第15話 クレイドルの夜明け

東京・杯戸中央病院、地下第六施設。


冷たいガラスの向こう、赤子のような姿の“彼”が静かに眠っていた。

その名は――クレイドル(揺りかご)。


科学者「彼の脳波……安定しています。人工子宮と電気刺激で、前世の記憶の断片が活性化しているようです」


黒ずくめの女性「そのまま続けて。“あの方”の遺志を継ぐ者として、彼を導かなくては」



【阿笠邸】


コナン「クレイドル……まさか、“次の烏丸蓮耶”を作ろうとしてるなんてな」


灰原「それが真実なら、私たちは第二の組織と戦うことになる」


哀はひとつの疑問を口にした。


「ところで、あなたのお母様――工藤有希子さん。“全然歳をとっていない”って噂になっているわよ?」


コナン「ん? まあ、昔のアイドル時代から見た目変わらないって言われてるけど、メイクじゃないの?」


哀は静かに首を振った。


「調べてみたの。工藤優作さんもだけど、20年前の写真と現在の写真……肌の細胞再生のパターンが合わない。――“何かを服用してる”可能性がある」


コナン「まさか……APTX?」


哀「APTX試薬群には、実は“老化抑制”の可能性がある派生物も含まれていた。副作用を抑えた“試薬0021”。それを――」


そこへ阿笠博士がやって来た。


阿笠「ふむふむ、それはちょっと都市伝説っぽいぞ、哀君。じゃが……」


灰原「博士。あなた、“試薬0021”に関して、知ってますよね?」


阿笠の眼鏡が光った。


「ふぉっふぉっふぉ……そこまで言うなら、本当のことを言おう。――私は、シャロン・ヴィンヤードがベルモットになる過程を知っておる」


コナン&灰原「え!?」



【ベルモットの回想】


30年前。ニューヨーク。


シャロン「この薬さえあれば……永遠に若く、美しいままでいられる……!」


“試薬0021”――それは初期段階で「老化抑制」をもたらす特殊な試薬。

だが代償に「精神不安定」「記憶断裂」「肉体退行の可能性」など、多くの副作用があった。


それでも、彼女は選んだ。


その結果、シャロンは“娘”のクリスに成り代わった。



【警視庁・黒田兵衛の執務室】


安室「黒田管理官……あの、ひとつ訊いても?」


黒田「なんだ」


安室「あなたが“顔を大きく負傷した”とされる事故……やはり公安の作戦だったのでは?」


黒田は静かに口を開いた。


「公安の潜入任務は、記録に残らぬ。“あの顔”を失ったことで私は、別人として“戻ってきた”んだ。すべては……“彼の追跡”のためだ」


安室「“彼”?」


黒田「烏丸蓮耶の“意志”だよ。私は、初代・黒田が追っていた組織を、終わらせなければならない」



【灰原の秘密研究室】


灰原「APTX4869は“適合者”しか生き残れない。新一や私が縮んで済んだのは、“特異遺伝子”を持っていたから」


コナン「それが、組織の“選別”の根拠だった?」


灰原「ええ。実は“適合者”は世界中でも100人に1人以下。だから彼らは、サンプルを求めて“無差別に使っていた”のよ」


「哀ちゃん……まさか君、もうひとつの薬を……?」


「開発中よ。“逆転型APTX”――縮んだ者を元に戻す薬。でも、条件が厳しすぎる。使えるのは“完全適合者”だけ」



その夜、コナンは眠れなかった。


「阿笠博士が黒幕かもって言われた時期もあったけど、やっぱり違うな。けど、博士も何か隠してるよな……」


彼の胸の中に、また一つ、疑問が灯る。


(なぜ、俺が“江戸川コナン=工藤新一”だと、誰も気づかない?)


(蘭……母さん……服部でさえ、“確信”が揺らぐ……)


(もしかして、“意図的に記憶を曖昧にさせられている”?)


(だとしたら、“あの方”は今も――どこかで、生きてる!?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る