第2話 天使と転生
目が覚めると、俺は――ちょっと待て、目が覚めると?!
土曜日の二度寝のごとくふわふわとしていた意識が、急にはっきりとしてくる。そのまま慌てて体を起こして、周りを見渡した。あの状況から助かったのだとしたら、俺は病院で治療を受けるなり入院なりしているはず――が、そこはまるで見覚えのない場所だった。
クリーム色の空間がどこまでも続いていて、地面(?)のあたりにはドライアイスの靄のようなものが漂っている。誰かがいる気配もないが、不思議と不安な気持ちはない。むしろ、何故か安心してしまうような雰囲気さえある。
頭から血は出ていないし、両手両足はしっかり動く。ただ、目の前の光景はあまりにも現実感がない。なるほどこれは……。
「……あの世、ってやつか?」
「はぁーい、その通りでーす」
「――っな?!」
まさかの独り言に返事が返ってきた。声のした方に振り向くと、何ともやる気のなさそうな女性が机に肘をつきながら手を振っていた。
机には、「転生係」と書かれたA4の紙が貼りつけられており、女性の手元にはビンゴ大会でお馴染みのガラガラが置いてある。
……近付きたくない、なんか大切なことがすごく適当に決められそうな気がする。
「いやいやいや、何もまだ言ってないじゃないですか~、勝手に悲観しないでくださいよぉ」
「勝手に心読まないでくれよ……」
「まぁ? そこは? 天使の特権ということで~」
「あ、やっぱ天使なんだ」
こっちこっち、と手招きされてしまったので、渋々机の前まで歩く。近くで見ても、ビンゴで使うガラガラだった。
挙句、机の上に「転生者リスト」と記載された資料がドンと置かれている。なんか氏名やら享年やら死因やらが書いてるんだが? 普通に見えてるんだが? おいこらあの世には個人情報保護の概念ないのかよ。
「……で、このガラガラを回して生まれ変わればいいのか?」
「あっはぁ~、おにーさん話がはやぁい。でも、その前にやることがあるんですよぉ? ――まずは、『人生ポイント』の精算~」
「は? 人生ポイント?」
突然湧いて出てきた天使とかいう存在
「いいですかぁ? あなた方人間は、人生の中で良いこともすれば悪いこともしますよね? その中で、他人によい影響を与えたり、だぁれも見ていなかったとしても、いわゆる『善行』を行ったりしたら、『人生ポイント』が加算されまぁす。
逆に他人に害を与えたり、誰も見てないからって悪いこと……まぁ例えば万引きとかぁ? しちゃったら、『人生ポイント』は引かれていっちゃいますぅ。
でー、お亡くなりになったタイミングで、そのプラスマイナスを私たち天使が計算してぇ、結局何ポイントになったかで~、次の人生のグレードが変わるわけですよぉ。
まぁ、ソシャゲっぽく例えるなら? ポイントに合わせて、このビンゴマシーンの中身に入ってるレア人生の排出率が変わる、と思っていただいてけっこーです」
「天使もソシャゲとか知ってるんだ……」
「いちおー、いろんな人間の人生を見守っているんでぇ。時代に追いついていかなきゃなんですよ~。ま、こんな感じで説明はいじょーですが、ご質問はありますかぁ?」
……とりあえず『人生ポイント』とやらが何かわかった。そのポイントが高ければ高いほど、次の人生は良くなるって事か。
俺の今生が何ポイントだったかわからんが、悪いことも良いこともそんなにやってないから、平々凡々な来世ガチャになるわけか……
と、そこまで考えたところで、ふと閃いた。――ソシャゲ的な発想なら、
「『人生ポイント』の繰り越しはできないのか? プラス分を来世に持ち越して、次の人生で加算された『人生ポイント』と合算して、その次――つまり来来世の人生のグレードを上げる、ってのは可能なのか?」
思いついた内容そのままを口にすると、天使は一瞬目を丸くした。が、すぐににんまりと笑って、何故か拍手をしだした。
「さっすがおにーさん! いやぁ、昔から変わらないですなぁ~」
「は? いや昔からって、どういう……」
「おにーさんからその話を聞いたの、これで7回目ですよぉ~? いやぁ、今までいろんな人の転生見守ってきたけど、こんなに変わらない魂もあるもんですねぇ~!」
ま、おにーさんから、というか、おにーさんの前世やら前々前世やらから聞いた、というのが正確なところですけどね~。なんて言いながら、天使はケタケタと笑った。
やりたかったことがすでに達成されていることを喜べばいいのか、7回生まれ変わっても変わっていない己の性根を嘆けばいいのか、少し微妙な気持ちにはなったが、結果オーライとしよう。
「あー、じゃあ俺の今までの人生ポイントを加算したら、来世はどうなるんだ?」
「はー、笑った笑ったぁ……あぁ、ハイハイ、そんじゃ、計算しますね~。ンー……――ん? お? ……あぁ~、なるほどぉ? あっはぁ~、これはこれは~」
「え、何、怖いんだけど」
「……いやぁ、おにーさん、おめでとうございますぅ~! 『人生ポイント』、上限まで溜まりましたぁー!」
どこから取り出したのか、天使はカランカランとベルを鳴らして、高らかに声を張り上げた。俺しかいないんだからそんな大声出さなくても聞こえるって。
「上限?」
「はい~、上限まで溜まった方には、特典としてお好きな来世へご案内しておりまぁす。今まで生きてた世界だけじゃなくて、異世界への転生も可能でぇす。あとはー、オプションで、記憶の持越し、チート能力、寿命の延長、なんかもありますよぉ?」
「ちょ、ちょ、え、流石に話が急すぎて」
「まぁまぁ~、こういうのは深く悩まないほうがいいんですって~。さぁ、ご希望の来世はどんなのですかぁ?」
「顔が近い!」
何かすごいこと言われた気がするが、お好きな来世? 異世界も可能??
もうここまで現実的ではないことや、急な展開が続きすぎて、若干疲れてきた。大体、俺の感覚としてはついさっき死んだばっかなのに、もう次の人生の話をされても……
気力が尽きてきた俺は、またもや思いつくままに口を開いた。
「あー、じゃあ、魔法とかがあるファンタジー的な世界とかいけるのか? せっかくだったら『俺』のまま魔法使ってみたいから、記憶の持越し? というか、俺自身がそのまま転生するとか……あー、でも子どもからやり直すのはめんどうだな……。この年から誰かと暮らすのも気を使うし……どっちかというとのんびり過ごしたいんだよなぁ――」
「はぁーい、来世のご注文いただきましたぁ~!」
「はっ?! ちょ、まっ――」
天使が先ほどのベルをさらに強く鳴らすと、俺の足元の空間がぽっかりと空いた。思わず体勢が崩れたが、何の力が働いているのか俺の身体は穴の上に浮いたままだった。
「
「いや気になるだろ俺の人生だぞ!?」
「まぁまぁ、任せてくださいよぉ。では、良き来世を~~」
「聞けよこの野郎!!!――ぅおあ?!」
流石に適当すぎる対応に、二言三言文句を言ってやろうとした瞬間、突然足元の重力が正常に働き、俺はまた背中から落ちていった。覚えのある感覚に、何もないはずの後頭部がずきりと痛む。クソ、この短期間で浮遊感がトラウマになりそうだ!
天使がムカつくニヤケ顔で手を振っているのを見ながら、
またもや暗転。
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