第15話 一区切り

 2話連続長い……おかしいな。

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「——いやこのクソメイド、メンタル弱くね? まだ何もしてないんですけど」


 俺の目の前で可愛く女の子座りをするサーシャを見下ろしながら、首を傾げる。

 一応短剣やら持ち物全部回収したが——おっと、まさぐったわけじゃないぞ。ちゃんと《解析》と念動魔法を使ったからね。なんなら触れてもないよ。てか触れたら殺られそうで怖い。


 ……一応縄で縛っとこうかな。


「おーい、大丈夫かー?」

「…………」


 返事はない……ただの屍のようだ。まぁ殺してないけど。

 それにしてもあれか、攻めには強いけど受けには弱いみたいなヤツか。これがSMプレイなら燃えるんだけどなぁ。いや、性格悪いの嫌だわ。これが同族嫌悪。


「ま、とっとと課して終わるか」

 

 大分スッキリしたことだし、とサーシャの額に指を置くと。



「——《懲戒》」



 もう片方の手で封魔石を握り、魔法を発動。

 つらつらとサーシャに課す条件を並べていく。


「——殺人及び自殺禁止。発動者の半径100メートル以内に進入禁止及び詮索禁止。発動者にまつわる全ての情報の伝達を禁止。……毎週水の日に発動者の下に来てソラスリスト家の情報を逐一報告。以上を違反した際、瀕死まで呼吸停止。発動者以外からの解除及び精神系魔法を受けた際、懲戒が反射。セルフィリア・クラウス・ソラスリストが命の危機に瀕した際、死力を尽くして守護——まぁこんなもんか」


 最後に『締結』と締め括り、ここから100メートル以上離れた所に置いてきたのち、一仕事終えたとばかりに額の汗を拭った。

 というかこの魔法もファントムなんちゃらも魔力使い過ぎ。身体に魔力流れ過ぎて気持ち悪いったらありゃしない。死ぬど。


 なんて気持ちもあり、俺は《懲戒》に1つ、嫌がらせを仕込んだ。


 そう——俺に情報を逐一報告、だ。

 これは俺の半径100メートル以内に近付くこと禁止、というのに違反する。

 つまり、目の前で呼吸が止まる状態を見て、殺された溜飲を下げる最高のストレス発散だ。……これだから性格が悪いって言われるのか。いや性格悪いを越えてとんでもない屑やないかい。


「……い、いやいやー、殺されたことへの仕返しにしては軽いよな! そ、それに、もしもの時は変えれば良いんだし!」


 『実は俺、サーシャを超える屑説』が頭にふと浮かぶも、スッと説から目を逸らしながら、なんとか言い訳を声に出して自分の深層意識に言い聞かせる——。

 

「……さ、3回くらいで許してあげようかな……?」


 う、うん、それが良い。流石にずっとは可哀想だもんね。

 でも一応は俺を殺したんだから、3回くらいは神様も許してくれると思う。


 …………。


 ……か、神様ー? さ、3回くらいなら見逃してくれます? というか見逃してくださいお願いします。


 胸中で今も天界かどっかでこの状況を見ているであろう神様に土下座しつつ。


「——じゃあ、次はお前だな」

「……っ」


 俺は未だ麻痺毒によって動けないクロエに目を滑らせる……って待て待て。


「ねぇなんでもう指先動かせてるの? おかしくない? B級の魔獣でも30分は動けないヤツだよ、それ。まだ10分も経ってないんですけど」


 因みにB級の魔獣は小さな街程度なら1体で壊滅させられる強さね。つまり——



 ——クロエってサーシャより強いの……?



