第7話 最後の鍵と、哀の真実
大阪湾に浮かぶ夢洲――その中心にそびえる未来塔「グローバルインテリジェンスタワー」。
この夜、塔のセキュリティは最高レベルに達し、すでに一部は烏丸蓮耶によって掌握されていた。
探偵たちは分散しながらも、塔の中枢「EXPOコア・システム」への接近を試みていた。
■ 遠き信濃より来たる者
その頃、関西空港に降り立った一人の男がいた。
警視庁の要請で、長野県警より特例的に派遣された警視正――諸伏高明である。
彼の目的はただ一つ。「烏丸蓮耶の意識が狙う“情報中枢”の考察と特定」。
彼は、過去に長野で起きた「黒の組織にまつわる文化財改竄事件」の情報をもとに、今回の事態が“日本の深層構造そのもの”に迫っていると考えていた。
その諸伏に、公安の降谷零が通信をつなぐ。
「ようこそ。お力を貸していただき、感謝します」
「我々のような地方官が呼ばれるのは、大抵“過去に鍵がある”時でしょう。
未来を問うには、起源を問うことが必要ですからな」
諸伏は手にしたタブレットを起動させ、グローバルインテリジェンスタワーの構造図を睨む。
「これは……中央に配置された十字構造。そして全フロアの数字に意味がある。
西暦ではなく、“元号”に基づいたフロア分け……まるで、時間そのものを建築化している」
「つまり、烏丸の狙いは……」降谷が息を飲む。
「“塔そのものを時空に見立て、アポトキシンで得た知識を時系列的に統合すること”です」
諸伏の冷静な声が響いた。
「彼は、“現実の歴史”を“仮想の未来”に上書きしようとしている」
■ 上原由衣と服部の潜入ルート
一方、塔の外周で警備をかいくぐる服部平次の隣には、長野県警・上原由衣の姿があった。
「ホンマにこの裏道、大丈夫かいな……?」
「夢洲の工事記録、施工計画を洗ったら、メンテナンスルートが一部“存在しないことになってた”の。
つまり、ここは“忘れられた道”よ」
彼女は小さな端末を取り出す。
「暗号が“旧暦ベース”だった。AIには気づけない。人間の“記憶の奥”にしかないわ」
「……人間って、やっぱ捨てたもんやないな」
服部は微笑み、由衣に続いた。
■ 灰原の決断と、大和敢助の言葉
その頃、地下研究フロアに拘束された灰原哀は、静かに目を覚ました。
暗がりの中、視界に入ってきたのは一人の大男――大和敢助だった。
「起きたか。派手に暴れたらアカンぞ」
「どうして……」
「公安の指令で来た。あんたの身柄、いま日本の“未来”より重いんやとさ」
灰原はポケットに入れていた“リバーサー86”を握りしめる。
「これを飲めば……私は過去に戻れる。赤ちゃんに。そうすれば、彼は私を“解放”するかもしれない」
大和はその瞳をまっすぐ見つめた。
「逃げたらアカン。あんた、何かを守るために、ここまで来たんとちゃうか?」
沈黙のあと、灰原は小さく笑った。
「あなた、見かけによらず……優しいのね」
「探偵も警察も、最後は“誰かを守りたい”って気持ちだけや。
命張れるのは、その時だけやさかいな」
灰原は薬を取り出し、静かに机の上に置いた。
「ありがとう。私……もう逃げない」
■ 烏丸との対話
一方、上層フロア。コナンと赤井、降谷がたどり着いた中央制御室で、“彼”が現れた。
漆黒のホログラム――烏丸蓮耶。
「面白い。今もなお“感情”で抗おうとするか。
人間は、論理だけでは前に進めぬと、ようやく気づいたか」
コナンが睨む。
「お前の目的は、AIでも支配でもない。**“死の否定”だろう」
「アポトキシンはただの毒薬じゃない。“自己存在の再定義”を狙った薬だった」
「正解だ、江戸川コナン。いや、工藤新一。
我は死を拒んだのではない。“死を超える形で残りたい”と願った」
「けどそれじゃ、君はもう“人間”じゃない。ただの“記録”だ」
「未来は、そんなものに託されるべきじゃない!」
その瞬間、灰原が現れた。
彼女は机に薬を置き、烏丸の前に立つ。
「あなたが望んだもの……その“結末”を見せてあげる」
そう言って、彼女はカプセルを自らの手で破壊した。
「私はあなたのようにはならない。
過去も、哀しみも、失敗も、“私という人間”の一部なの。
捨ててしまったら……誰にも愛されないわ」
静寂が走る。
ホログラムの烏丸が、少しだけ微笑んだように見えた。
「――なるほど。確かに、“人間”とは美しい矛盾だ」
その直後、塔全体のシステムが再起動。
烏丸の意識データは完全消去された。
■ 名探偵たちの夜明け
その夜が明けた夢洲には、静かな風が吹いていた。
探偵たちは、それぞれの道へ帰っていく。
だが、誰もが心にひとつの言葉を残していた。
「人間とは、問い続ける存在である」
未来は誰にも決められない。
けれど、どこかで誰かが“謎”に挑んでいる限り――
希望は、きっと生まれ続ける。
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