第5話 ヒコーキ

 サキエは暖かいお茶と王子の言葉で気持ちがほっこりして言いました。

「王子様はどうしたら帰れるかな?」 

 すると王子は悲しそうに言いました。

「みんな雪を降らせるのに大忙しで、僕が居なくなった事に気が付いてないだろうし、雪雲は早いスピードでどんどん動いているから、

ぼくが落っこちた場所の見当もつかなくて困っているだろう」

「だからボクは自分で空の上まで帰らなければいけないんだ、けれどもどうしたらいいか分からない」

 するとスエコが、

「ヒコーキ、ヒコーキに乗って雲の上に行くの」

とはしゃいで言いました。

 確かに雲の上に行くにはそれしかないようにサキエは思いました。それに雲より高い山に歩いて登っていくのは難しいと思いましたので。

 ただしヒコーキにも問題があって、ヒコーキには誰でもが乗れるわけではありませんでした。

「ダメよ、ヒコーキには乗れないよ」

とサキエは言いました。

「兵隊さんに乗せてってお願いするの、近くに兵隊さんのヒコーキが飛んでくる」

とスエコが言います。

 確かに近くには練兵場があって、兵隊さんの訓練が行われています。

 そして時々ヒコーキが飛んでくるのをスエコも見ているのです。

「でも兵隊さんになんてお願いするの? それよりも兵隊さんは私たちのお話は聞いてくれないよ」

とサキエは困ったように言いました。

 王子は黙って聞いていましたが、「ボクが行って兵隊さんお願いしてみるよ」

と自信無さげに言いました。

 サキエは王子が少し可哀そうになって、

「わかった、私も一緒に行ってあげる。用意するから少し待てて」

そう言うと傘と暖かいお母さんのハンテンを用意して、

「スエちゃんも行く?」とサキエが聞くと。

「スエコも一緒に行く!」

と答えましたので。ワタ入りの暖かいチャンチャンコをスエコに着せてやりました。

 それからマモルが寒くないように重ね着させて、背中におんぶして言いました。

「王子様は雪に濡れても平気でしょ」

 王子はうなずくと、自分の首に巻いてあった赤いマフラーをサキエの首に廻して掛けました。

 サキエはニッコリ笑って「ありがとう」と王子に言ってお母さんのハンテンを上から羽織りました。

                            つづく

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