第5話 ダイシュの出張

 ダイシュ・フェルセル。

 ドプガー将軍の実弟である。

 ミージグェストの将軍を務めるドプガーの7歳下の弟だが、手のつけられない無鉄砲な青少年。

 こないだフロントライン『スアッツ』に入隊したばかりである。


「ダイシュ・フェルセル。貴公にお教えしよう」

「ウェイズ隊長、いかがしましたか?」

「このスアッツに軍属してきた新米軍曹エユズという男の話だ」

「あ、はい」

「エユズが宇宙での初フライトがてら、運転テストのさなか、敵シュドレイダーと交戦。その合間に敵の旗艦による高出力レーザー砲に巻き込まれた彼は、爆風と共にロストした。とても悲しい事実である」


 そのレーザー砲の砲撃空域近郊にあった衛星遠隔カメラで動画が記録した様子を、ウェイズみずからデータ回収したという。


「レジスタンスの船が旗艦らしい。つまりロゥディの艦隊だ。あの星は落とさねばならない。はぐれロゥディがひそかに組み立てた新型シュドレイダーが完成したのかも知れないからな」

「私くしのハンドメイド、新型シュドレイダー。それがエユズ軍曹と対決してたとは。くそう、自分と似た新米クラスが敵におめおめとやられるなんて……」


 ウェイズは仲間と息を合わせるのが苦手なダイシュを見ていられず、無理難題な指令を提唱した。


「今、なんと? 自分が敵の新型偵察にお忍びで惑星ロゥディへ出向くのですか?」

「そうだ。旗艦は例のシュドレイダーを積み込んでいると聞く。くれぐれも新型のライダーに悟られず偵察がてら拿捕だほしてくるのだ」

「自分ができるのであらば、必ずや全うしてみせます」

「その意気だ。期待してる」


 数日後。貨物スペースキャリアがロゥディの貿易海港口に着港してきた。

 それは、ロゥディ紋章のダミー貨物船であった。当機に乗り込んだダイシュは、手持ち無沙汰ではなく、もちろんのこと新型シュドレイダー、フェアランディエム初号機を船載させてきたのだった。


 この貿易海港もまた、サン・ハルザーのシマになっている。リーダーシップのトゥエイクは、ここは管理範囲外なので、幹部の一人、マズタが仕切っていた。


 マズタがサン・ハルザーに戻ってきて早速トゥエイクに新情報を持ち帰って、その旨を伝えた。


「直行便の貨物スペースキャリア? 今時分、到着にはシーズンがズレがあるぞ。おそらくそれは偽物だろう。しばらく監視入れて様子見、泳がせてみせろ」

「はっ、お任せください」


 トゥエイクは想起した。あの時出会った少女が本当にレジスタンスメンバーが産ませた子孫だと信じ、今度はそのレジスタンスを追うコロニー軍隊が、戦争以外で作戦を立てているものだと。


 港町郊外のみすぼらしい喫茶店に一人たそがれて寄ってみたトゥエイク。

 その彼のいる座席付近に、例の少女がすれ違った。


「ああ、また会えたね、おねえさん」

「おねえさんじゃありませんよ! あたしはべニレって名前があるんだから」

「べニレ様、こちらの青年はお知り合いで?」


 少女はトゥエイクに紹介しだした。


「ルピナスシップの関連スタッフが護衛であたしの付き添いしてるのよ。別にデートじゃないから、疑わないでね」

「べニレ様、そんな言い方……」

「アハハ……そこまで疑り深い男じゃないさ。君さ、本当に宇宙生まれの子? 星生まれみたいな雰囲気あるけど」

「まだ2回くらいしか会ってないのに、そこまで失礼なんてね。あまりにひどいな」

「あ、失敬したね。今のは忘れていいから」

「なんか不愉快だから、メンバーのおじさん、他の店行きましょ」

「まだ移動ですか? そろそろ休み入れましょうよ」

「あたしが嫌って言ってるのよ」

「べニレ様、分かりましたから〜」


 トゥエイクはまたもや想像しだした。


(まだ2回だが、確信した……。あのべニレという少女、間違いなくロゥディの血が流れてる惑星民だ。宇宙育ちなのかも知れんが、レジスタンスメンバーの子だと確信できる)


 貨物スペースキャリアの件からまだ一日も過ぎてない。ダイシュは惑星配達員のワークスーツをはぎ取り、惑星民に扮装しだしたのだ。これもお忍びの仕事だから仕方のないことなのだ。


 そんな惑星配達員になりすました姿は、他店へ急ぎ足のべニレたちと鉢合わせた。


「えっ? 何か言った? メンバーのおじさん?」

「自分はなにも言ってませんよ」

「おかしいな? 気のせいか?」


 ダイシュは扮装した格好のまま大量の発汗をかいたようなプレッシャーに見舞われた。


(強いプレッシャーだと? こんな感覚、何なんだ? 俺をここまで恐怖心にかられるほどの相手が近くにいたのか?)


 ダイシュはワークスーツのまま、近場の公園に立ち寄った。ベンチに掛けて変な頭痛を冷まさせるためだった。


 スアッツのファーストトライブが一人、ザダラから小型通信器で無線が来た。


「あんたさ? なんで地球の惑星……ロゥディにいる? それも初号機、あれはパカッズの愛機だってーんの? 分かってる?」

「…………」

「だんまりは勘弁。それとも、人の盗って逃亡、あ図星?」

「隊長が御膳を立てた作戦で拝借した。詳しくは隊長に聞いてください」

「んなわけ? あんたなぁ……ま、そういうことにしてやるよ。後で隊長に聞いてやらァ」


(創設隊の兵だからと調子乗ってさ。創設の連中は俺がなんとか始末してやる。今にな)


 さっきの無線があったからか、ダイシュはプレッシャーによる不調がやわらいだ。

 少し深呼吸すると、いつもと変わらぬ本調子に戻っていた。


「さぁて、荷物運びを続けるか。拿捕って言う名の荷物をな」


 ほくそ笑むダイシュ。新型シュドレイダーの元にたどるにはまだ先は長い。

 持ち帰る手段は乗り込むのだが、今は獲物を求めることに優先するしかなかった。

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ロゥディアース 費旺 徳 @mstk147abc

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