第6話 紫苑のロイヤル・ミルクティー
学校もcaféも休日、紫苑は、贔屓にしている紅茶葉の専門店に買い付けに来ていた。
「おや、紫苑様、本日はどの茶葉を?」
「ごきげんようムッシュ、今日は、『ニルギリBOP』が、欲しくてね!」
……ニルギリBOPとは、茶葉外観は明るい褐色で、水色は明るい鮮紅色、スッキリとクセの無い香味と、マイルドで爽快なフレーバーを有している……
「おや、今回は、マイルドな茶葉を御所望で?」
「そうだね、最近は香味の強い茶葉を選んでたから、一旦落ち着かせようかなって……はは」
「紫苑様の探求心には、頭が下がる思いです……」
「いえ、ムッシュ、貴方には、私が求める物に全て応えて下さる、本当にありがとうございます」
「有難い御言葉です、紫苑様」
「ムッシュ、また来るね!」
店を出て、タクシーを呼んでも良かったが、散歩しながら、裏路地を抜けて徒歩で帰路に着こうと思っていたが、……路地裏で目の前に訳わからん光景が広がっていた、女の子一人を四人の男が囲っている状況……(え……昭和のアニメか?)
女の子は同じ高校の学生だ、名前は、確か……
紫苑は、「スキル発動・『忍び足』……」
ちなみにこれは、燦流古式武術ではない、紫苑が紫陽からの、武術稽古や喧嘩から逃げるために、独自に編み出した技だ。
碧月と男四人に悟られず、紫苑は近くで見ていた。彼女の実力なら、男四人くらい軽く「のす」だろう。ただそこで紫苑は思った
(あれ?たしか空手って、私闘で使ったら、破門じゃなかった……⁉)
リーダー挌の男が、なにやら、喚き散らしたあと、彼女に拳を振りかぶった、
その刹那、紫苑の身体は反応していた、男の振りかざす右腕を右片手で押さえ捻り、肩の関節を外した、男は、のたうち回る。二人目からは一瞬だった。二人目には
紫苑は
「さ、行こう」
「え……ぁ、はい」
と、碧月の手を引いて走った、碧月には紫苑の背中が眩しく感じた
(王子様…………)
大通りに抜けて、二人でふう~と息をつくと、碧月が、
「紫苑様、この度は、救って頂きありがとうございます」
すると、紫苑がケラケラと笑って
「いやぁ~、あんな漫画みたいな場面に出会えて光栄だよ、貴女もあそこで空手を使ったら、まずかったでしょ?」
「ぁ、あ、はい、ですが紫苑様の流派にも『しきたり』があるのでは?」
「僕の修めてる『燦流古式武術』は、相手を敵とみなせば『やっちまえ~~』て流派なんだよ、へへ、ちなみに僕は師範だよ、むん」
碧月は表情をくずし、やさしく微笑んでいた、そして……
「紫苑様、もしよろしければ、当家にいらして頂けませんか?家は近いので、先ほどのお礼も御座いますので……」
紫苑も、あとの予定がなかったので
「うん、じゃあ、お邪魔します」
碧月の顔が、パァッと、明るくなった。
「では、御案内しますわね!」
十分ほど歩いたところで、
「到着しましたわ!こちらが当家です」
紫苑は(…………城か?)
無理もない、紫苑たちの家も相当に広く立派だが、この家は群を抜いていた、都内の一等地に四階建ての家屋、広い庭……というか日本庭園、使用人が六人立ち並び、
「お帰りなさいませ、お嬢様、御学友様」
紫苑は思った(一人くらい護衛にまわせや……)
「みなさま、ただいま帰りました、本日は、同じ高校に通う燦之宮紫苑様を御招き致しました……」
使用人たちから色めきだった声がこぼれる、
「ま、まさか、デュアル・プリンスの紫苑様がいらっしゃるなんて、き、気合い入れないといけませんよ……あなたがた……今後の『朝倉ホールディングス』の命運がかかってますわよ……」
なにやら物騒な小声が聴こえてきたが、スルーした。そうか、彼女は、証券会社大手の「朝倉ホールディングス」の御令嬢だったか、すると彼女は、
「本日の紅茶は、私がお淹れ致します、皆は菓子の用意を……」
「かしこまりました、御嬢様」
「紫苑様、少々お待ちください」
「あ、はい」
少しして、碧月がティーポットとカップとソーサーを持ってきた。
とても綺麗な「マイセン」の茶器だ、装飾・艶、素晴らしい。
そして、温めたカップに紅茶を注ぐ。
「私は、ロイヤルミルクティーが大のお気に入りですの、是非、てづから、御作り致したくて、ただ紅茶に造詣の深い紫苑様にお出しするのは、畏れ多いですわね……」
「はは、何かのコンテストじゃないんだから、緊張しないでよ、僕だって、少し詳しいだけだし、そっか、じゃあ頂くね……」
紅茶を口に含んだ、紫苑の瞳から、光が消える。表情に先ほどの、笑顔は一切ない、その一連の様子を見ていた、碧月は心の中で、
(あ”あ”ぁ、し、しくじってしまったのですか……?)
