第17話 おう、ヤンヤンしてる
——同級生に、いきなり『貴方の姉になっても良いか』と尋ねられた。
誰もが何を言っているのか分からないと思うだろう。これが共テの国語なら理不尽過ぎると抗議の電話が鳴り響くに違いない。俺だってこんな問題来たら台パンする自信がある。お前ら俺達の将来をなんだと思ってんだ、ってな。
だが——安心して欲しい。
共テの誰とも知らない著者とは違い、言った張本人が目の前にいるのだ。
これは聞かない手はない。というか聞いとかないと不安で夜しか寝れない。……寧ろ授業に集中出来て願ったり叶ったりかもしれない。
なんて馬鹿なことを考える思考を振り払い、一先ず確認作業に入る。
「……姉? 間違いじゃなく?」
まぁ一体何と姉を間違えるのかは甚だ疑問だが、と自分で聞いておいてツッコミ満載な言葉にしか出来ない俺の語彙力の無さに涙を禁じ得ないけど。
ほら、セルフィリアも頭にハテナ浮かべてるよ。ほんとごめんね、俺の語彙力が会話に追い付かなくて。
「? 別に間違いではないですよ。お姉ちゃん、お姉様、姉貴など様々な呼び方のあるあの『姉』です」
取り敢えず聞き間違いでも言い間違いでもないのは理解した。させられた。なら次だ次。
「……じゃあ、1から説明してくれない? いや、1からの説明を要求する! 俺みたいな奴でも分かりやすく、噛み砕いて説明してくれるとありがたいです」
「ふふっ、それもそうですね。些か急ぎ足過ぎました」
俺の必死な懇願が通じたのか、セルフィリアがクスッと笑みを零す。
その微笑は、まるで駄々をこねる弟に『仕方ないなぁ……』とか言って勉強を教えてくれるお姉ちゃんが浮かべてそうな表情だった。……このツートンカラーが変なこと言うから、俺の頭まで変な妄想に取り憑かれちゃったじゃないか。俺に姉はいません。でも欲しいです。2歳くらい年上の姉が!
「むぅ……何から話しましょう。取り敢えず前提条件として、私はレドルト君を何があっても護ると決めたことは理解しておいてください」
「理解できないんですけど。そこから説明をお願いしたいんですけど」
俺は早速ストップを——その『えっ、そこから? それくらい分かるくない?』みたいな顔やめれる? 多分その前提条件が分かる人少ないよ? 寧ろゼロに近いよ?
だから『しゃーない教えてやるか』みたいな顔しないでください。
「……貴方は私の過去を聞こうとはしませんでしたが、理解してもらうには絶対に必要ですので、話します。——私は10歳の頃、1番の親友を失いました。私の不注意のせいで、彼女は殺されてしまいました」
重い、重すぎる。焼き肉後のステーキくらい重すぎる。アレ、先駆者として言っとくけど、絶対真似しない方がいい。三途の川が見えるから。俺は婆ちゃんが見えた。
というかしゃーないって顔から出てくる話ちゃうやろ。もっとフランクで軽いモンだろ普通。
「……こんなノリで言っても良いのか、それ」
「良いんです。寧ろ、貴方には知っておいて欲しいと思っています」
「…………」
今までと違う信頼からくる微笑みを向けられ、俺は何も言えなくなる。
実は俺の外堀を埋めようとしてるのではないだろうか。もしそうだとしたら、大成功と言えるだろう。美少女補正で普通に絆されそうな自分がいる。ちょっっろ。
「は、話は戻りますが……私は、その時決めたのです。——次に大切な人が出来た時には、絶対に私が護って見せる、と。そして、大切な人と言うのが——」
恥ずかしそうに頬を染めたセルフィリアがチラチラと俺に視線を送ってくる。
流石の俺も、これに分からないほど鈍感じゃない。というか普通の人なら分かる。
「…………俺、ってわけね」
「そういうことです。そこで貴方を護る方法として1番確実だと思ったのが——姉になる、ということだったんです」
これで分かりましたか? と言わんばかりの表情なセルフィリア。
ここは俺のために、嘘偽り無くはっきり言おう。
「——やっぱり何言ってるか分かんない」
「ええっ!?」
セルフィリアが本気で驚いた声を上げる。逆にそれで何故分かると思ったのかを是非ともお聞かせ願いたいものだ。
「ち、因みに、どこが分からないのですか……?」
「いや、なんで姉になるって答えに行き着くの? もっとなかったの?」
「……ああ、なるほど」
至極真っ当な疑問をぶつける俺に、彼女も合点がいったといった様子で頷いた。
「……いいですか、レドルト君。貴方を護るためには、私が貴方の近くにいる必要があります。生憎転移系統は使えませんし。ルイーゼ先生には、やるだけ無駄だと言われました」