 まぁサーシャは強いってよりクソダルいって感じだから比較しちゃあれだけど、あんなボロクソに言ってたし、てっきりクロエより強いもんだと思ってた。

 それなら、今日の1番のファインプレーは、たまたま麻痺毒がこれしかなかったことかもしれない。……バリバリの運じゃねーか。


 まさかの出来事に肝を冷やしたものの、気を取り直してクロエを担ぐ。

 別にコイツには殺されてないし、《懲戒》はセルフィリアと相談でもしよ——んーんー喘ぐのやめれる? 怖いのよ、声出るとかあり得んから。あとちょいえっちすぎ。こちとら思春期なの。難しい時期なの。


「おい、そんな抵抗しようとすんなって。殺したりしないから」

「んーっ、んーっ!!」

「耳元やめて!? 五月蝿い、ほんと五月蝿い! っつーかなんで身体に力入るのお前!? ——《睡眠スリープ》……ねぇなんで寝ないの!? マジで意味分からんって! 《睡眠スリープ》《睡眠スリープ》!!」


 なんか気合と根性で魔法に対抗してくるクロエに、俺は悲鳴をあげながら何度も魔法を掛ける。結局寝るまで5回魔法を掛けた。


「な、なんなのコイツ……もう怖いよ……」


 今日一の疲労感に猫背気味になりつつ大きなため息を1つ。

 金属製のロープでぐるぐる巻きにしておくこともお忘れなく。起きたら怖いもん。


 そこまで終えて初めて、やっと落ち着ける状態になった。これで一息付ける。

 なんて俺が地面に座り込みながら疲労の孕んだ息を吐いていると。



「——レドルト、君……」



 今までの毒舌は何処へやら。やけにしおらしくなったセルフィリアが、此方の表情を窺うように声を掛けてきた。

 とはいえ、俺も気不味そうにしたらら話が進まないので、普段通り返事をする。


「おひさ、セルフィリア。2日振り? 2日休んだことでルイーゼ先生とか何か言ってなかった? レオパタは心配してくれてた?」


 レオパタに心配されてなかったら泣く自信ある。いや結構マジで——ああっ!?

 

 俺はとんでもないことを思い出してしまった。


 やっばい、昨日レオパタに錬金魔法で分からない所教えてって言ってたんだった!

 どうしよう、すっぽかしちゃったよ! ドタキャンよりヤバいことしたよ!

 これで嫌われてたら泣く。いやちょっと余所余所しくなっただけで死ねる……!


 ガチでどうしよう、と絶賛大パニックに陥りながら立ち上がる俺に。

 

「あ、あの、レドルト君!」


 セルフィリアが再び声を掛けてくる。

 先程よりも大声で。何処か真剣味を帯びた表情で。


 ……これは、真面目に聞かないといけなさそうなパターンだなぁ……。


 ただでさえレオパタの件で動揺が凄まじいので、正直お腹いっぱいではあるが……まぁ今更急いだ所ですっぽかした事実は変わらないか、と諦めて腰を下ろした。もちろんレオパタには土下座する。


「……それで、どうしたのよ。時間はあるし、自分のペースでいいから言ってみ」


 こういうのは急かすと返って長くなる。ソースは俺。皆んなの前で発表する時ちょっと忘れただけだったのに、急かされて頭に入ってた言葉全部彼方に消えてった。あの時は地獄だったな……。


 なんて嫌な記憶を思い出していると。



「——ごめん、なさい……っ! わ、私のせいで、貴方を死なせてしまって……っ」



 彼女が、ポツリと呟いた。

 そして、一度言葉を出してしまえば、次から次へと溢れ出していく。


「私が貴方に近付いたせいで、貴方を殺してしまったんです……! 一度同じようなことがあったにも関わらず、私は愚かにも貴方に近付いてしまったのですッ。謝っても赦されることではないと分かっていますし、もう二度と、貴方に近付かないと約束します……! もし死ねというなら、死にます。こんな醜くて人間失格の私に出来ることなら、なんだってします……! 本当に、本当に、申し訳ありませんでした……っ」

 

