告白

翌週の日曜日。今日は、モカと会う日だ。

駅近くのベンチに座りながら、空を見上げた。

(何だか、モカちゃん緊張してるみたいだったなあ)

何となく、彼女がミアを呼び出した理由はわかっていた。

ゆっくりと視線を下すと、駅から走ってくる女の子が見えた。

「ミアさーん!お待たせしました!!」

「ううん、待ってないよ」

言いながら立ち上がり、モカに笑いかけた。

彼女は肩で息をしながら、照れたように笑っている。

「…すみません……行きましょうか……」

息を切らしながら言うモカの肩を撫でて、ミアは歩き出した。

近くのゲームセンターに入り、クレーンゲームをする。

「あ!もうちょっと!!」

「……待ってね〜。……やった、取れた〜!!」

受け取り方に落ちてきたウサギのぬいぐるみを取り出して、ミアは満面の笑みを浮かべる。

モカも嬉しそうに目をキラキラさせていた。

「ありがとうございます!ミアさん!!これ、本当に貰ってもいいんですか?」

「もちろんだよ!!そのために取ったんだから」

「……ありがとうございます」

モカはぬいぐるみを抱きしめる。

(可愛い)

その笑顔が可愛くて、ミアもつられたように笑う。

しばらくクレーンゲームで遊んだ後、プリントシールコーナーに入る。

「プリ撮りたいです!ミアさん、どれがいいですか?」

「モカちゃんが決めてよ。さっき、ぬいぐるみ取ってもらったし」

「それはお互い様じゃないですか!よし、それなら私たちの撮りたいのを2つ撮りましょう」

「おー!いいね!モカちゃん、先に選んでいいよ」

「ありがとうございます!えーと、これで撮りたいましょう!」

モカが財布から小銭を取り出す。

500円を入れようとするので、ミアは持っていた300円を見せる。

「待って!モカちゃん。300円出すよ」

「いいんです!ここは私が出しますから」

モカは珍しく、頑なに言い張った。

この様子では500円出すことを譲るつもりはないようだ。

ミアは大人しく小銭をしまい、財布をカバンに戻した。

その間に、モカは撮影するモードを選択する?

「どれがいいですか?コラボもあるみたいですけど」

「いつものがいいな。可愛いモカちゃん、見たいし」

「わかりました!じゃぁ、こっち。……ポーズどうします?いくつか選べるみたいですけど」

「ハートしたいな」

いくつかの設定をこなし、撮影コーナーに移る。

「モカちゃん」

「はい?」

「私、モカちゃんと遊びに来れて嬉しいよ。ありがとう、誘ってくれて」

「私も嬉しいです。ミアさんに会えて、一緒に遊んでくれて…ありがとうございます!」

カメラの前に立ち、モカは今までで1番の笑顔を見せた。


「可愛いー♡ミアさん、本当にありがとうございます!お昼も、美味しかったですね!!」

「そうだねー、私もありがとう。モカちゃんもすっごく可愛いよ♡ありがとう、2枚も撮ってくれて。ご飯も美味しかったね。今から、どうしようか」

プリントシールを撮り終えて、カフェへでご飯を食べた頃には日が傾き始めていた。

気のせいか、モカが心なしかソワソワしているように見える。

(どうしたんだろう…)

辺りを見回すと、綺麗な夕焼けの見える公園が目に入る。

あそこなら、日が沈むのを見ることができるしゆっくり話すこともできそうだ。

「モカちゃん、あの公園行かない?」

「え?いいですね!行きましょう!」

横断歩道を渡り、右に曲がってすぐの公園に入る。

公園内は、ブランコとベンチ、滑り台が置かれていた。

ベンチは少し傾斜に置かれていて、ちょうど太陽が見られる位置だった。

「あの、ミアさん」

「ん?」

「私、ミアさんに会えて、すごく嬉しかったんです。ミアさんの書く小説にもすごく感動したし、実際に会って憧れは強くなりました」

ベンチに座り、静かに話し出すモカをミアは何も言わずに見つめる。

彼女の視線は、夕日に向いていた。

「ミアさんの書く小説は、いつだって、柔らかくて暖かいものでした。悩んでいることが、どうでも良くなるくらい夢中になれたんです。私も、書いてみたいと思ったんです。実際に書いたら楽しくて、もっと本が好きになりました」

「………ありがとう、モカちゃん。私が目指す小説を応援してくれて」

「……お礼を言うのは、私の方ですよ……。ミアさんと会えたから、“好き”を追う楽しさを知ったし夢中になるものができたんです。……私の小説への想いは変わりません。……ミアさんに、憧れた気持ちもー」

モカの手に乗せていた指が、ピクリと動く。

彼女はミアの手に指を絡めながら、こちらを向いた。

「ー好きです、ミアさんのことが。…ミアさんが、誰を好きかはわかってます。だけど……私がミアさんに憧れていることは、忘れないで下さい。好きになって、よかったです」

「…モカちゃん……ごめんね、ありがとう…」

ミアの手を握り、モカは泣きそうな顔で微笑んだ。

その手から、表情から、言葉からどれだけミアを好きなのかが伝わってくる。

「私のこと、好きになってくれてありがとう…私の気持ちを尊重してくれてありがとう。私も、モカちゃんに憧れを抱いてるよ。大切に思ってる。

あなたは、私のー…親友だから」

親友、という言葉にモカが手の力を強くした。

次の瞬間、グイッと引き寄せられる。

「……………ありがとうございます……親友って言ってもらえて……嬉しいです」

その背中を抱きしめると、震えていた。

ミアに告白して、関係が崩れるのが怖かったのだろう。

(だけど、私はー。そんなことはしたくない)

ズルイとわかっていても、モカを突き放すことはできなかった。

だから親友だと言ったのだ。

抱きしめ合う2人を、沈みゆく夕日が見守っていた。

ー私も、伝えなくちゃ。

手遅れになる前に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る