第10話 記憶を操る者たち

長野の山々が静寂に包まれる中、コナンと灰原は天文台跡地から何とか脱出した。だが、その手にした情報が今後の展開に大きな影響を与えることは間違いなかった。封印された「Eclipse」の装置が起動したその瞬間から、全てが変わった。


「ここからどうする、コナン君?」

灰原の声が響く。彼女の顔に不安が色濃く浮かんでいた。


「まずは、高明さんたちに情報を伝えないと。あの装置、黒の組織が追い求めていたものだろうし、僕たちが掴んだ手がかりも、間違いなく重要なものになる」


「そうね。でも、あの装置が動き出したということは……」

灰原が沈黙する。彼女はすぐに思い出していた。それが何を意味するのかを。


コナンが視線を遠くに向けると、長野の山々が霧に包まれていた。ふと、彼の脳裏に浮かぶのは、過去に起きた出来事だった。


――あの薬、アポトキシン4869。あれが若返りのためだけでなく、記憶を操作するために使われていた可能性。


その時、突然、高明から連絡が入る。


「コナン君、聞いたか? 長野の一帯が何かおかしい。最近になって、周囲で奇妙な失踪事件が相次いでいるという報告が入っている。関係があるかもしれない」


コナンは耳を疑った。失踪事件? それが「Eclipse」に繋がっているとは思えなかった。


「失踪事件? それって、どんな事件なんですか?」


「場所はバラバラだが、どうも一貫しているのは、失踪者たちが、ある共通点を持っていることだ。つまり、全員が記憶の欠落を訴えている」


灰原がその言葉を受けて言った。


「記憶の欠落? それはつまり、‘Eclipse’が関わっているということね」


コナンはうなずく。


「たぶんね。それにしても、これ以上は高明さんたちだけでは追えない。僕たちももっと調べないと」


その時、またしてもスマホの画面に通知が入った。降谷零からのメッセージだ。


「長野で新たな発見があった。‘Eclipse’と記載された文書の一部に、『黒の組織』の最初の目的が記されていた。それによると、記憶操作を駆使して、“新しい世界の扉”を開くことが目的だった」


コナンはそのメッセージを読み終えると、すぐに足早に歩き始めた。


「“新しい世界の扉”? それってどういうことだ?」


「もしかしたら、黒の組織はただ“犯罪”を重ねてきたわけじゃない。もしかすると、この‘Eclipse’計画が関係しているのは、世界を変えるためだったのかもしれないわ」


コナンの胸に不安が募る。この世界を変えるために、記憶を操ることが目的だというならば、彼らが追い求めてきたものが一体何なのか、その核心に迫る必要があった。


その時、高明から再び連絡が入る。


「コナン君、君が言った通りだ。天文台周辺の調査をしていたところ、失踪者たちのうち、一部が‘Eclipse’関連の施設に出入りしていたことが分かった。今、調査を進めているが、君たちにも協力してほしい」


「分かった。今すぐ向かうよ」


コナンは灰原に向かって言う。


「行こう、灰原。もう一つの手がかりが見えてきた」



長野県内の旧道を車で走ること数十分。コナンと灰原は、諸伏高明と合流し、失踪事件が関わる施設に向かっていた。途中、長野警察と連携しながら進む。


到着したのは、もう誰も住んでいない一軒家だった。その家には、昔の研究資料と共に、奇妙な機器が残されていた。


「これが……」


コナンがその機器を見つめる。どうやら、かつて‘Eclipse’計画に関与したと思われる人物がここに住んでいたようだ。だが、資料には暗号が書かれており、その解読が必要だった。


「やっぱり、この計画は単なる記憶操作にとどまらない。人間の意識そのものを変えるための装置だ」

灰原が言った。


コナンは資料をじっと見つめると、ふと思い出す。


「‘Eclipse’の目的、黒の組織が最初に設定したのは‘死を超える’という研究だった。だけど、あれが成功すれば、誰でも不老不死になれると思っていたのか?」


灰原が答える。


「もし、記憶を消すことができれば、人間の人生そのものを新たに始めることができる。それは、記憶の消去だけではなく、完全に新しい自分を作り上げるということよ」


その瞬間、コナンはふと閃く。黒の組織が求めてきた「新しい世界」とは、この技術によって実現しようとしていたものだろう。


だが、コナンが手にした資料の中で一番気になる一文があった。それは、**「この研究の最終段階では、人格の一部を完全に破壊するリスクがある」**という警告だった。

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