異世界書物~毒の王子様~その1

 異世界書物、それはテトラ達の住む世界とはまた別の世界、異世界で起こった物語を記した書物のことである。


 価値観や魔法の概念などなど、様々に世界観が違う世界での物語は、時折として誰かの心を打つものだ。世界観が違うことから生まれる感動や憧れ、また異世界にも限らず何か自分と通ずるものがあった時に生まれる共感、それらは時間が経つにつれて「」へと昇華されていく。


 これは、この世界の誰かが好きな異世界書物、毒の王子様と呼ばれる書物に記された物語、その一部始終である。




 今日は毒日和、そんな言葉が似合うのは、この世界で私だけだろう。


 寝起きに晴れだと分かった時、それが一番の憂鬱の瞬間だ。皆が今日は良い天気だと言う中で、私一人だけが、この体を蝕んでいく毒に怯える一日を過ごさなければならない。


 なぜなら私は今、日光に照らされると身体の末端から中心に向かって致死の毒が進行する病に侵されているのだ。


 既に毒は肘や膝の関節部分まで進行しており、まだ動かせてはいるものの、力がうまく入らず動かしにくい。やがて麻痺したように全く動かなくなるのは目に見えていることだ。


 だから現在私は、窓のカーテンは全て閉め切って外には出ない、一切の日光を浴びることのない生活を送っている。それは曇りでも雨でも変わらない。晴れに比べればマシだが、それでも大なり小なり毒の進行は早まる。


「はぁ……」


 つまらない生活だ。


 私は朝の日課になりつつある溜め息を零した。


「お嬢様、お食事の時間でございます」


 使用人がドアをノックしてそう言ってきた。朝食か……最近、食に対する興味も失せてきたように思える。


 毒の治癒法は無いと医者に言われ、ただ死ぬのを遅らせようとする悪あがきの日々を送るのみ。どうせ近い将来死ぬと分かっているのに、何かに興味を持てるはずもない。何かに熱中できるはずもない。途中で悟って虚しくなるだけだ。


 だから当然、恋人も居ない。出会いもなければ、相手に捧ぐ命も無い。こんな状況で恋人をつくろうと思う意思は無かった。恋人がいた方が、辛いに決まっている。


「すぐに向かうわ」


 そう言葉を発すると、私は重い足取りで食卓へと向かった。

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