第4話 地球という惑星・ロゥディ

 機動兵器が刃物によるドッグファイトで対峙していた。

 一機は軍用兵器フェアランディエム。

 もう一機は手製シュドレイダー。

 お互いの乗り手は初陣であって、戦闘なんてド素人のようなものだ。

 このまま消耗戦になれば、宇宙空間なので、酸欠の危機に見舞われる。


「このこのこの〜!! フェアランディエムなんて怖くないんだから〜」

「まるで素人が組み立てた風のシュドレイダー。だが、硬質な装甲だからとひるむ訳にはいかない。落ちろー!!」

「あそこにいる敵ライダー、しっつこいな。あたしをナンパだなんて、千年早いんだよ!!」


 刃物のエッジバトルは終焉しゅうえんなど知らずに繰り返し激突してくる。互いが素人同士なのもうなずけるだろう。


 ルピナスシップの船載デッキ。デッキ構内の管制室。


「ベナ姉が搭乗してるの? 民間人は機動兵器を動かしたら駄目なんだよ。なんとか止められないの?」

「ホル小僧、おまえな、なんで民間人に友達つくってんだ。それがこの顛末てんまつだろう? オレは知らんからな」

「わたしは、あれに乗ったおねえさん、たぶん勝つと思うわ。女のわたしの直感よ」


 ツメレフの勘は外れたことない。外れるのはカタストロフィが起きる時くらい。


「ツメレフ姉、あなたは直感しすぎです。ボクはなんとかしてても助けたい」

「ホル小僧、あんたじゃ足手まといよ。わたしの勘を信じるのよ。良い?」

「ホント、大丈夫かな〜?」


 一方、この空域の範囲をかためるネットワークでもある発信源……ロゥディが戦闘状況を捕捉しだし、ロゥディ主力艦フィナルラムダーが休戦管理サイドの船の救出活動にでた。

 ロゥディとは地球に近い文化系惑星である。そこの連合艦隊の旗艦がフィナルラムダーなのだ。

 大型ロゥディレーザー砲で目標をずらして発砲する手はずである。


「大型ロゥディレーザー砲、 ……ってえ!!」


 フィナルラムダーのアールアード艦長の大声による指示で、レーザー砲は放たれた。


 べニレは長距離は遠方からの高出力火線に感知してか、前傾姿勢の機体をジェット気流で噴射しながら戦線離脱しだした。


「なんだ。敵前逃亡だと。ナメくさった態度しやがってさ」


 前傾姿勢を直して敵機に背を向け、全出力を吐き出し宇宙を疾走ったべニレ。

 エユズは、大型で分厚いレーザー砲の餌食となり、はかなくも散り散りに去った。


「あの敵さん。逝ったの? 別にあたしには関係ないもん!!」


 ものすごく遠方まで避難したべニレは、レーザー砲の威力に巻き込まれず安全圏でたたずんだという。


 超大型の輸送施設であり、代表格な船舶の旗艦がべニレやルピナスシップの停滞空域に到着しだした。

 べニレの乗るシュドレイダーを収納、公人船を融合発着ヘッジに取り付け、最後部に待機する艦隊まで合流しだした。


「旗艦……つまり母艦ってこんなに広いんだ。なんだかコロニー内部のようで素敵!!」


 べニレは初めての環境に浮かれ、はしゃいだ。

 案内人である若そうな軍の男性に誘導され、メインブリッジへと歩かされた一同。


「ここがメインブリッジ……フィナルラムダーの代表、アールアード艦長が待ち構えている。さぁ、一同の作戦協力者たちよ、謁見ください」

「ご誘導に感謝します」


 ルピナスシップの代表、シルワルト船長が丁寧に返事し、ブリッジ室内へと足を運ばせた。


「やあ、諸君たち、ご苦労様で何より。何とか敵機と思われる対象の接触に協力して助かりました。こちらの簡易ブリーフィングソファに掛けてください」

「アールアード艦長、久方ぶりであります。我らに新型の鉄板や工具、各パーツの仕送りに感謝します」

「うむ。して、そのシュドレイダーの性能はどうかね?」

「それに関しては、そこの少女にお聞きください」


 シルワルトの紹介で、べニレはアールアード艦長との対面をすることになった。


「君がルピナスシップのシュドレイダー志願兵なのかね?」

「えっ、それは……なんというか……あたしが公人船に用事あったときに成り行きで新型機甲に乗る自体になりまして……なんていいますか、あ、はい」

「ああ、もういいです。よく分かりました。という事は……シルワルト君、君がこの少女に当機搭乗資格を許したという説明でよろしいかね?」

「はい。そうご理解して構いません」

「リクルートセレクトのエラーパーソンだと、ちょっと厄介だがな。新型の戦闘データを見る限り、この少女の戦闘センスは抜群だと理解する。ああ、忘れてたね。君はなんてお名前か教えてください」

