過去の出来事と未来への想い

2月に入った、ある木曜日の午後。

優はゆずと会っていた。

「ゆずくん、話って?」

「悪いな、学校終わりに。…海のこと、話しておきたくて」

「………ああ。ザックリとだけど、海から聞いてるよ。“能力”のこと、解決したんだって?」

「うん」

「で?復縁したの?」

「いや、まさか。1番近くにいるために、親友宣言してきたよ」

「ゆずくんらしい。それでいいの?後悔はしてない?」

「……してないっていえば、嘘になるな。あ、今更だけど何か頼むか?お昼食べた?」

「本当に今更だね。食べてない」

「俺の奢りだぞ」

「ありがと」

ゆずからメニューを受け取り、何を頼むか吟味する。

近くのベルを鳴らし、やって来た店員に注文を済ませた。

ゆずに目を向けると、彼は何も頼んでいないようだった。

「優には、世話になったな」

「別に、何もしてないよ。…で?親友宣言とやらは、どんなものなの?」

「海が“能力”を小説に活かすお手伝いをするんだよ」

「アシスタントってこと?」

「そうだな」

「ええーそれってさ、」

首を傾げるゆずを、斜めに見ながら目を細めた。

「付き合ってるのと、変わらないじゃん」

「!な、何言って……」

「本音はそっちなんじゃないのー?親友宣言とか体良く言っておきながら、「能力をうまく使うお手伝い」をするためにはそばにいなきゃでしょ?2人とも進路違うのにさ。……同棲でも始めるつもり?」

「ばっ…!何言って!別に、そんなつもりじゃ」

照れているのか焦っているのか、ゆずの顔を真っ赤に染まる。

それが面白くて、優はニヤニヤと笑う。

(本当に、もどかしい。…だけど、復縁を言い出さなかったのは)

海にその気がないと思っているからだろう。

ゆずは顔を真っ赤にして、片手で口元を覆っている。

「海は、復縁したいって言っても承諾すると思うよ」

「え?」

テーブルのそばにやって来たロボットから、料理皿を取りながら言う。

ゆずは首を傾げていた。

「だって海、ゆずくんのこと嫌いじゃないし」

「?俺だって嫌いじゃないけど。海の好きは、俺とは違うだろ?」

「………それ、本気で言ってる?ゆずくん、鈍いよ」

パスタが盛られた皿をゆずの前に置きながら、ため息をつく。

(本当に、わかってないのか…?)

ハンバーグを切り分けながら、ゆずを見た。

「2人が別れたのって、喧嘩別れじゃないでしょ?気持ちが冷めたわけでも」

「ああ、能力の関係で別れたからお互いに嫌いになったわけじゃないぞ。……………え?」

パスタをひと口食べて、ゆずが目を見開いた。

優の言いたいことに気付いたのだろう。

(すごく嬉しいけど…)

目の前のゆずは、あまりにも間抜けだ。

優は笑いを堪えながら、ハンバーグを食べる。

ここまで言ったのだからただの親友としてそばにいるなんて言わせない。

「で?どうします?ゆずくん」

「どうするって……もし、海も同じ気持ちなら…俺はー」

「……ゆずくんの思うままでいいんだの。今思ってること、海にそのまま伝えてよ」

「うん、わかった。ありがとう、優」

ゆずが柔らかに笑ってパスタを食べる。

優をハンバーグを食べながら、ゆずがこんなにも鈍かったのかと驚いた。

(こんなに鈍い兄は、嫌だなぁ)

優は苦笑しながら海の苦労を気の毒に思った。

「今度はちゃんと捕まえててよね、兄さん」

「!?……兄さんて……」

「俺は2人に結婚してほしいと思ってるよ。ゆずくんは俺にとって、憧れだし」

「ええ!?……嬉しいけど、結婚は……」

「頼んだよ、兄さん」

ハンバーグを食べ終えて、お茶を飲みながらニヤリと笑う。

ゆずは参ったと言いたげに、額を押さえていた。

(本当に結婚したらいいのに)

そうすれば、2人は一緒にいられる。

優だって憧れの背中を追いかけることができるのだ。

「ゆずくん。俺も教師を目指してるんだ。だから、いつか一緒に働こう」

「………優。おう!約束だぞ!」

教師になりたいと思ったのも、誰かの思いに寄り添いたいと思たのもゆずのおかげだ。

ー過去のことは悔やむより、未来へ進む力に変えていく方がいい。

(だってー)

 パフェを食べているゆずを見て、口元を緩める。

ーゆずくんも、海も、モカも皆、頑張っているのだから。

ー俺も、立ち止まっていないで進むだ。

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