第3話 万博の亡霊たち

2025年4月、夢洲。

大阪万博はかつてない盛況を見せていた。


新エネルギー、再生医療、AI文化──

世界中の叡智が集結した未来都市のど真ん中で、過去に封印された“黒の赤子”が目を覚ました。


 


■ 阿笠邸地下ラボ


「ほぉ……まさか、君がこういう形で再会するとはのう」


阿笠博士が、保育器の中の赤ん坊を覗き込む。

そこには確かに、年齢的には生後数ヶ月程度に見える小さな存在がいた。

だが、機械に繋がれた心拍のリズムは、異常な安定を保っていた。

成人のそれに近い、整った波形だった。


 


「灰原、本当にこいつが──」


「……名前は言わない。けど、遺伝子解析データと一致した。黒の組織創設者……烏丸蓮耶よ」


 


コナンは唇を噛みしめた。

冗談では済まされない。

これは、存在してはならない“亡霊”の再誕だ。


 


■ それぞれの動き


一方、黒の組織もまた動き出していた。


ラムは大阪入りしていた。

その姿は仮面を被った紳士然としたもの──しかし、その目は鋭く、どこか焦りを含んでいた。


 


「組織の芯が露出した……奴が目覚めれば、全てが変わる」


バーボン=安室透もまた、公安の動きと組織の命令の狭間で揺れていた。


「哀……君の覚悟、俺は見せてもらう。どんな結果になっても、君を──止める」


 


ベルモットはただ、月を見ていた。


「あなたが目覚めるとき、私はもう“母親”ではいられないのよ、蓮耶……」


 


■ 工藤優作の介入


「やはり、来たか。黒の赤子が目覚めるとなれば、君たちが動かないわけがない」


コナンの父、工藤優作が万博会場に到着していた。

彼はすでに、阿笠博士の手引きで一連の事件を把握していた。


 


「未来を謳う博覧会の裏で、過去の亡霊が目を覚ます。

まるで皮肉のようだな……だがこれは、時間そのものの戦いだ。コナン、お前はどうする?」


 


「……俺は、守る。哀ちゃんの研究も、赤ん坊になった“あの人”の未来も、誰にも奪わせない」


 


■ 万博施設内・異変の兆し


その頃、夢洲のあるパビリオンで電力系統の異常が起きていた。


「バイオドームの温度が急上昇しています! あれ、これは……成長促進装置が……自動で?」


研究員が蒼白になる。

突如起動した装置が、何者かの意思で“赤子の再成長”を始めていた。


 


「まさか、もう始まっているのか……!」


灰原の顔から血の気が引く。


もしこのまま進めば──

烏丸蓮耶は“完全な青年”として復活する。

かつて日本を裏から支配した、絶対的な支配者として。


 


「これは……進化か、それとも退化か」


誰かがそう呟いた。

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