「あたしはべニレ・ダレムナー。じゅうな……」

「結構です。あ、もういいですから。では、君は我々と共に地球の惑星であるロゥディに招待してあげよう。星旅行は初めてですかな?」

「惑星はまだ行ったことなくて」

「本物のグラビティ、本物のエアーは体験したほうがいい。保証はできんがな」


 フィナルラムダー艦隊がロゥディポートに着港し、海面に浮上、停船した。

 潮のにおい、さざ波のうねり、沖に満ち潮が押し寄せる光景を目の当たりにしたべニレだった。

 海風に肌に染付くことさえ、その日、その時にしか味わえない体験である。


「お肌がなんだかべとべとしてくる。なんなのコレ?」

「ハハ……海のせいだよ、それは。海も初めてなんだな、べニレお嬢さん」


 アールアード艦長はぞんざいに対応して、少女に案内がてら、説明した。


「波が流れてるだろう? 海はこの星の貴重な水分で資源なのだよ。6割方、星じゅうをおおっている存在だよ」

「ふうん。そうなんだ。空気が気持ち良い!! 風もこの青空も自然なんだなぁ。アハハ……ミナトの街並みもにぎやかでお祭りのようで、和む〜」

「どうだね? この星に定住してみるかい? 無理強いはしない」

「手厚いお誘いありがとう。でも、少し考えさせてください。ちょっとそこまで散策行ってきますね。では失礼!!」

「ああ、良い報告を待ってるよ」


 ミナトの市街地に暮らす若い男共の群勢。

 見た目からして不良と分かる姿態で、悪者と感付かせるナリをしていた。

 そんな連中が、港町を散策するべニレに声をかけてきた。


「見ない顔だな。姉ちゃん、あんたのようなのタイプだぜ。オレらが相手してやるよ」

「どこの世界でも、チンピラだけは変わらないんだな。まぁ、人間生きてれば、コロニーでも惑星でも所詮おなじなんだよねー」

「コロニー市民? 観光かよ。へへへ……オレらが姉ちゃんを観光案内してやるよ。ついてきな。さぁ」

「お生憎様、お連れがもうすぐ、あたしの後ろから追いつくから、駄目でーーす。残念でしたーー!!」

「なんだと! てめえ、オレらが下手に出てやってるからに、ふざけんなよこのアマ」


 不良四人組の背後から、幅をきかせて登場してきた大いなる影が、こんな連中を畏怖させてきた。


「あんたは〜。あ、いや、何でもないです。ホント、ホントですよ。やだなぁ、オレらは単にコロニー市民を観光案内しようとしたまでです、はい」


 その大いなる影は、リーダー格らしき不良男をつまみ出し、放り投げた。


「痛ってぇ」

「お前らのような孥三一どさんぴんがでしゃばるな。このミナトは、ワタシに相応ふさわしいのさ」

「おっしゃるとおりです。我々はここを立ち去ります。どうぞごゆっくりください。お前ら、とっととズラかるぞ」

「あっ、待ってください。ジェワン様〜」


 と、あわてて走り去った連中だった。

 大いなる影の大人は、べニレを見やった。


「あんな孥三一共につかまるとは運のないお嬢さんだな」


 後から、艦長らがべニレと合流しだしてきた。少し早足だが、歳も歳だから、合流するのも楽ではない。


「どうやらお連れ様が来たようだ。ワタシは、トゥエイク。また会える事を祈ろう」


 捨て台詞が気障キザなトゥエイクだが、不良連中とは月とスッポンの差の美形タイプ。精神、性格的には問題はない。

 合流してくる年老いたクルーたちは、トゥエイクという青年が立ち去った光景を確認したが、顔や体型までは捕捉していない。


「いまの男性は?」

「この港町の英雄さんかも知れないね。あたしにはどうでもいいかな?」


 かなりドライな対応のべニレ。アールアード艦長たちには、これまであった街街の雰囲気や感想を述べたのだった。


 このミナトをシマにしているトゥエイクとその階級を等しくしている仲間の溜まり場『サン・ハルザー』では――。

 サン・ハルザーの紅一点、ティーアが、突然トゥエイクに責めてきた。


「見てたよ、トゥエイク。あの新顔の女、宇宙の存在だね。ナンパしてたの?」

「変なヤキモチ妬くな。どうも、あの少女……星生まれの親の子孫の匂いがした」

「宇宙に消えたっていうアレ? はぐれロゥディ、つまりレジスタンスの?」

「断定はしない。だが、そうかも知れないだけさ。ワタシの勘が当たるかは知らん」

「フフフ。じゃ、アタシらの獲物にできそうなカモだな。マークするかい?」

「しばらく様子を見るさ」


 惑星ロゥディ。

 ここは、胡散臭うさんくささがただよう異風な空気でどよめきだしてきた。

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