第16話 直談判と、お願い
「——いやー、これは違うんですよ。今回の件には幾つかの火急な事象が重なりましてね? まぁその中に私的感情があったのは否定しませんけど、ホント、色々あったんですよ」
レオパタと1日遅れの質問会を終えた次の日。
学園の門前でスタンバって、開いた瞬間にスタートダッシュを切った俺は——この学園で1番の権力者の下……つまりは学園長室にやってきていた。
相変わらず権力者のくせに殺風景な部屋だなぁ……とか思いつつ必死に舌を回していると。
「つまり何が言いたいのじゃ?」
『学園長』と書かれたネームプレートが置かれた机に肘を付き尋ねてくる学園長。
威厳たっぷりな仕草とは裏腹に、容姿はどっからどう見ても10歳程度にしか見えない美少女。耳は尖っていて、目を見張るほどの白銀の髪は真っ直ぐ伸びている。皆んなストレートヘア好きだね。髪を結ぶって概念ご存じない?
因みに、学園長は肘を付いているが、残念ながら身長的に全然足りない。きっと座高が物凄く高い椅子を使って背伸びしてるのだ。今頃足元ぷらぷらってわけ。歳のわりに可愛いね——おっとお怒りじゃん。
ピクピク眉を痙攣させる学園長の竦み上がるほどの鋭い視線を前に、俺は恥も外聞も捨て。
「——2日の無断欠席、揉み消してください!!」
全身全霊……とは言わないが、それに近しいレベルの土下座を披露する。
まさか2日連続で土下座をする日が来るとは思わなかった。……情けないな、俺。
しかし、こうでもしないと流石に拙い。というか考えてみて欲しい。
俺はただでさえ中間試験すら始まってない時期に赤点を3つも取り、オマケに補習も過去最長期間を記録したのだ。
そこに無断欠席2回が加算されてみろ。授業にして14回、俺は休んだことになるわけだ。
つまり——俺の留年にリーチが掛かる。
もう一度言うが、まだ中間試験前だというのに、である。普通にヤバい。ヤバいなんて言葉じゃ言い表せないほどヤバい。比喩でもなんでもなく詰み直前だ。
「…………レードよ……巫山戯ておるのか?」
土下座をしているので、今相手がどんな顔をしているのかは分からない。——が、苛立っているのは、手に取るように分かった。
しかしながら、ここで引くわけにはいかない。というか引けない。
「マジです。ガチ中のガチです。一生のお願いレベルです」
「絶対一度じゃないのう」
「もちろんです。だって別に一生に一度のお願い、なんて俺は言ってませ——ごめんなさい」
頭の上から物凄い圧が放たれ、反射的に謝罪する。こっわ。重力強くなった? 俺の周りだけ重力頑張り過ぎじゃない? 時給でも上がった?
なんて俺が冷や汗をかきながらバクバク脈打つ心臓の音を聞いていると。
「はぁ……相変わらずのゴミ具合じゃな。……いや、余計な話もせず厚かましくないだけゴミの方が一枚上手かもしれぬ」
「酷くない? 人間と比較されるならまだしも、ゴミと比較されるのは流石に心に来るものがあるんですけど」
「人間なら良いのか……」
やはり昔馴染みというだけあって、セルフィリアとは段違いの毒舌でボロクソに俺のことをディスってくる学園長。
だが、俺の返しを前に何も言い返せないでいた。つまり俺の勝ち。
「そんなわけなかろうが」
「いてっ……おい、教師が生徒に手ぇあげて許されると思ってんの? はい、スキャンダルね。あーあー、これを隠蔽するには俺の無断欠席を消してくれんと——」
「——それは別に良いのじゃ」
あっけらかんとした様子で言う学園長。
俺は思わずポカンとしてしまう。
「え、良いの? あんなダメっぽい雰囲気だったのに?」
「もちろんじゃ。レードには借りがあるからのう」
ガチ? そんな簡単に職権乱用してもいいの? いや、自分から言い出したんだけどさ。
「うぉぉぉありがてぇー! マジで神! やっぱミリアちゃんは寛容だなぁ!」
