夏の太陽が柔らかな蕾を照らす
カリカリと部屋中に響くペンの音。
(何で、ここで書くんだ……)
円形の座卓には、モカが座っていた。
真剣な表情で、小説を書いている。
優に読ませるために来たようだが、本題はもっと別のところにあるのだろう。
「モカ」
呼びかけると、彼女が顔を上げた。
隣には夏休みの課題と見える物がいくつか置かれている。
「何?」
「小説、書けたのか?」
「うん、気になってたところは書き直せたよ。あのさ、優」
「ん?」
「数学のワークでわからない問題があるの。教えてくれない?」
「いいぞ。受験勉強はいいのか?」
「んー……夏休みの課題がもう少しで終わるからそれからかな」
曖昧に笑ってモカがワークを見せる。
優はそんな彼女の隣に座り、勉強を教えることにした。
(本当、真っ直ぐだよな昔から)
それがモカのいいところだ。
「ーて感じ」
「なるほど!全部できちゃった!すごい!ありがとう、優」
「おう」
モカの解けなかった全ての問題が終わるころ燦々と輝く太陽の光が窓から差し込んでいた。
「モカ、最近頑張ってるな」
「まぁね。志望校も決まったし、見つけたから」
「何を?」
「憧れの存在。私の、目標」
凛とした瞳でモカは言う。ーあぁ、そうか。
彼女が真っ直ぐに走っているのはきっとー。
「モカ」
「ん?」
「頑張れよ」
モカの頭を撫でて、優は優しく笑う。
蕾が解けるような笑みを、柔らかく揺れるカーテンが守る。
『優!!聞いて!「honeyリボン」さんに会えちゃった!私の推しの作家さんなの!!』
あの日、高校見学から帰ってきたモカは開口1番にそう言った。
あの時、彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
まるで宝物を見つけた子供のように。
今のモカは、宝物に憧れ以上の好意を抱いているように見える。
その花がまだ咲いていないのは、モカが気づいていないからだろう。
陽だまりの中で柔らかく揺れる蕾が光を受けて笑っている。
ーどうか、モカに幸福が訪れますように。
優はそっと目を閉じた。
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