「ルイルイ結構キツいこというのな……——そ、それで?」
ルイーゼ先生の名前を出した瞬間、露骨に『は?』みたいな凄みのあるお顔を貰ったので、慌てて続きを促す。
セルフィリアは依然として不服げな顔をしていたものの、小さくため息を1つ。話を再開させた。
「……貴方に危険が迫った際、私が駆け付けるのが間に合わない……そんなことが起きないようにするには——もう姉になるしかないな、と思いました」
「いやなんでぇ!? どう考えてもそうはならんでしょ!?」
思わず素っ頓狂な声を発してしまう。——が、セルフィリアはとんでもない、といった風に捲し立てる。
「いいですか、レドルト君! 友達では、貴方の側にずっといることは出来ません! なぜなら寮が分かれているからです。しかし、姉弟であれば話は変わります。申請すれば学園側も配慮してくれますから!」
「い、いやそれなら恋人とかでも……」
「いえ、恋人というのは、非常に細い糸で結ばれていると言っても過言ではありません。特にこの年齢で付き合った男女は別れるのが当たり前、とすら言われています。そして仮に別れず結婚したとしても、今度は離婚というモノが存在します。——ですが!」
俺にグイッと顔を近付け、鼻息荒く言い放った。
「——姉弟は、固い絆で結ばれます! 世間で親との絶縁はあっても、姉弟で絶縁する、というのはあまり話に聞かないでしょう!? つまり——1番貴方を側で、長く守り続けるには、私が姉になることが最適なのです!!」
俺、分かっちゃった。この子アレだ。
——アホの子だ。
別に彼女は馬鹿じゃない。勉強も出来るし、頭だって回る。寧ろ人一倍頭は良いだろう。
だが——アホだ。決定的な部分を忘れている。
「い、いや待て! 良いか、俺とお前は血が繋がってない! 血の繋がってない俺達は義姉弟には万に一つなれたとしても、姉弟にはなれな——」
「——いいやなれます! 我がソラスリスト家の権力と、私達の固い絆があれば絶対に姉弟になれます! 安心してください、
コイツやべぇよ!
権力と力を1番持っちゃいけない子が、よりにもよってどっちも持っちゃってるんですけど!
「いや家に反抗するのはやめな!? 分かってる、俺達まだ数日の仲だよ!?」
「レドルト君は気にしなくても大丈夫です。お母様も亡くなられた今、家には恨みこそあれど、情など一切ありませんから!」
「なんでそんな思い切りが良いんだよ! ガチ感ありすぎてもうこえーよ!」
俺、もしかしなくてもとんでもない奴に目をつけられた?
なんて今更ながらに後悔が胸に押し寄せている中——突然、シンと辺りが静まり返り、やけに肌寒い感覚に襲われる。
その原因は——
「——レドルトくん、もしかして……嫌、なのですか?」
先程からは段違いなレベルで声のトーンを一気に落としたセルフィリアだった。
俺を見ているようで見ていない空虚な瞳は、瞳孔が開き切り、朝だというのに光を反射していない。ハイライトなんかあるわけもない。
表情も全ての感情が抜け落ちたかのような真顔。俺の袖を掴む指は、寒中水泳をした後のように小刻みに震えている。
そして——深淵を覗き込むのと同等の真っ暗な瞳で俺を見据え、無理に笑おうとして笑えなかった時のような引き攣った笑みを浮かべた。
「……な、なんで? なんでダメなんですか……? わ、私なら、ど、どんなことだってしますよ……? 勉強だって教えられますし、日々のお世話だって出来ます。自慢ではありませんが、大抵の家事だって熟せるんですよ……? も、もちろん夜のお世話だって、実践はしたことありませんが、家でしっかり習ってます。ほ、ほら、私の見目は良い方でしょう? えと、あ、あと! わ、私はお金だって沢山あります。貴方が望むなら、幾らでも差し出しますよ……? ——ど、どうですか、惹かれませんか? こ、こんな優良物件、他にはないですよ……?」
お、おおぅ……ず、随分とフルスロットルでヤンヤンしていらっしゃるじゃないですか……。(震え声)
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第3回補足のお時間です。
彼女は守りたいという欲求が強すぎる過保護系ヤンデレちゃんです。突き放されるとスイッチが入ります。
まぁ端から見る分には可愛いですよね。端から見る分には(目逸らし
それと親友の姉はクロエです。だからレドルトから守ろうとしたわけです。
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