足音の後ろ
私の家の近くには、古いトンネルがある。
昼間は何の変哲もないただのトンネルだが、夜になるとその存在感はひとしおだ。
通りを通るたびに、暗闇からぼんやりと見えるその入口が、何かを隠しているような気がしてならなかった。
ある晩、ふとそのトンネルを通ることになった。
急いでいたわけでもない。ただ、なんとなく足が向いてしまったのだ。
通り過ぎるたびに感じていたあの「何か」が気になって、どうしても確認したくなったのだろう。
足を踏み入れると、すぐに辺りは真っ暗になった。
トンネルの中はひんやりとして、空気が重く感じられる。振り返ると、入口はほんのりとした光が漏れているが、その先には深い闇が広がっている。
私の足音だけが響く中、前方に何かの気配を感じた。
最初は風か、あるいは自分の耳が錯覚しているのかと思ったが、足音が響くのと同時に、何かが近づいてきている気がした。
「カサッ、カサッ、カサッ」
足音が、私の足音と重なるように、同じペースで進んでくる。
私は足を止めて、その音をじっと聞いた。
最初は小さな音だったが、だんだんと近づいてくるにつれて、明確に足音が重なっていった。
恐怖がじわじわと湧き上がり、私は歩き出した。
しかし、足音もまた一緒に歩き出した。私が一歩進むごとに、確実にその足音も進む。振り返ってみると、もちろん誰もいない。だが、足音は間違いなく私の後ろにぴったりとくっついてきている。
その音が、私の耳元で聞こえるとき、私は急に冷たい手が背中に触れるような感覚を覚えた。
急いで足を速めるが、足音も合わせて速くなり、今度はその音が、私の体に触れてくるかのように感じられた。
その時、トンネルの向こう側に光が見えた。出口だ。
私は必死に走り出した。足音もそのまま追いかけてくるが、出口がすぐそこに見えてきた。
一気に駆け抜け、外に出ると、足音はぴたりと止んだ。
振り返ると、トンネルの出口には、ただの静けさしか残っていなかった。
それから数日間、そのトンネルの前を通るたびに、足音が聞こえるような気がしてならなかった。
私が通り過ぎると、後ろから確かに足音が追ってくる。
でも、振り返っても誰もいない。
それがあの日以来、続いている。
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