第4話 どんぶり鉢

 スエコが王子にまとわりつき顔を見て言いました。

「サキちゃん、王子様泣いてるよ」

 サキエは「少し言い過ぎたかな」と後悔しながら今度は少し優しく、 

「誰かが迎えに来てくれるんでしょ、空き地には誰も来ないし、ココで待ってれば?」

と言うと、王子は声を震わせて言いました。

「落っこちた場所を誰も知らないし、誰も長い梯子を持っていない」

「つまり帰る方法が無いってことね」とサキエは単刀直入に言います。

 それを聞くと王子は声をあげて泣き出してしまいました。

 それを合図に雪が大粒のボタン雪になりどんどん降り積もり始めます。

「大変、マモルが濡れちゃう。スエちゃん早くお家に入りなさい!」

とサキエが叫びます。

 スエコは王子の手を引っ張って

「王子様も一緒に入ろう」と言いました。

 王子は袖で涙を拭きながら「ウン」と言ってついてきます。

 サキエは「王子は家に入ると溶けてしまうかも」と一瞬思いましたが、家の中はさほど暖かくはありませんし火鉢にさえ近づかなければ大丈夫だろうと考えて、

「一緒に家に入って」

と王子に声を掛けました。

 三人と背負われたマモルは、体に積もった雪を払って家の中に入りました。

 サキエはマモルを布団に寝かせると、王子に向かって、

「お茶を飲む?」と言って、あとから(しまった)という顔をしましたが。

 王子は「ありがとう、ボクは冷ましてから頂くよ」と言いました。

 サキエは食器棚から器を取り出して、

「スエちゃんこのどんぶり鉢に一杯雪を入れて来て、きれいな雪よ」と言ってスエコにどんぶり鉢を渡しました。

 スエコは嬉しそうにどんぶり鉢をもって外に飛び出していきました。

 サキエは火鉢の上で湧いていたやかんのお湯を、お茶の葉と一緒に急須に入れて、湯飲み茶碗を三つ用意しました。

 するとどんぶり鉢に一杯、白いきれいな雪を詰めてスエコが帰ってきました。

「ちょうどよかった」とサキエが言って湯飲み茶碗をどんぶり鉢の雪の上に乗せてから、急須のお茶を湯飲み茶碗に注ぎました。

 それから残り二つの湯飲み茶碗にもお茶を注いでから、どんぶり鉢の中の湯飲み茶わんを触って熱くないのを確認してから、

「召し上がれ」

と言って王子に差し出して、

「スエちゃん、熱いからフーフーして飲むのよ」

と言ってから、サキエも暖かいお茶を飲みました。

「寒い日にはやはり暖かい飲み物が一番おいしいな、でも氷の国ではカキ氷なのかな?」とサキエが思っていると。

 王子がサキエに向かって言いました。

「ごちそうさま、初めてだったけれど美味しかったよ、今日はありがとう」

                                つづく

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