テンションの上がった俺が煽てて言えば、学園長ことミリアちゃんが途端に厳格な表情を崩し、カァァァ〜ッと羞恥で顔を真っ赤にする。
「み、ミリアちゃんとか言うでない! わ、妾のく、黒歴史なんじゃ! ほれ、用が済んだのならとっとと帰るのじゃ! さもなくば——」
魔法を展開させようとするミリアちゃんを前に、俺は大急ぎで学園長室から逃げ出した。
「——あ、レドルト君」
「っ!?」
学園長室を半ば強制的に追い出された俺が、大きなため息を吐きつつ廊下を歩いていると……誰かを待つように壁に背を預けたセルフィリアが声を掛けてくる。おっと危ない。昨日の気まずさから普通に『げっ』って言いそうになった。良く抑えた。
とはいえ気まずいのは変わらないので、内心を悟られないように茶化してみる。
「お、おはようさん、リアリア」
「……リアリア? 私のことですか?」
「え、まぁうん。セルフィリアって長いじゃん? だから最後のリアを取ってリアリア。まーあだ名ってヤツ」
「……まぁ良いです。本当はお——いえ、なんでもありません」
一瞬顔を背けたものの、直ぐに先程と変わらぬスンッとした表情でお許しをくれるセルフィリア。その後の言葉が気になるのは俺だけ?
「さっきなんて言おうとしたの?」
「……何も言おうとはしていません。まだ心の準備が出来ていないので」
大丈夫? 文脈狂ってない?
それに心の準備がどうちゃらこうちゃらは、もう完全に言おうとしたってことじゃないんですかね、セルフィリアさん。いや、無理に聞こうとは思わないけど。
「ってか、誰か待ってたんじゃないの? 俺に付き合ってて大丈夫そ?」
「ええ、大丈夫ですよ。待ってたのは貴方ですから」
「え、俺? 何、昨日俺の前で泣いたことの口封じに殺されるの? もしそうなら、そん時は全力で抵抗するよ? ——ミリアちゃんを召喚してな!」
俺がそう言えば、セルフィリアが俺をゴミのような目で見てくる。良かった、いつものセルフィリア……ちょっと待って、侵されてきてない? ドMに目覚め——いやそんなことない。……絶対ないから!
「そのミリアちゃんという女が誰かは知りませんが、堂々と人に頼ろうとするその性根には、尊敬すらします」
「尊敬してるって言うならその冷たい目はやめれる?」
なんて訴える俺に、セルフィリアが何故かムッと眉間に皺を寄せる。怒りたいのはこっちの方です。ボロカスに言われてる俺の身にもなって?
「いえ、そこではなくてですね……私が言いたいのは、何故私じゃなくて何処の誰とも知らない女を、とか、私が貴方を殺そうとするわけがないのに、とかなのですが……まぁ、仕方ないですよね。まだ私達は出会ったばっかりですし、幾らレドルト君であっても分からないことがあるのは当然のことですから。これからどんどん知っていけば良いんです」
「は、はぁ……?」
あ、あのぉ……すみませんすみません。なんか今日は一段と話が噛み合わない気がするのですが。
なんか1人で言って1人で納得してるんですけど。怖いんですけど。
もしかして俺ってセルフィリア視点だと見えてない? 俺って幽霊?
「……それで、俺に用って? もうなんでもいいから言ってよ」
まだ朝だというのにいつにも増して疲れを感じた俺は、早く切り上げるために気力のないしなしなになりながら尋ねる。もしかしたら数歳年を取ったかもしれない。
すると、セルフィリアは何か考えるように顎に指を当てると。
「なんでもいい、ですか……では御言葉に甘えて。——実は1つ、レドルト君にお願いがあります」
「お願い?」
一体なんのことか検討も付かず首をひねる俺に、覚悟と、それを遥かに上回るちょっと危険な感じのする仄暗い色を宿した瞳を向けつつ言った。
「——これから、貴方の姉になっても良いですか?」
ちょっと何言ってるか分かんないですね。
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