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惑星
病院の独特に張り詰めた空気の中を歩いて、そういえば子供の頃は医者になりたいと思っていたと唐突に思い出す。幼い頃喘息気味だった僕は、隔週ペースで病院に通っていた。その時の担当の先生が優しくて良い人だったことを今まで忘れていた。そして、そうか、彼が僕の本当の初恋だったのだと思い至る。僕は僕が思っているよりもずっと早くゲイだったということだ。そしてやはり、クラスメイトの彼とその先生はよく似ていた。
一三〇二号室。六人部屋。そこが太陽のいる場所だった。室内を覗くと、一つベッドに空きがあり、窓際右側に体の大きな男性が座っていた。近づいて驚く。太陽は顔の左側に包帯を巻いて、窓の外をじっと見つめていた。
何があったかは、メッセージの後にニュース記事を漁って知っていた。だが、実際にどこを刺されたかまでは記事には書かれていなかったのだ。僕は動揺を悟られないように「よう」とだけ声をかける。
声で、太陽がこちらを向いた。顔の半分を包帯で隠したその目はぼんやりと僕を見つめ、やがて気がついたように見開かれた。
「ああ。……来てくれたのか」
「うん。暇つぶしになるもの、持ってきた」
僕は何冊か文庫本、それからパズルの載った雑誌などをテーブルの上に出した。スマートフォンがあれば時間なんていくらでも潰れるのではないかと思ったが、何かそうしたくない理由があるのだろう。ベッドサイドの棚を見ると、スマートフォンが画面を下にして置かれていた。
「ありがとう、助かるよ」
そう言い笑った笑顔はずいぶん弱々しいものだった。
あの後太陽がぽつぽつと漏らした話によれば、顔を強く切り裂かれ大きな傷が残ってしまいそうだと言う。
「仕事続けらんなそうなんだよなあ」
そう漏らした声が、今でも耳の中に残っている。
「さすがに、これだとね」
そう言い顔の包帯を指差した。小さく笑う太陽は、今まで一度も見たことないほどに弱々しくて、自信なさげで、その大きな体が小さく見えた。
光を喪った太陽は、それでもまだ太陽と呼べるのだろうか?
太陽はその強い引力で、周りにいっぱい星を繋ぎ止めてきた。だけどもうその引力は失われて、彼の周りにいた人々はみんなそれぞれ好き勝手な方向へと飛んでいってしまった。
太陽は、ぽつんと宇宙に残されて、もう光ることもなく静かにその寿命を終えるのかもしれない。
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