第3話 交戦 〜DOGFIGHT〜

 べニレ・ダレムナー、17歳。

 趣味のスポーツバイクでのサイクリングで往復含む10キロメートルを周回する。それが彼女の楽しみである。愛称はベナ。

 年の差あるホルツ・ウィーマー、10歳の少年にベナ姉と呼ばれて、男児に惚れこんでしまった乙女でもある。


 ホルツが向かった先はクランベリージャムポート。通称をミナトと呼ぶそこに停車されたユニバースキャビナに乗り換えした男児は、定位置に停船されたルピナスシップまでの渡航を実行した。


「おじさ〜ん、キャビナで渡航した男の子とか見ませんでした?」


 ミナトで仕事中の整備士に問いただしたべニレ。


「んああ、いつものリクルーターボーイか? あの子なら今時分15時10分発のキャビナで渡ったぞ」

「キャビナの進行コンパスライン分かる?」

「知ってても教えないからな。そんな犯罪をしたら、豚箱生活だ。そんなこと言える訳がない。諦めなさい」

「コンパスの差す針の方角くらいたどれるわよ。ええと、座標軸がアレだとして、アイコンユニットが立つ定位置があそこだから……。もう、定位置は割れたわ。ようし、ライトキャビナで、どこまで行けるか試してやる」

「お嬢さん、犯罪だ。犯罪だぞ。まったく今時の娘ときたら……」


 その時、ルピナスシップに到着し、ユニバースキャビナをオート返却したホルツ。


「おかえり。今日も成果なかったな、ホル小僧」

「ロゾロさんホルコゾウってやめてくださいよ。何度聞いても良い気がしません」


 船内構成員のロゾロは、毎度おなじみのホル小僧と呼ぶ習慣をもっていた。


 同じく構成員の女性ツメレフが搭載デッキの管制室からモニター越しに渡航跡とも言えるジェット線を追跡した。


「未確認ジェット線を捕捉。追跡機能で進行方向をモニターした。こっちだ。このルピナスシップに来る。何かしら、アレ?」

「ツメレフ姉、そのモニターを見せてください」

「ジェット線ってホル小僧の知り合いかい?」

「まさか……ボクを追ってきたのかよベナ姉。ここはアンタの来る場所じゃないのに」

「ハンマーヘッドキャリアで叩くかね?」

「嘘でも……そんな事はしないでくださいね。お願いします」

「冗談で言ったのよ。もうこの子ったら」

「冗談が過ぎます」


 ルピナスシップを狙ったランチ級の小型内火船ライトキャビナ。それは、グライダーのような直線的渡航なので、宇宙飛行はあまり特化されていない。


「ヤバ!! ライトキャビナの内火エンジンがもう焼けてる。このままだと到着まで持たないわ。ああ、あたしの17年間が終わる。青春時代を謳歌できないなんて〜」


 そんな時、未確認飛行物体がライトキャビナに急接近しだした。


「そこの小型キャビナの者、エンジン燃焼してるぞ。救難スーツに着換えて、脱出ポッドを射出なさい」


 無線でしらせるのは、宇宙飛行テスト中の新型シュドレイダー、フェアランディエム3号機。その正規ライダー、エユズが懇切丁寧に指示を出した。

 キャビナはコンパスライン維持を無視し、射角エラーでバランスが悪化した。


「ママ、パパごめんなさい。あたしはこの大空で散ります。不良娘と思って叱ってくださいませ」


 自身にフラグを立てて祈りだした少女。

 だが、万死に至らず、3号機に救出されたという。

 ポッドユニットから強制カットオフされ、その命は救われたのだった。


 ルピナスシップのデッキ管制室から覗いたツメレフは、デッキ内に保管中の手製シュドレイダーが眠っていたのを叩き起こした。

 搭乗ライダーを無人にして、敵機から救出された少女を助ける作戦がだされた。


「無茶です。ベナ姉が重症してしまいます。無人シュドレイダーで突出だなんて」

「敵機なんだぞ、あの新型シュドレイダーは。あれを叩かねばならんのだ」


 ロゾロは真顔でそう答えた。


「ナニ? あそこの大型船、宇宙管理職の公人船か? ルピナスならばヤツらは停戦処理サイド。ヤッコさんを駆逐せば、クランベリーの軍も株が上がる」


 エユズはまだ軍属入りたての軍曹で、機甲戦線に立つのに先早ってか、興奮しだした。

 無人シュドレイダーが射出されると、エユズは、それに気付くのが遅くなってか、機体の手に持ったポッドを手放した。


「しまった!! 救命ポッドが!!」


 機体が手放したショックでハッチが開閉された。中にいたべニレは救難スーツのバックジェットユニットでうまく飛行できた。


「なぁにこのスーツ。酸素タンクが欠陥品じゃん。呼吸するにも気を付けないとなぁ」


 何気なく宇宙空間を見渡す少女。メット越しに見た広大な闇は神秘的で星星が煌めいていた。

 そんな中、漂流中の見慣れないシュドレイダーを発見、彼女はハッチ口に取り付いた。


「開閉できるの、この子? 確かアカデミーではこう操作すると……開いた。ハッチのフタが開いた!!」


 封入ビニール袋を開けたばかりの新鮮な空気が漂う密室に、17歳の少女は浮かれるしかなかった。


の入れかたは分かるわ……この子、何だかママのお乳が欲しいって泣いてるみたいにうぶなんだわ。待っててね。今、あなたを起こしてあげるから。さぁ、その二つの目でこの宇宙を見つめるのよ。あなたは初めてのスターゲイザー。開眼して初めて見た星星の輝きをりなさい!!」


 その手製シュドレイダーは息吹を出した。これがその機体の芽生えなのだ。

 カメラが捉えたモニターには、煌めく星星が燦々さんさんと広がってえた。


「あのぶつかってきた見知らぬシュドレイダー、俺と同じく新型か? 起動しだしたか? ならば、ここで散れ!! 俺の飛行テスト中のアクシデントと言い訳できよう」


 敵機フェアランディエム3号機が不安定な挙動の新型機に向かって銃撃戦を展開した。


「銃弾を回避なさい。って被弾箇所がたくさんあって……この子駄目じゃないの、もう」


 非武装の機体だ。それだと、銃撃戦に持ち込むのは不利である。

 仕方なく武装された内蔵戦術を頼るしかない。


「あなた、連弾よけないと痛いでしょ。そのくらい回避しなきゃ。でも、内蔵戦術ってどこに……クラフティエッジがあるわ。これで切り裂けるかな? やってみる!!」


 今度はべニレのカウンターアタックだ。

 被弾うけても装甲が堅いのか、傷は浅くて起動に支障をきたすことはなかった。


「ん? あの新型、クラフティエッジだと? ナメてんのか? じゃ、俺もエッジで交戦してやる。ドッグファイトなら、俺の専売特許だ。覚悟しろ!!」

「えっ? あのフェアランディエムって敵機もクラフティエッジ使うの? あたし、まだ交戦慣れしてないっつうの。もう、やけっぱちだぁ〜!!」


 クラフティエッジの交戦が開始した。お互いシュドレイダーの初陣で熱く闘気を燃やし尽くしたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る