赤い灯がともる夜

新しい家に引っ越してきたのは、あの秋の終わりだった。

町の外れ、通りの角を曲がると見えるその家は、周囲の住宅に比べてずっと大きかった。

その家には不思議なことが多かった。特に、夜になると隣家の窓から灯りが漏れることに、私は気づいた。


最初は、単に古い家だからだろうと思っていた。だが、日が落ちるたびに、隣の家の窓には赤くぼんやりとした灯がともる。そして、時折、誰かがその窓辺に立っているのを見た。


それは人影のようでも、どこか違う気がした。

しばらくして、私は隣の家に住む女性に会うことができた。彼女はひっそりとした雰囲気のある人で、何度か挨拶を交わすうちに少しずつ話すようになった。


ある夜、その女性が訪ねてきた。


「あなたの家、見ていてもよろしいかしら?」と、微笑んで言うその顔には、どこか違和感を覚えた。

けれど断る理由もなく、私は「どうぞ」と言った。


その後からだろうか、私の家にも、彼女が訪ねてきた日は必ず、隣家の窓から赤い灯がともるようになった。

時折、その窓から不思議な形の影が見え、何かをじっと見つめているように思えた。


一度、私がその影をじっと見ていると、ふいにその灯が消えた。

消えた瞬間、隣の家のドアが開いたような音がして、私は驚いて玄関に出た。けれど、外は静まり返っていた。


それから日が経ち、私は不安を感じるようになった。

なぜ、あの家はいつも夜に灯がともるのか?なぜ、彼女は毎晩窓辺に立っているのか?それとも、私が気づかないうちに、何か別のものがそこにいるのだろうか?


そしてついに、ある晩、私は決心して隣の家を訪ねることにした。


扉を叩くと、女性が出てきた。いつもと変わらない優しい笑顔で、彼女は言った。


「今日も、来てくれるのですね?」


その言葉に、私は急に冷たいものを感じた。


「いや、実は気になっていたんです。あの灯、どうして……?」


その質問をした瞬間、彼女の目が一瞬、ぼんやりと暗くなった。

そして、うっすらと笑った。

「……それは、私がいないとき、あの家が寂しくならないようにしているだけ。私が帰る場所がなくならないように」


それからというもの、あの赤い灯は、夜ごと私の窓の前に現れ、静かにともり続けた。


彼女の言葉が、今でも心の中で何度も響く。


「私が帰る場所がなくならないように」

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