新たなライバル!?従兄弟同士の戦い

文化祭2日目も朝から大盛況だった。

クラスのカフェを宣伝する看板を持って、沙樹はあくびを漏らす。

(昨日は、疲れたなぁ)

午前の接客の後、ミアたちと文化祭を回って楽しかったけれどー。

(あんなに人数、増えるとは聞いてない)

それにしても、海の牽制はすごかった。

沙樹も負けじと張り合ってしまったが、モカは嫌だったはずだ。

(俺も、やりすぎたよな)

反省しながら、呼び込みをして回る。

1年の教室がある廊下を通った時、小柄な少女が囲まれていることに気づいた。

看板を邪魔にならないように抱えて見ると、そこにいたのはモカだった。

慌てたようにキョロキョロしている彼女と目が合い、人だかりに入って行く。

そのまま彼女の手を掴み、3階へ連れて行った。

「ありがとう、沙樹くん」

「おう。それより、何で囲まれてたんだ?」

教室には入らず近くにいたクラスメイトに看板を押し付けて、モカを見る。

彼女は迷うように視線を彷徨わせた。

「……優、待ってたら声かけられたの。……今日は1人で来たから、おともいなくて。それで」

「そっか、わかった。とりあえず今は、俺から離れるなよ。教室にいてもいいから」

「いいの?沙樹くん、店番何時までしてる?」

「11時半。昨日より早いから、待っててよ。ミアも連れて、今日は3人で回ろう。……モカの邪魔はしないから、頑張れよ」

「へっ?」

顔を見られる前に背中を向けて、歩き出す。

「どこ行きたいか、考えとけ」

それだけ言って、教室へ入る。

モカは驚いたように目を丸くしていた。


「お待たせ〜!ごめんね、モカちゃん。ちょっと長引いちゃって…沙樹も待っててくれてありがとう」

「お疲れ様です!沙樹くんと一緒に、焼きそば買って来ました」

「ありがとう!あ、お金!どっちに払えばいい?2人とも?」

「俺はいらないよ。モカにあげて」

「え!?私も大丈夫です!!これは、私たちからの奢りなので!」

「申し訳ないよ!せめて、私も何かおごっ!?」

「いいから、食べろ!」

痺れを切らした沙樹が焼きそばをミアの口に入れる。

彼女はモグモグと口を動かして、大人しく焼きそばを食べる。

その手を掴んで、ベンチに座らせた。

「そこ、触ってな。はい、これ」

「ありがとう…沙樹は?座らないの?」

「これ2人がけだから座れないよ。立ったままでいい」

ミアの隣で焼きそばを食べていたモカがアタフタしながらこちらを見る。

それに少し笑って、沙樹はすぐそばにあった木にもたれかかった。

(頑張れよ、モカ)

そんな想いを込めてモカを見ると、何かを察したのか、コクリと頷いた。

焼きそばを食べながら空を見ていると、フッと胸の内で渦巻いていたものが湧き上がる。

(あー……嫌だなぁ。取られたくないなあ)

ー俺も好きなのに。

ー2人とも大切だからモカの悲しむ顔なんて見たくない。

ーだけど、2人が仲良いの見るのも嫌だ。

ー俺だって話したいし、できるなら頑張ってみたい。

ーモカを応援したい。多様性の時代なんだから。

ー性別とか関係なく2人はお似合いだと思う。

ー俺なら、守ってあげられるのに。

相反する想いが何回も行き来する。

彼女たちの方を見ると、焼きそばを食べ終わったのか何やら談笑していた。

2人とも楽しそうにスマホを見ている。

小説の話だろうか。

(……俺も、共通点があればいいのにな)

共通点といえば、同じ大学へ進学することくらいだ。

沙樹は焼きそばを食べ終えて、2人からゴミを取り上げる。

「これ、捨ててくる。2人はここにいて。あ、何か買ってくる?」

「いいよ。私たちも行くから」

「そうだよ、沙樹くん」

「でも…」

口籠もりながらモカを見ると、彼女は首を横に振るだけだ。

ミアの手を取り、立ち上がる。

「行きましょう」

「うん。ほら、沙樹も」

「お、おう」

ミアに気づかれないように数歩下がり、モカの隣に並ぶ。

「本当にいいのかよ?」

「いいの。ミア先輩も楽しそうだし。それに、沙樹くんもミア先輩のこと、好きなんでしょ?」

「なっ……そうだけど。俺は、モカを応援しようと思って引いてたのに」

「それもわかってるけど沙樹くんはいいの?」

モカは少し前を歩きながら言う。

その背中は、いつになく挑発的に見えた。

「……後悔しても?ミアさんが取られちゃっても?私じゃない、他の誰かに横取りされてもいいの?違うでしょ?」

「嫌に、決まってるだろ。……だけど、俺にとっては2人とも大事なんだよ」

「お人よしだね」

振り向いたモカが軽く笑う。

沙樹はゴミ箱に紙パックを捨てて、ミアの隣に並んだ。

モカが追いかけてくる。

「次、どこ行こうか」

「私、フォトブース行きたいです。3人で撮りましょう!」

「いいね!どこの教室だろう?」

「確か数学教室だったぞー」

「そうなんだ!じゃあ、行きましょう」

モカがミアの手を取る。

「え、ちょっと、モカちゃん!?」

「嫌ですか?」

「嫌じゃないけど」

「じゃあ、いいでしょう?私が繋ぎたいんです」

「……かわいい!いいよ、繋ごうか!いくらでも手、繋ごう」

「やった!ありがとうございます」

観念したように言うミアにモカが笑顔を見せる。

その笑顔は先ほどのまでの遠慮などカケラも感じさせないほど晴れやかだった。

(……よかったな、モカ)

フォトブースの設置されている教室に向かって、歩き出した。


「ただいまー」

「おかえり」

文化祭が終わり、家に帰るとモカが来ていた。

リビングに入ると、彼女はソファに座り沙樹を見上げる。

「どうしたの、モカ」

「今日はありがとう。ミア先輩のこと」

「いいんだよ。俺も昨日は牽制しちゃったし、お互い様だろ」

「それとこれとは別!私も、沙樹くんと同じ考えだから」

「……参ったな。正面からの勝負か」

正直、沙樹としてはあまり気の進まない勝負だった。

もしミアがモカを好きならば、素直に諦めるつもりだったのに。

(……そうならないのは、モカが何かを察していて、ミアの気持ちは別にあるってことか)

目の前の従兄弟をまっすぐに見つめて思う。

「じゃ、1勝1敗だな」

「そうだね。…負けないから」

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