溢れ出す想い、伝えるための勇気

年が明けて、1週間ほど。

新学期が始まった。1ヶ月後には公開入試だ。

(早いなぁ。3月には卒業だもんね……。春になったら沙樹くんとミアさんはー)

同じ大学に通うことになるのだ。

その事実に、胸がズキリと痛んだ。

2人は卒業しても、同じ大学に通うことができる。

学部が違うとしても、4年間は一緒だ。

だけど、モカはー。

(私が高校に進学する頃には、ミアさんたちは大学生だもんね)

もし、モカが彼らと同じ大学を目指したとしても1年間だけしか一緒にならない。

そう考えると、ミアとの時間はすごく少ないように思えた。

思わず立ち上がり、電話をかける。

「もしもし?今から会える?」

電話の相手は、2つ返事で答えた。



「やっほ、沙樹くん」

「モカ。急に会えないかなんて、どうした?ミアのことか?」

「そうだよ。……私、ミアさんに告白する。ミアさんが他に好きな人がいるみたいなのはわかってるけど、会えなくなるのは嫌なんだ」

「そうか……俺も、同じこと考えてた。俺は、大学でも会えるけど友達関係をズルズル引きずるのも嫌なんだ」

「そう、だね。私たち、同じ気持ちなんだ。…だけど沙樹くんは、心配しなくていいんじゃない?笑ってなよ」

「え?どいういう」

「わかんないならいい。じゃ、言ったからね」

戸惑う沙樹を置いて、公園を出ていく。

『沙樹くんは、心配しなくていいんじゃない?』さっき自分で言った言葉が、胸に刺さって痛い。

(わかってたじゃん)

ミアが誰を好きなのかー。

それは、初めて会った日から知っていた。

モカはそんな彼女を好きになった。だからこそ。

知って欲しい。この気持ちを、ミアに。

沙樹にも告白すると伝えた。

玄関のドアを開いて、リビングへ入る。

「おかえり、モカ」

「優、来てたんだ」

彼の隣には、海が座っていた。

モカはスマホをテーブルに置いて、キッチンに入る。

「お母さん、後は私がやるよ。飲み物は何を出すの?」

「そこの紅茶を出そうと思ってるの。モカ、先に手洗いなさい」

「うん」

手を洗ってから、お湯の注がれたティーカップをトレーに乗せた。

「そこのクッキーもね」

「うん」

お茶の色が出るのを待つ間に、クッキー缶を取り出して持っていく。

「これ、先に食べていてください。お茶もすぐ持っていくので」

「ありがとう。急に来てごめんなさいね」

「いいえ。大丈夫ですよ」

キッチンに戻り、ティーバッグを捨ててカップを海たちのほうに持っていく。

母はいつの間にか、リビングを出ていっていた。

「お茶、どうぞ」

トレーをテーブルに置いて、カップを2人の前に置く。

海は気まずそうな顔をしていた。

「…………ごめんなさいっ」

「え……?何がですか?」

「ミアちゃんに近づいたこと。あなたの好意に気がついていたのに、踏み躙るような真似をしてしまって…」

「えっ、えっ?え?待ってください。確かに嫉妬はしましたけど、そんな風に思ってなー……て、海さんがそんなに気にしてるってことは、何か理由があるんですか?」

「ええ。私自身の問題で、それを解決するためにミアちゃんを利用しようとしたの。詳しいことは話せないけれど、ごめんなさいね」

「………いいんです。寧ろ、安心しました」

「安心?どうして?」

「海さんがミアさんを恋愛的な意味で好きだと思ってたんです。でも、そうじゃないとわかって安心しました」

「………」

海が気まずそうに視線を下げた。

優は何も言わずに、紅茶を飲んでいる。

モカはクッキーをひと口食べた。

「海さんの詳しいことは知りませんが、あなたがミアさんを利用したなんて思ってませんよ。だって、ミアさんと話したかったんでしょう?あの人は柔らかい人だから。話してると安心しますよね」

「………ええ、そうね。私が悩んでいたときも、それが浄化していくようだったわ。彼女の柔らかさが、私を包んでくれる気がしたの。だから、話しかけた。……ヒントをもらえると思った。だけどもう、辞めるわ」

そう言って海は紅茶を飲み干した。

顔を上げた彼女の瞳は、強い光を宿していた。

「……髪、切ったんですね」

「似合うかしら?」

「とってもお似合いです」

「ありがとう」

海が立ち上がり、玄関まで歩いていく。

モカも後に続く。

優がゆっくりとした足取りでやって来て、モカの肩を叩く。

「ミア先輩に、告白するんだろ?頑張れよ」

「……何でそれを」

「見てればわかるよ。モカ、海のこと警戒しなくなってたもん。それに覚悟を宿した瞳だったからね。ま、頑張れ」

海に聞こえない声でそう言うと、優はひと足先に玄関を出ていった。

(……ありがとう、優)

こちらを見ていた海が、不思議そうに首を傾げた。

「優と、何話してたの?」

「何でもないですよ。それじゃ、海さん。また」

「……そうね。また会いましょう」

モカに手を振りながら、海が玄関を出ていく。

肩の上で短く切られた髪が軽やかにやれた。

まるで、海の心が軽くなったことを示しているかのようだった。

(さて……これで、色々片付いた。…告白、頑張るぞ!)

決意を胸に、モカはスマホを取り上げた。

メッセージを送る相手は、ミアだ。

彼女の笑顔を思い浮かべながら文を打つ。

『今月、どこかで会いませんか?』

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