君が殺した僕
高校生の湊(みなと)は、誰にも言えない“生きる理由”を見失っていた。
家族とも冷めて、友達はいても孤独だった。
誕生日の夜、橋の上から空を見上げていたとき、
「落ちる前に、お願いがあるんだけど」と、突然現れた少女が言った。
「明日も、生きててくれない?」
初対面なのに、彼女は自分の名前も誕生日も、過去にやった小さなことまで知っていた。
名前は凛音(りおん)。
不思議な、でもどこか懐かしい雰囲気の少女だった。
凛音はやたら詳しかった。
明日の天気、起こる出来事、誰がどこで転ぶか――全部知っていた。
「なんでそんなに何でも知ってるの?」
「うーん……ちょっと、君より未来を歩いてるだけだよ」
最初は冗談だと思ってた。
でも、彼女が未来から来たという証拠が、いくつも現れた。
凛音は言う。
「私は、君が死んだ未来から来た。
17歳の冬、君は自ら命を絶った。
私は、それを止めに来たの」
「……なんで、そんなことを?」
「君が私を救ってくれたから。だから今度は、私が君を救いに来たの」
でも、湊には“そんな記憶”はなかった。
凛音の言う「未来」は、自分の知らない“可能性”でしかない。
彼女と過ごす日々は穏やかで、あたたかくて、
知らず知らずのうちに、湊は“生きたい”と思い始めていた。
でも、ある日彼女がポツリと漏らす。
「本当はね、何度も来てるんだよ。この時間に。
だけど、毎回……君は、最期を選ぶ」
彼女は“何度もタイムスリップして、湊を救おうとしてきた”。
でも全部、失敗してきた。
「私、未来で泣いてばっかだった。
君に出会えたのに、いつも君はいなくなる」
凛音が持っていた写真。
そこに写っていたのは、見覚えのない、少し年上になった自分と凛音。
手を繋ぎ、笑い合っていた。
それは――「一度だけ成功した未来」。
一度だけ、湊は死なず、凛音と未来を歩いた。
だけどその未来は崩れて、湊は事故で命を落とした。
それ以来、凛音は自分の命と引き換えに、過去に戻ってきていた。
「湊。あなたが死ぬたびに、私の時間が削られていくの。
でも……それでも、何度だって、あなたに会いたかった」
冬の夜。
橋の上。
再び、17歳の湊が“その場所”に立ったとき――
今度は凛音が言った。
「もし、私がここからいなくなっても、君が生きてくれるなら、それでいい」
凛音は、過去に来る代償として“存在ごと消える運命”を背負っていた。
湊は叫ぶ。
「ふざけんな!今度は俺が、君を救う番だろ!」
凛音の姿が、薄れていく。
最後に、彼女が涙と笑顔で言った。
「ありがとう。
私の大切な人に、未来を返してくれて。」
春。
湊は、生きていた。
凛音の記憶は消えていた。
でも、心の奥にだけ、あたたかい何かが残っていた。
机の中に、ひとつだけ入っていたもの。
「未来で君と出会った私より」
手紙には、こう綴られていた。
「あなたが生きてくれてるって思うだけで、私は幸せでした。
だから今度は、あなたが誰かの“未来”になりますように。」
タイムスリップ恋愛シリーズ @ha_ruka_4156
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