 黒と銀の目に涙を溜めながらも、泣くまいとグッと唇を噛むセルフィリア。

 その顔は、罪悪感という一生消えない傷を負った者特有の……痛みを、傷を隠すような表情だった。


 多分彼女は、その一度目のことを酷く気に病んでいるのだ。

 それこそ、自分で自分を傷付け、自ら死ぬというくらいには。



 だが——そんなこと、俺に知ったこっちゃない。


 

 別に彼女の過去など興味はないし、それはお前が悪い、悪くなかった、などと貶めたり養護したりするつもりもない。


 俺は彼女の家族でもなければ、友達ですらない。

 ただの知り合い、第三者でしかない。


 そんな程度の人間が、彼女の傷に触れるなど烏滸がましい。



 ただ1つ。

 1つだけ——どうしても言わなければならないことがる。




「——死んだことのない人間が『死ぬ』とか簡単に言うんじゃねぇよ」

「……っ」

 

 


 彼女はさっき、死ねと言うなら死ぬ、とか抜かしていたが……それだけは許せない。見逃せない。


「別に冗談で『死ぬ』とか『死ね』とか言うのは好きにしたらいい。あんなの例えでしかないのは、俺だって分かってるからな。……だけどな」


 俺は、本気で彼女を睨み付けた。



「本気で言ってるなら——俺はお前を軽蔑する」

「っ!!」



 しかし、この程度で彼女が引かないことも分かっている。


「……っ、で、ですが……それ以外に……」

「でももだってもねぇよ。お前の考えは、そもそもがズレてんだよ」


 そうだ、彼女は自分のせいで、と言った。


 だが——それは違う。


 あの時逃げなかったのは俺だ。

 そのまま穏便に済まして帰ることだって出来た。


 実際、最初はクロエだって殺そうとはしてなかった。

 物凄く口は悪かったが、命を取ろうとはしていなかった。


 それを俺が調子に乗って煽った結果——死ぬことになった、ただそれだけの話。


「良いか、お前が過去に何があったとか知らん、興味もない。例えそん時はお前が悪かったんだとしても——今回は違う。俺は自分の意志でクロエ達に立ち向かい、その結果死んだんだ。今さっきまでのはその仕返しで——ただの私怨だ。そこにお前は一切関係ない。実際お前に何もしてねーだろ。認識がズレてんだよ」

「…………」

「だからお前が死ぬ必要もねーし、何かしてもらう必要も、二度と近付かないとかわざわざ宣言される謂れもねーんだよ。今回の件は、お前は第三者でただの傍観者なんだよ。だから——」

「…………」


 俺は、小さく息を吐いた。




「——お前に『死ぬ』とか言わせるその余計な罪悪感なんか、今直ぐドブに捨てちまえ」




 言いたいことが言えてスッキリ。

 対するセルフィリアは、そんな考え一切頭になかったとばかりにポカンと口を半開きにして、呆けた表情を晒していた。いやなんか言えよ。気不味いじゃんか。


 ……うん、気不味いしとっとと帰ろ。逃げるが勝ちだ。


 俺は爆睡中のクロエに《懲罰》を掛ける。


 条件は——発動者に危害を加えることを禁止。以上を違反した場合、10分間全身の力が抜け、発動者の命令でしか身体が動かなくなる。毎週水の日に発動者の下を訪れ、近況報告。違反した場合、1時間全身の感覚が10倍になる。発動者以外からの解除及び精神系魔法を受けた際、懲戒が反射——というもの。

 くっころ忍者であるクロエにとっては、良いお仕置きだろう。


「俺はもう帰るからな。そこの猛獣はお前が連れて帰れよ」


 立ち上がりながら依然として呆然とするセルフィリアに一方的に告げた俺は、とある場所を目指して走り出した。



 向かう先は——学園。ひいては、レオパタの研究室。



 その数十分後——研究室で、俺は全力の4回転アクセル土下座を敢行した。









「…………」


 少女は、少年の消えた先を見つめていた。

 何も言わず、ピクリとも動かず。




 ——ドロッとした、恍惚の光を灯して。

 

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