第5話 男の子の純粋な告白
中間テストが終わり、成績表が張り出された。この超名門の凌雲館高校では、一学年300名のうち上位30名しか表で張り出されない、生徒を煽るというのも、言葉は違うが、生徒同士の切磋琢磨を促しての処置だろう。学年トップは、紫陽と紫苑、同点で首位だ、ただ二人とも満点ではなかった首位、張り出された表を紫陽と紫苑が眺め、
「あ~~ぁ、今回は勝ったと思ったのになぁ~~」
「まさか、それぞれ、凡ミスで拾い損ねたなあ」
「紫陽は物理と英語」
「紫苑は日本史と古文か……珍しいな、お前が古文ミスるなんて、はは」
「……ん~~深読みし過ぎたかな」
「お前は、古文大好きだから、逆に響いたかな、へへ」
「そういう紫陽も、物理ミスるとか珍しいね、同じ理由じゃん?」
「多分な……」
遠巻きに見ていた生徒たちは、あまりに高度な掛け合いに言葉も出ず、固唾を飲んでいた。生徒の皆は、(あのデュアル・プリンスは次元が違い過ぎる……)と、たじろいでいた、トップが二人なので、次点の者は三位になる、二人に総合点で35点も開けられている、かなりの溝だ。そんななか、一人歯を食いしばり、ワナワナと、デュアル・プリンスを恨めしそうに、睨め付ける男がいた。学年三位、彼の名は「綾之宮賢一」父が国会議員、昔から続く世襲政治家の系譜の人間だ。「燦之宮三兄妹」とは、幼稚舎から一緒だが、デュアル・プリンスには、一度も勝ったこともない、それが、妬ましくてならなかった。勉強でも、運動でも。
ただ彼は顔立ちも良く、運動神経も良い、身分(?)も良いので、普通にモテる。ただ、彼は、デュアル・プリンスに一度も勝ったことがないので、父親からは、𠮟責されてるらしい。
(……くそ……必ず見てろ……絶対勝って見せる……っく)
紫陽が廊下を歩いていると、同じクラスの五人の男子が、
「紫陽様、どうか勉強のコツと、言いますか、要点を教えて頂けませんか?」
紫陽はキョトンとした、今までクラスメイトに頼まれ事など、されたことが無かったからだ。入学してから、弟とデュアル・プリンスと呼ばれ、皆は自分を遠巻きに見られていたので、その言葉には、正直嬉しかった。
「良いよ、今日は、café休みだし、図書館行こうか」
男子たちは、ヨッシャ、みたいに喜んでいる。なぜか紫陽も微笑ましかった、今までは、まともな交流がなかったから……
図書館に着き、男子五人は着座し、背筋を伸ばす、すると紫陽は、
「おいおい……そんな緊張してたら、脳みそに入らんぞ、将来、会議やミーティングで、そんなだと、舐められるぞ、へへ」
紫陽の一言で皆の緊張が解けた感がした
「あと、『様』付けは止めてくれ、せめて『君』付けで、むしろ、呼び捨てでかまわない」
「呼び捨てなんて、無理ですよ、では『君』付けで」
「分かった、じゃあ始めるぞ、誰は、どこが分からない?そこを把握しないと、俺も教えづらい」
「紫陽君、この数学の問題なんだけど……」
「数学は、一にも二にも公式だ。徹底的に、暗記しろ」
「は、はい!」
「紫陽君、日本史なんだけど、なかなか成績上がらず……」
「日本史なんてのは、暗記が全てだ、……そうだな……俺の暗記法としては、白紙のノートに年代なり、年号、その時の争いを、反復に書くことだな。書くと覚えが早い」
「そんな勉強法が……」
そんな男子五人に周りの御令嬢たちから鋭い視線が突き刺さる……
(なんで男が紫陽様に御教授頂いてるのよ……)
(紫陽様を冴えない男どもが囲うなんて……許せない……)
男衆五人(とはいえ、皆、かなりいい所の家柄)は、内心(ひょえ~……)と、なっていたが、紫陽は気づいていない様子で勉強を続けた。
ひと段落つき、紫陽は
「よし、今日はここまで、長くやっても、効率的ではない、それぞれ思った課題を反芻して、次に繋げろ」
男衆のひとりが、
「イエス‼‼boss、って言いたくなりますよ、本当の現実社会のミーティングとか会議は、こういう感じなんでしょうね、別の意味でも勉強させて頂きました!」
紫陽は……そうか、彼らも、ジャンルは違えど御曹司だよな……部下に指示をする立場になる……まぁ参考になれば……って、俺で良いのか?
