第六頁 物語の火蓋は切られた その6
……。
…………。
………………。
いや、本当にそれでいいのか?
いや、よくない!!
被害を最小限になんて考えちゃダメだ、被害を出さないようにするんだ。僕は、絶対にパラメラを守る。たとえ僕の身が滅ぼうとも、絶対に。
僕は、パラメラを抱える手を右手だけに変えて、赤目に対抗するような形で左手を
勝負は一発。ここでのミスは本当に許されない。
思い出すんだ、さっきまでのチャレンジで何がどうダメだったのか。
ならその感覚を少しでも掴むために、パラメラの体の熱を肌で感じるのはどうだ?もちろんただ触れるだけじゃなく、心臓を鷲掴みにするように、顔全体をパラメラの胸に埋め、耳でその熱の流れを聞くんだ。
内からも外からも熱を感じて、その感覚に慣れる。
魔法陣の維持は? そうだ、目の前のこいつを見本にすればいい、魔力のコントロールは体内で行わなくちゃいけないから結局この土壇場で掴まなくちゃならないけど、それを掴みやすくするための工夫やタイミングは真似できるはずだ。
こんな間近で実践の魔法を見られることなんて滅多にないのだから、いい経験値になる。
「
魔法陣の大きさは? 取り込む精霊の量は? 一つ目の魔法陣を形成してから次の魔法陣を形成するまでの間は?
いや、まだ足りない、もっとだ、もっと見なくちゃ。
魔法陣に送り込んでいる魔力の量は? 加減は? その速さは? 一定の量を送り続けているのか? それとも波があるか? 体のどこに力を込めている? どこを見ている? 魔法陣? 手? あるいは見ていないのか?
たったこれだけの情報を一度見ただけじゃ完璧な模倣はできないし、完璧な魔法も使えない。でも、それでもこの、窮地を脱することのできる程度の魔法は使えるはずだ。どれだけ不格好であろうが少なくとも、見よう見まね程度には。
呼吸のタイミングも同じにしろ、全部真似するんだ、技を盗むようにして。
すー、はー、スー、ハー。
こうしている内に、何だか妙に暑くなってきた。まだ魔法陣も発動していないというのに。いくら近いからといって、パラメラがそんなに熱かったか?
……いや、違う。
一瞬、自分の目を疑った。なぜなら、僕の左手、今まさに魔法陣を形成しようとしていたはずのその手のひらには、既に魔法陣が形成されていたのだから。
色は濃い赤、炎の精霊達もそれに群がって炎属性を供給してくれている。
信じられない、僕は無意識のうちに魔法陣を形成していたのだ。僕の体には熱がこもっていて、もう魔法陣を増やしていい段階に到達していた。
なんというか、自分自身が炎そのものになったような感覚だった。
……。
……は、へへ。
……いける。
僕の中で、そんな確信が生まれた。
「
今日一の大きな声で叫ぶと、一気に視界が開けたのが分かった。別の言い方をすれば、余裕が生まれた。
一つだった魔法陣は、二つ三つと凄まじい速さで数を増やし、僕の次の言葉を待たずして腕にはめ込むように収縮していった。
不思議だった。パラメラを何としてでも守らなければならない状況、だというのに、なぜか僕は険しい顔をしている様子もなく、切羽詰まった雰囲気を漂わせていることもなかった。
自分が初めて魔法を使えるかもしれないというこの状況に、不思議と高揚感を覚えていたのだ。不格好であることは目に見えているが、一体どんな形で、どんな風に飛んでいき、どのくらいの威力なのか。それが気になって仕方なかった。
そう、僕はこの状況を、楽しんでいたのである。
最後、僕は自身に似合わないような豪快な笑みを浮かべて次の言葉を言い放った。
「
瞬間、赤目が魔力弾を放つよりも先に、火炎によって形成された僕の魔力弾がヤツの顔目掛けて発射された。
一秒と経たずに赤目の顔に直撃すると、ヤツの顔はすぐさま炎に包み込まれ、赤目の顔全体を焼き尽くしていった。
そんな状況だから赤目もたまったもんじゃなく、魔力弾を放つのを途中で止める。自分の顔を炎から守るため覆うので必死なようだった。
歴史的瞬間だった。
僕、テトラ・ハイドルドは、勝ったのだ。正真正銘、魔法を使って、初勝利を収めたのである。
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