いや、そうではない、紫苑は無心になって、味を解析していた
(ミルクティーに合う茶葉、この香味は「ウバ」かな、ミルクティーには、ベストな選択、渋みも穏やか、沸騰させてないのが分かる、水色も良し、ただ何か気になった……『コク』、が薄いな、ミルクティー、とりわけロイヤルミルクティーなら、コクを楽しむのも一興である、……あぁそういうことか……)
紫苑は碧月に、
「淹れたミルクは、低脂肪乳ですか?」
「!え、はい、当家では御祖父様の代から、朝食等に、頂く牛乳は、低脂肪牛乳ですの……まさか、一発で当てられるとは……あぁ」
「まあ、確かに動物性脂肪の取捨選択は大事ですよね、僕の家も、三兄妹進む方向が違うので、三人同じ飲み物でないんです、多少違いありってね」
紫苑は、ニコリと微笑み、
「僕も、貴女に『ロイヤルミルクティー』を淹れてもよろしいですか?」
「は、はい、是非とも、紫苑様のロイヤルミルクティーを、碧月は頂きとう御座います!」
すると、貴賓室のドアが、ばーーんと開かれ、現れた男が
「私も、是非頂こう!」
「お……お父様⁉」
すると、開けられた扉から、大柄だが、適度な筋肉の鎧をまとった、確実に喧嘩は強そうだが、自分からは手を出さなそうな、威厳・オーラ。間違いない、碧月の父親だ……
紫苑は、瞬時に熟考する……さてどうする?……って、詰んでね⁉
「執事から、君がいらしていると聞いて、会社のミーティングルームからダッシュで、ここまで来たよ。私は『朝倉
紫苑は、胸が熱くなった、自分の紅茶を熱望されてる方がいる。理由は、それだけで十分だ。
「碧月さん、厨房の冷蔵庫を拝見しても宜しいですか?」
「えぇ、どうぞご自由に」
さて、と、ホテルの厨房みたいな冷蔵庫をのぞいていると、お、あった、普通の生乳……案の定、「高い」牛乳だった、まあ材料のクオリティは結果に影響を成す……
お、「これ」も、あったか、ふふ二人を喜ばせそうだ。
ミルクティーを作り終え、二人のテーブルに着く、給仕が、涼丞と碧月のカップにロイヤルミルクティーを注ぐ。
紫苑は、
「さて、まず一口は、そのままでお召し上がりください」
紅茶を口に含んだ二人は、……驚愕した……
(な、何、このバランスのとれた香味⁉)
(燦之宮紫苑が紅茶に造詣が深いのは、存じていたが、これほどとは……)
「では、次は、ミルクポットに入ってる生クリーム15ccを入れて、召し上がってください」
親子は目を合わせ、コクリと頷き、ミルクを入れ、口にした……
(……な、なんだ⁉このコクは⁉今まで味わったことがない)
(何ですの……?このコクと、まろやかさ……でも、茶葉の風味は、生かされている……)
二人が、ぽわ~と惚けていると、
「僕がロイヤルミルクティーを飲むときは、このスタイルなんですよ」
父の涼丞は、紫苑の両の掌をにぎり、
「執事に聞きました、先刻、娘を助けてくれたこと感謝します、あと、この様な紅茶の世界を見せてくれたことに、有難う」
紫苑は、頬を人差し指でショリショリしつつ、
「いやあ、恐縮です、紅茶を褒めて頂きありがとうございます……はは」
すると、碧月が神妙な面持ちで、
「紫苑様、どうか、私を『弟子』にして頂けないでしょうか?」
「……え、弟子?」
碧月は父の顔を見て、
「私は、紫苑様の武術の技に感銘を受け、紅茶の素晴らしさに、ときめきました、どうか、お父様、紫苑様のもとで、『燦流古式武術』と『紅茶道』を修める道を、お許し願えませんか?」
紫苑は、(……紅茶道?)
父の涼丞は、
「うん、お前は、昔から、これと決めたことには、猪突猛進だからな、良いぞ」
涼丞は紫苑の目を真っすぐ見つめ、
「紫苑殿、どうか、不束者の娘ですが、どうか厳しく、御指導ください」
「……え、あ、はい承知いたしました」(ってか、勝手に話進んで、僕の意見なしかよぉ~⁉)
碧月が、
「これから、どうぞよろしくお願いします。御師匠様!」
紫苑は、えええ~と、なりながら、
「あぁそうだ、紫苑殿、車を用意させてあります、碧月、お前も一緒に、お送りなさい」
「はい、お父様!」
胴体の長い、超高級外車に案内され、二人で談笑を交わし、燦之宮の家に着いた。車を降り、
「今日は、御招待頂き、ありがとう、今度、僕の家にも招待するね」
「はい……本日は、濃密な一日でしたわ……嬉しくて寝れそうにありません……」
「はは、睡眠は、美しさのために重要だから、しっかり寝なね」
碧月は頬を赤らめ、
「はい……御師匠様、ごきげんよう」
車を見送り、玄関のドアを開け、靴を脱ぎ、「だはははぁ~」と寝転がった、あぁ……はは、やっと解き放たれた……はは、すると、紫月が来て、
「あら、紫苑お兄様、紅茶葉買うのに、随分と遅い御帰りでしたわね、……と、いうか何でそんなに、お疲れですの?お風呂を用意しますので、ゆっくりしてくださいね、ふふ」
紫苑の激動の一日が終わった……はは、
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