつは『楓』、人畜無害で、俺が初めて『友達』と認めた人間だ……どうか仲良くしてやってくれ」

「……え、お兄様が『お友達』を……」

ショックと嬉しさが入り混じった、不思議な気持ちだった、紫月は、両手で口元を囲い

「まぁ、まあ素晴らしい出会いがあったのですね……今日の御昼ご飯は皆で囲いましょう!さあ早くしないと始業のベルが鳴りますわよ、ふふ」



みんなパタパタと教室に向かう、それを眺めながら、紫月は、ふと思った、紫苑お兄様には、『恋人』なのか、『友達』なのか、意味の解らない、でも信頼しているパートナーがいる、紫陽お兄様には、明確な御学友がいらっしゃる……


…………私には…………いない…………


昼休みになり、いつもは燦之宮三兄妹が(意識せず定位置)にされた屋上の芝生で、楓と碧月を加えた五人で弁当を囲んだ。ギャラリーが凄いが、燦之宮家は和食の弁当だが一つ多い

「多分、今日は皆で食事囲うと思ったから、シェフに、もう一つ頼んだのよ、楓も碧月ちゃんも勉強になるだろ?味を覚えるって、料理人だけに必要なスキルじゃないぞ、もしコンビニ業界に就職したら、アドバンテージを得る!」

「紫陽、ご飯食べよ?」

「あ、ごめんな、では、いただきます」

そして皆で

『いただきます』

と、昼食が始まったが、紫陽が碧月の中華弁当に釘付けにされた、

「み、碧月さん、このエビチリ一尾頂いて良いですか?」

「あら、はい、どうぞ召し上がってください」

……紫苑の微妙な心を捻り潰すように……碧月は……

「はい、あー~ん」

紫陽は照れながらも、

「有難く頂きます」

パクっと食べた

紫苑(食った!こいつ!あ~ん、だ⁉)

「あ、御師匠様、でなく紫苑君、エビチリを、どうぞ、手ずからお出しすのは失礼と思い、小皿とフォークを御用意しました。どうぞ、お召し上がりください」

「……ぅうん、ありがとう」ぱくり(あ、すんごい美味しい……)

すると碧月が、

「燦之宮家の出汁巻き卵を頂きたいです、その……、おうちの味を知れるというか……」

楓も、

「ぼ、僕も同じ気持ちです、燦之宮家の出汁巻き卵を、紫陽いただきます」

二人はパクリと、出汁巻き卵を口にする、……と二人ともヘニャリと崩れた顔で

「僕は、こんな美味しい、だし巻き卵初めてですぅ」

「私もですぅ」


……私「紫月」には親友がいない…………

…………とはいえ、悲観している月銀ルナ紫翠姫エメジストだが、以前に紫苑が話した学内200名もの信者がいれば、友人の一人も出来そうだが……、また別問題のようです…………『好き・憧れ・羨望……と、妬み・欲望・性欲』

……ままならないものですね……





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