第8話 探偵たちの祝祭と、影の再起動
――夢洲、EXPO跡地。
万博閉幕から三日後、関係者と来場者を招いた「クロージングセレモニー」が開催されていた。
多くの来賓が席に着く中、コナンと灰原哀は、一段高い関係者席からステージを見下ろしていた。
■平穏と、ほんの少しの寂しさ
「こうして見ると……夢だったみたいね」
灰原が微笑んでつぶやく。
その表情は、どこかやわらかく、ほんの少し儚げだった。
「でも夢じゃないよ。俺たち、あいつに勝ったんだ。
烏丸蓮耶っていう“百年の亡霊”に」
コナンはそう言って、灰原に缶コーヒーを差し出す。温かい缶は、どこか現実の重さを伝えていた。
「あなたは、怖くなかったの? 彼の言っていたこと……“死を超える存在になりたい”って」
「そりゃ、ちょっとだけな。でも、あのとき思ったんだ。
“死を超える”ことより、“生きている”ってことの方が、よっぽど奇跡だって」
灰原は黙って頷いた。
「あの薬……アポトキシン4869には、やっぱりもう一つの効果があると思うの」
「もう一つの効果?」
「“記憶の再構成”よ。人の中に眠る可能性を、一時的に“赤ん坊”として再起動させる。
そして、その人物が元に戻るとき……その人は“別の人格を選ぶ”ことができるのかもしれない」
コナンはじっと灰原を見つめた。
「……それって、君自身のこと?」
灰原は、ほんの少しだけうなずいた。
「私は“哀”として生きるって決めた。でも、その選択が可能になったのは……
一度すべてを失ったからなのよ。きっと、烏丸も……本当は、選びたかったのかもしれない」
そのとき、舞台では大団円のスピーチが始まり、聴衆が拍手を送っていた。
けれど、ふたりの頭上のスピーカーから、突如として機械的なノイズが走る。
ザザッ――。
「此処ハ終焉ニ非ズ――再構成ノ初期段階デアル」
「時刻ハ調整完了。次ナル接続点:“白銀の山脈(アルプス)”」
「標高・天文台・神の名ヲ持ツ者、記録ハ再生ヲ始メル――」
コナンと灰原が同時に顔を上げた。
「これは……組織の、別の端末!?」
「烏丸の意思はもうないはず……誰が、何を再起動させたの……?」
その瞬間、舞台上で演説していた人物の背後に、炎に包まれた円形のエンブレムが映し出された。
それは烏丸の“烏”ではなかった。双頭の鷲(イーグル)――まるでヨーロッパ王家の紋章。
「まさか……黒の組織の“前身”……いや、もう一つの起源……!」
コナンは立ち上がり、スマホを取り出す。
画面には、「長野・天体観測所 襲撃予告」と書かれた不明な送信者からの通知。
「新しいゲームが、始まるわ」
灰原が低くつぶやいた。
「ええ。オレたちの戦いは……終わってなかったんだ」
■ 各地で動き出す“再起動者”たち
【東京】
公安ゼロ――降谷零は、警視庁地下の極秘室でデータを見つめていた。
「“Project:REIGNITE(再点火)”……やはり、組織には第二段階が存在していたか」
【長野】
諸伏高明は、雪深い観測所跡地に佇んでいた。
彼の背後には、謎の三本線の旗――かつて存在した古い科学結社の紋章。
「これは……“烏丸”すら駒に過ぎなかったのか」
【ベルツリータワー】
安室透と赤井秀一は、秘密裏に再会し、互いに銃を交えながらも情報を交わす。
「次は“記録”じゃない。“人間”がターゲットになるぞ」
「……最悪のゲームだな、バーボン」
■ 少年探偵団の変化
阿笠博士の研究室では、歩美、元太、光彦が何かを隠すように資料を見ていた。
「コナンくんたちには内緒だよ。僕たちだって、ちゃんと“役に立てる”んだから!」
「この“赤いチップ”……灰原さんが作ったやつ、僕たちで使ってみよう!」
物語は、次の舞台へと進む。
黒の組織の“第二段階”、そして「真の黒幕」は――まだ、その正体を現していない。
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