祭りの中、牽制と初戦開幕

秋晴れが気持ちいい文化祭当日。

海はゆずと2人、ミアたちの通う高校に来ていた。

「賑わってるね」

「そうだな。大学よりは、小規模だけど」

「それはそうじゃない?どこから行こうか?ミアちゃんのクラス?」

「ミアのとこは飲食店だから昼に行こう。海、どこ行きたい?」

「お化け屋敷行こうよ」

「いいな」

パンフレットを片手に、お化け屋敷をやっている教室へ向かう。

人気らしく、長い列ができていた。

「結構、人気みたいだな」

「そうだね。クオリティ、高そう!」

海は楽しそうに笑っている。

(……懐かしいな)

あの楽しかった時のようで、嬉しくなる。

「あ、もうすぐだよ。ゆず」

「おう」

海の言葉に前方を見ると、大分列が進んでいた。

(今日、海を誘ってよかったな)

そんなことを思っている間に、ゆずたちの番になった。

「来たよ!!入ろ、ゆず!」

「おう、転ぶなよ」

海が瞳をキラキラさせながら、ゆずの手を引く。

連れられるがままに、お化け屋敷へと入った。



「結構、本格的だったねー。すごく暗かった」

「確かに。大分暗かったな。だけど、面白かったじゃん?」

「うんうん!!クオリティ高すぎ!あ、ここフォトブースなんだ。後で沙樹くんに教えてあげよう」

海がフォトブースを見ながら、楽しそうに言う。

スマホを見ると、12時になっていた。

文化祭を楽しむ生徒や保護者たちでごった返す廊下を、階段に向かって進む。

「ミアのクラスは、3階の突き当たり。2組だよ」

「はーい。ゆず、前見てて」

海より一歩前で階段を上がり、突き当たりの教室を覗く。

カフェをやっているらしく、昼時ということもあり混雑していた。

「ん?海、あの子、知り合い?」

「どの子?」

「ほら、壁際の。背の高い男子…あれ、1年かな、と一緒にいるツインテールの子」

「あー!モカちゃんだ!」

「モカちゃん?」

「そう!幼馴染なの。隣にいるのは私の弟だよ。優って言うの」

「優?……あー、見覚えあるな。多分、俺会ったことあるよな?」

「あるね。で、声かける?」

「えー…まぁ、優は俺にとっても弟みたいなもんだし、いきますか」

人を避けるようにして、壁際に近づく。

ツインテールの少女ーモカは教室の様子を窺っていた。

そのすぐ後ろで、優は彼女が人にぶつからないようにしている。

「よう、優。相変わらず、イケメンだな」

「ゆずくん。会って早々ナンパ?後、ゆずくんのほうがイケメンだから」

「またまた、ご謙遜を。そっちの子がぶつからないようにしてるんだろ?」

「……まぁ、そうだけど。海もいたんだ、ら2人とも、ここ入るの?」

「うん。モカちゃんやっほー♪ツインテ、可愛いね〜、珍しい♡」

「ありがとう、海ちゃん。ツインテのほうが、わかりやすいって優に言われたの。…えと、ゆずさんもこんにちは」

「こんにちは」

ペコリと頭を下げたモカにゆずは軽く笑う。

その時、教室からお客さんが沢山出てきたので室内に案内された。

ゆずは海に近づき、その肩を抱く。

「……ツインテールって、優の好みじゃん」

「………気のせいだろ。ミアさんが、ツインテ好きそうって言っただけじゃん」

「そんなこと言うけど、俺が海と付き合ってた時優の彼女ツインテールだったじゃん」

「…………別に、良いだろ。……ツインテールの女子、見たかったんだよ」

「素直じゃないな」

バシバシと肩を叩くと、優が不機嫌そうに睨んできた。

モカの隣に座りながら、カバンを下ろしている。

優は不機嫌に海に視線を向けた。

見透かされているとわかり、曖昧に笑みを返した。

「どうしようもないんだよ」

「そう?そんなこと、ないと思うけど。……また今度、話そうか」

「ありがとう」

海とモカは楽しそうにメニュー表を見ていて、注文を取りにミアがやって来た。

「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりですか?」