「ありがとうございました!紫陽君!」
「あぁ、じゃあな」
皆と別れ、帰路に着こうと、歩くと、後ろから、ととととっっと、近寄る音がする、振り返ると、さっき勉強会にいた一人「
「……え、どうした?」
「……ぅん、なんかごめんね、今日、仲良くなれたのに、こんなこと言って……」
「??」
「僕!紫陽君が好きなんだ‼恋愛として……貴方を入学式の時に見て、僕は一目ぼれしちゃったんだ……最初は、憧れだろうと、思ったけど、違った……いつか、この気持ちを伝えたかった……」
紫陽は、優しく微笑み、
「……そうか、俺のこと好いてくれてありがとな、でも、お前の気持ちには応えられない……」
「……はい……分かっていました、でも、僕は伝えられたのが、本当に嬉しいです、僕の気持ちに、正面から向き合ってくれて、ありがとうございます‼」
彼は、パッと、晴れやかな笑顔をした。
「なぁ、蒼宮寺、時間あるなら、『紫庵』来ねえか?」
「え⁉あの店は、未成年者は入れないですよね⁉」
「ん?今日は休業日だから大丈夫だ」
「で、でしたら、是非……お願いします」
紫陽のあとをオズオズとついてゆき、お店に着いた。
蒼宮寺は、ほへえぇ、と紫庵の外観を見上げ、紫陽のあとについて、店内に入った。
店は休業日だが、パティシエの兜塚がなにやら新作を模索するため、店にいた。
「おや!紫陽様、御学友と御一緒に」
「まあ、野暮用だ……蒼宮寺、その辺のカウンターに座ってくれ」
「あ、はい」
紫陽は制服の上衣を脱ぎカウンターに立った、エスプレッソマシンに、水を注ぎ、電源を入れる、ホルダーに粉を入れ、マシンにセットし、抽出する。
「蒼宮寺、エスプレッソ飲んだことあるか?」
「いえ、本格的なものはないです」
紫陽は出来上がったエスプレッソを蒼宮寺の前にスッと置く。
「まあ、一口飲んでみろ」
「は、はい」
に、苦い……コクはあるが、に、苦い……でも紫陽君が淹れてくれたものだし……
「どうだ?」
「コクがあって、美味しいです」
「嘘をつくな、顔でバレバレだぞ、はは」
紫陽はグラニュー糖の入った瓶を置いた
「これって?」
「この砂糖を三杯入れて、ゆっくりかき混ぜろ」
「え⁉この小さいカップに三杯も?」
砂糖を入れ、恐る恐るかき混ぜた
「飲んでみろ」
そう言われ口にすると……
「……あれ、苦い……けど、甘さと調和されて深いコクが際立っている……すごい……」
紫陽は
「なんか苦い思いさせたから、美味しい『苦い』で、帳消しってことで、はは」
「エスプレッソってこんなに美味しいんですね……」
「なあ、蒼宮寺……いや『楓』俺の友達になってほしいんだが……」
彼は、スクっと立ち上がり
「僕も紫陽君の『友達』にさせてください!」
「ありがとうな、はは」
すると後ろから、パティシエが来て、
「エスプレッソだけだと、砂糖入れても苦いでしょ、試作品のシフォンケーキです、ラズベリーを織り交ぜました、紫陽様、蒼宮寺様、どうぞ、エスプレッソと合わせて試食してください」
「ありがとう、頂くよ」
「ありがとうございます」
紫陽にとって、本当の、将来無二の『親友』が出来た瞬間だった……
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