第3話 四大元素
キンと冷え切った寒空の下、いつものように庭先で薪を割っていく。パキッという音と共に地面に転がった薪を拾いながら、白い息を吐いた。
この世界に来て、何だかんだそろそろ一年か……
――あの日、にやけヅラの天使に見送られた俺は、この家の中で目が覚めた。部屋には一通りの家具が揃っており、目の前のテーブルには『この世界について〜入門編〜』という本が置かれていた。
(本の裏表紙を見たら<著:天使☆>と書いてたので、反射的に暖炉に投げ込んでしまった。火がついてなくて良かった)
その本によると、どうやらこの世界は、本当に「ファンタジー的な異世界」らしい。
人々は、『四大元素』と呼ばれる、水・火・大気・土の四つに分類される様々な魔法を操りながら生活をしている。そしてこの四大元素のうち、どれと相性が良いかは人それぞれだそうだ。
相性を測るには、「元素測定」を行い、そこで自分に四大元素のうちどの元素が強く宿っているかを確かめる。以降は基本的に、「元素測定」の結果に合わせた魔法習得をしていくのが一般的、とのこと。
が、どうやら俺は4つの元素全てと相性がいいらしい。備え付けの本棚にあった『一人でできる!元素測定の本』を使って確認してみたところ、本がミラーボールのごとく4色にビカビカと光ってしまった。(本来であれば、相性のいい元素の色のみが光るという説明だった)
これも転生オプションなのだろう。まぁ、便利なのでありがたく使わせてもらっている。
さらに、各魔法ごとに相性の良い季節もある……とのことだったので、この1年はもっぱら色んな魔法を試しまくっていた。魔法の使い方は、本棚にあった各種指南本――『水魔法入門』やら『元素測定が土属性の方におススメの魔法』やら『超上級!生活が楽になる魔法100選』――を参考に覚えていった。
例えば、今は冬だから「土」の魔法の効果が上がる。だから――
「よし、薪はこんなもんか。……さて、
手をかざしながら呪文を唱えると、若干雪や水分を吸っていた薪が一気に乾いていく。よしよし、よく燃えそうだ。今日も寒いからな、暖炉をフル稼働させなければ。
「よぉー、ハットリの旦那、今日も精が出ますナァ」
「……なんだ、また来たのか」
「なんだとはひどい言い草じゃあないカ。せっかく良い品と良い情報持ってきたってのにサァ」
「ふーん。ところでこの前渡した茶葉、売れたか?」
「エェ、エェ! そりゃあ売れましたとも! 旦那の腕前は世界一ですからネ、作られるものも全部一級品ばかり! いやぁ、ぜひ魔法のコツを教えてほしいもんですワ」
「はは、お世辞がうまいな。まぁ、企業秘密、ってやつで」
「ほォ、キギョウ、とは……?」
「あー、なんでもねーよ。とりあえず上がってけ。飲みものくらい出してやるよ」
さっすが旦那ァ!じゃ、あったかいお茶でお願いしますネ、なんて調子の良いことを言いながら付いてくるこの男は、各地を巡る行商人だ。名前は知らん。基本的にこの家でしか会わないから、「お前」とか「おい」で事足りてしまう。
この世界に来て間もないころ、魔法を覚えながら生活基盤を整えていた俺のところへコイツがやってきた。
――初めまして、旦那ァ。この家、ずいぶん長いこと空き家だったが、あんたが住みなすったんだねェ……。ア、自己紹介がまだでしたネ。あっしはしがない行商人でさァ、何かお困りごとはありますかィ?
第一印象が胡散臭いことこの上なかったが、意外にも誠実なやつで、異世界1年生の俺にもわかりやすく商品やこの世界の常識を教えてくれた。ものを知らない理由をぼかしたせいで、世間知らずのボンボンがいい年になって実家を追い出された、と思われてるみたいだが……
何はともあれ、こいつには本当に助けられている。欲しいものを仕入れてくれて、逆に俺が作った薬草や果物、茶葉なんかをそこそこの価格で売り捌いてくれる上、売り上げ金のうち8割も俺に渡してくれるのだ。
「だって、どうせ旦那のお金はアッシの商品を買うことにしか使わないでショ?」と言われてしまったが、その通りすぎてぐうの音も出ない。コイツのおかげで、俺の引きこもりライフは維持されているのだ。
「適当に待ってろ、準備するから」
薪を抱えながら、行商人に声をかける。いそいそとテーブルにつくヤツを横目に、俺は暖炉へ直行した。
部屋も冷えてきたし、とっとと薪の追加を――、って火が消えてるじゃねえか! 流石に暖炉に火を入れないと、この家の温暖魔法も効果が薄まるんだよな……
薪を暖炉にくべて、その上で円を描くように手を回す。すると、暖炉の中心に小さな炎が現れた。ふわりふわりと燃え上がりながら周囲の薪に火を移していき、あっという間に暖かな空気が部屋に広がっていった。
「
「あー、いや、なんていうか、感覚的なもんだから……、教えるとかはちょっと……」
多分、転生オプションの恩恵だと思うし。という言葉は飲み込んで、行商人をなだめる。まだ何か言いたげなコイツの意識をそらすべく、当初の目的に話を持っていった。
「で、良い商品と良い情報ってのは?」
「アァ! そーだそーだ、失礼しましたァ。良い商品と良い情報、ネ。 ――いやァ、今回のはホントのホントにとっておきなんですヨ?」
「ずいぶん勿体ぶるな、なんだ、そんなに良いもんなのか?」
俺の問いに、行商人はニヤリと笑いながら答えた。
「――旦那、『空飛ぶ箒』、作れるかもしれませんヨ?」
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