「ホットケーキ2つとオレンジジュース1つ。カフェラテ3つと、ナポリタン2つ下さい」

「かしこまりました。皆、来てくれてありがとうございます。えっと……優、くん?」

「初めましてですね、先輩」

「そうだね。モカちゃんたちと一緒に来てたんだ」

「はい。沙樹先輩もいるので」

「ふふっ、そうだね。あ、私30分後に休憩入るんです」

「そうなの?お疲れ様。よければ俺たちと回る?」

「沙樹と約束してるんだ」

「沙樹くんから聞いてるよ!本当に私もいていいんですか?」

「もちろんだよ!沙樹がいいって言ってるんだし!あ、ごめんなさい。注文票持っていかないと」

ミアがバタバタと教室の奥へと走っていく。

少しして、トレーを持ったミアが戻って来た。

「お待たせしました、オレンジジュース1つとカフェオレ3つです」

「ありがとう」

「ホットケーキ2つとナポリタン2つです」

「沙樹」

「沙樹くん!やっほー」

「おー、モカ。勉強、お疲れ様。優くんは休憩?」

「はい。午後からは店番なので2時半くらいには戻らないとですけど」

「割とすぐじゃんか!ほら、食べな。美味しいぞ」

「ありがとうございます」

沙樹と優のやりとりを見ながら、海が怪しく笑ったのをゆずは見逃さなかった。

(また、何か企んでるな……)

彼女の視線は今、ミアとモカに向いている。

その瞳は笑みを含んだまま、静かに揺れていた。


「沙樹くん、ミアお疲れ様。優は、先に教室に戻って行ったよ」

「そうなの?残念。それじゃ、行こうか沙樹、モカちゃん」

「はい!」

「ちょっと待った!」

海がミアの腕に抱きついて、ニッコリ笑う。

ゆずは背筋が冷たくなる思いで、それを見ていた。

「私たちも、一緒でもいいかな?」

「え…」

明らかに驚いた様子の沙樹とミア。

彼女を警戒するように目を細めているモカ。

(わー…海のやつ、面白がってるぞ)

彼女の視線は、モカに向いていた。

不安に揺れるモカの瞳を覗くように、海は楽しそうに笑っている。

「おい、海。2人で回るんじゃなかったのかよ?」

「えー?」

海の腕を掴むと、彼女は楽しそうに笑った。

見かねたように、沙樹がモカの肩を抱き寄せる。

「え!?沙樹……?」

「なんだよ?皆で回るなら、この方がいいかなって。ミアがぶつかられる心配もないからな」

「何それ……わかった。行こう」

照れたように頰を染めるミアを、海が面白くなさそうに見ていた。

モカの方を見ると、あからさまに動揺していて瞳がユラユラと揺れていた。

「モカちゃん、行こうか」

「………はい」

「海のことは気にしちゃダメだよ。アイツ、面白がってるぞだけだから」 

モカと並んで歩きながら、優しく言う。

そう、海は本気でミアを好きなわけではない。

彼女に興味があるだけだ。それこそー。

(沙樹くんの方が、ミアのこと好きみたいだけどな)

海を警戒する気持ちはわかるが、沙樹の方が警戒すべきだろう。

(それにしても、ミアはモテるんだな)

海に沙樹、モカの間に挟まれているミア。

そんな彼女を通りかかった人たちが、振り返る。

(海も可愛いけど、制服着てるやつがミアを見てるから…多分、後輩かな)

これは、難しい戦いになりそうだ。

海が余計なことをしなければ、丸く収まりそうだが。

わたあめを買いに行くミアたちを見送って、近くの壁にもたれた。

(……海とのこと、何とかなるのか?……せめて、見張るためにも近くにいてくれたら)

そう考えて、ため息をついた。

早々に初戦敗退ならありがたいのだが、残念ながら初戦開幕だった。

(こうなったら、仕方がないな)

文化祭が終わるまで、なるべく近くで見張るしかないようだ。

ゆずは体を起こして、ミアたちに近づく。

ー海の好きなようにはさせない。

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