第6話 名探偵たちの同盟
大阪湾の夜は、今までにないほど重苦しい沈黙に包まれていた。
烏丸蓮耶の復活と、未来AIパビリオンの支配宣言。
その言葉は、ただの挑発ではなく“新世界の予告”であった。
夢洲全域では警備レベルが一気に引き上げられ、自衛隊すら出動を検討する事態へ。
しかし、そんな大仰な動きよりも、まず必要とされたのは――
名探偵たちの“知恵”だった。
■ 同盟のはじまり
深夜。大阪・南港のとあるシークレットルームに、4人の男が集まっていた。
照明は最低限。周囲には通信妨害と盗聴阻止の対策が施されている。
その中央に、ひとつのホログラム地図が浮かび上がる。万博会場、夢洲の全域を示すリアルタイム地図だ。
「おそろいか。まさかこのメンバーが再集結する日が来るとはな」
赤井秀一が腕を組む。
その横で、公安・降谷零(バーボン)が資料を広げていた。
「皮肉だよな。国家も公安も、組織すらも超越した“存在”を、我々だけで止めようってんだから」
服部平次が肩を竦める。
「こちとら探偵や。どんな大ネタでも、謎がある限り首を突っ込むだけや」
そして、ひときわ小さな体の少年――江戸川コナンが、静かに言った。
「今回の事件は、ただのテロじゃない。“進化の定義”を問う試練だ。
烏丸蓮耶は、生命の寿命を超え、時間の概念をも越えようとしてる」
降谷が地図に指を走らせる。
「奴の狙いはAI制御中枢――『EXPOコア・システム』。
それを掌握すれば、万博のあらゆる機能と“国際的な未来技術”が奴の手に落ちる」
「要するに、この会場そのものが“未来国家”の基盤になるってことやな」
平次が睨むように言った。
「そうだ。そしてその中心には、“灰原哀”の存在がある」
赤井が口を開いた。
「奴が彼女に興味を持っているのは、アポトキシンの技術だけじゃない。
“彼女自身が時間制御の鍵”になりうると睨んでいる」
降谷が小さくうなずいた。
「だからこそ、君たちが必要なんだ。
この同盟の名は──“ゼロ・ディテクティブ・アライアンス”」
沈黙が、部屋を満たす。
やがてコナンが、拳を握りしめた。
「やるしかない。絶対に、未来を渡すもんか」
■ 灰原の選択
一方そのころ、阿笠博士の地下ラボ。
灰原哀は、一人で“もうひとつの選択”と向き合っていた。
テーブルの上には、アポトキシン4869の派生薬──時間逆行薬「リバーサー86」。
白く小さなカプセルは、まるで“未来への鍵”にも“絶望の象徴”にも見えた。
阿笠博士が心配そうに問いかける。
「ほんとうに、飲むつもりかね? 哀くん……いや、志保くん」
「まだ分からないわ。
けど……もしも烏丸が本当に“進化の神”として動き出したなら、
わたし自身が“アポトキシンの終着点”として、彼の前に立たなきゃいけない」
灰原の瞳は揺れていない。
哀しみも恐怖もすべて、遠い過去に置いてきたように見えた。
「私は、逃げない。組織からも、運命からも。
そして……“コナン君を巻き込む未来”からも」
彼女はそっと、カプセルをポケットに入れた。
■ 烏丸、動く
そして万博7日目。
会場最大のショーステージ「未来AIフィールド」に突如として浮かび上がる漆黒のホログラム。
それは、“現実に介入する幻影”。
人々の視界に、直接“意識”が語りかけてくる。
「人間の限界は、知能でも肉体でもない。
真の限界とは、想像力の欠如である」
「この世界に未来を望むなら、我を受け入れよ。
拒むならば──**“過去”に戻るがよい」**
会場が揺れ、光が弾けた。
各国パビリオンの一部AIが機能停止。
人々のスマートデバイスが一斉にフリーズする。
それは、“新時代の宣戦布告”だった。
■ 名探偵、立ち上がる
その光景を見ていたコナンは、拳を握りしめる。
「来るぞ。奴はこのまま、“情報そのもの”になろうとしてる。
人間としてではなく、データとして、意識を広げるつもりだ……!」
服部が叫ぶ。
「だったら、うちらの武器はひとつや! “論理”と“直感”や!!」
赤井がスナイパーバッグを担ぎ直す。
「探偵とスナイパーが並ぶなんて、昔なら笑われたもんだが……
今夜は、どちらも必要だな」
降谷が静かに言う。
「“国家”や“力”では止められない敵には、“物語”で立ち向かうしかない」
そしてコナンが、つぶやいた。
「探偵は、まだ負けていない。
この世界が“なぜこうなったのか”、必ず証明してみせる──」
彼らの目が、再び一つの地点へと集まる。
“決戦の地”は、夢洲の中枢・グローバルインテリジェンスタワー。
すべての未来が交錯する場所へ、名探偵たちは動き出す。
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