第16話 記憶の支配者

――その夜、コナンは夢を見た。


暗い部屋。天井のない空間。白衣の女が誰かに何かを打っている。


「あなたの“記憶”は、調整させてもらうわ」


打たれた少年の目から、色が抜けていく――


目覚めた時、コナンの額には汗がにじんでいた。


「……何だったんだ、あの夢……?」



【毛利探偵事務所】


蘭「ねぇコナンくん、最近夢見が悪いの? すごく寝言言ってたよ?」


コナン「えっ……あ、いや、ちょっとね」


蘭はふと、じっとコナンの目を見つめた。


「……なんか最近、新一に似てきた気がする。目とか、表情とか」


コナン(ドキッ)


(まさか……やっぱり気づき始めてる? でも、なぜいつも“確信”には至らない?)


(あのとき、思い出せ。初めて蘭に再会した時も――)



【回想:コナンが初めて蘭と会った日】


蘭「あなた、どこかで会ったことある気がする……」


コナン「そ、そんなことないよ!」


蘭の瞳が一瞬、光を失ったように虚ろになる。


(あの瞬間……“何か”が働いていた?)



【米花大学 医学部研究棟・地下室】


阿笠博士「君には伝えておくべきかもしれん、コナン君」


コナン「博士……」


阿笠は重い口を開いた。


「実は、“ある研究者グループ”が記憶の選択的遮断技術を進めておってな。“APTX”開発の裏で、並行して行われていた研究じゃ」


「記憶の選択的遮断……?」


「対象者に特定の記憶を植えつけたり、消去したり……“自己認識の書き換え”すら可能になる。そのプロトタイプを……組織が試していたんじゃ」


コナン「じゃあ……周りの人間は、俺が新一だと気づいてたのに、“消されてる”可能性が……?」


阿笠は、うなずいた。


「服部君や世良君も……そして、蘭君も。おそらく何度か“記憶の修正”を受けておる」



【長野・県警本部】


諸伏警部「つまり君は、我々の記憶も何らかの形で書き換えられている可能性があると?」


コナン「ああ……それが“組織の真の実験場”だったのかもしれません。東京や関西だけじゃなく、長野や群馬の警察内部にも痕跡がある」


諸伏「思い出すな……確かに数年前、ある行方不明事件の被害者記録がごっそり“消えた”ことがあった」



【黒の組織・拠点】


RUM「記憶とは、最大の武器であり、最も脆い盾だ」


部下「クレイドル計画は順調に進行中。今度こそ“完全な存在”を生み出せます」


RUM「だが、忘れるな。我々の最終目標は“すべての記憶”の支配だ」


「“江戸川コナン”が自分の正体を叫んだところで、世界中がそれを“信じない”。それが“完全なる否定の支配”」


「――それが、“真の黒幕”の思想だ」



【灰原のラボ】


哀「“記憶抑制タンパク質”を使ったナノカプセルが使われていた形跡がある。血液を通して脳に届けば、特定の記憶を封じることができるのよ」


コナン「それって、もしかして……」


哀「そう。“小五郎のおっちゃんが定期的に飲んでるドリンク”とか、“蘭姉ちゃんの好きな喫茶ポアロのコーヒー”とか……」


コナン「……組織は、すでに俺たちの周囲を“実験場”にしていたんだ」



【米花高校・旧校舎】


そこに、ひとつの“遺物”が残っていた。焼けた写真。映っていたのは、若き日の有希子と優作、そして――謎の黒髪の少年。


哀「……この子、誰?」


コナン「見たことあるような……いや、もしかして……」


――写真の裏にはこう書かれていた。


“被検体000・記憶耐性あり”

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