木の陰の影
新しいアパートに引っ越してから、しばらく経ったある日、ふと目に留まったのは、部屋の窓から見える小さな木だった。
周囲には広い空き地が広がっており、その木だけがぽつんと立っていた。大きな枝が伸び、葉が豊かに茂っている。それは、とても古い木のように見えた。
最初は気にしなかったが、毎晩、どうしてもその木が気になって仕方なかった。
何かの拍子にその木が見える度、背筋が冷たくなるような気がした。それは、木の形そのものに不気味さを感じるからではなかった。
その木が、まるで私を見ているかのように思えて仕方なかったのだ。
ある晩、その木を見ていると、ふとその木の陰に何かが動いた気がした。
すぐに目を反らしたが、再び見ると、木の下に何かがいる。
それは、はっきりとは見えなかったが、形のない黒い影のように感じられた。
気のせいだと思って無視しようとしたが、その影がどんどん近づいてくるような気配がした。
それから、毎晩、その木の下に現れるその影に気を取られるようになった。
毎回、影が近づいてくるのを感じる度に、足が重くなり、心臓がドクドクと鳴る。けれど、外に出てみる勇気は持てなかった。
ある夜、その影が一層濃くなり、ついには木の下からその影が動き出したように見えた。
その影が私に向かって歩いてくるのを、窓越しに見つめているしかなかった。
もう一歩、また一歩と近づいてくるたびに、息が詰まるような感覚がした。
そして、ついにその影が窓の前に立った。
足音もしない、ただ静かに立っている。
そのとき、私は目を背けることができず、ただその影の動きを見守るしかなかった。
そして、目を離した瞬間に、窓ガラスがガタガタと音を立てた。
反射的に振り向くと、部屋の中に何かが入ってきていた。
その影が、静かに床に這い上がってきていたのだ。
まるで、何も言わずに私を見つめるその存在に、私は冷たく凍りついた。
そして、その目が私を見つめていることに気づいたとき、私は全身に寒気を感じ、動けなくなった。
翌朝、外に出てみると、その木は相変わらず、静かに立っていた。
しかし、よく見ると、木の根元には、黒い汚れのようなものがこびりついていた。
それは、まるで何かがそこに横たわっていたかのように、黒く滲んでいた。
その後、私はその木を二度と見ないようにした。
しかし、毎晩、窓の向こうにその木が見え、何かが動く気配を感じるたびに、あの影のことを思い出す。
今でも、あの影が私の部屋の中に潜んでいるような気がしてならない。
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