あの日の君と今日の海

定時の終えての残業前の休憩時間、喫煙所で一人煙草を吸っていた村瀬のもとを珍しく後輩が尋ねてくる。そして後輩は近々転職が決まったために退職するという。そんな後輩の背中を見送りながら、村瀬は自分の人生の転機について考えていた。
そして、オフィスへと戻ると自分宛てに一本の電話があったと告げられる。その相手は名前だけを告げるとすぐに電話を切ってしまったらしいのだが、どうにも取引先の人物ではないらしい。
先輩から聞いたその名に初めは心当たりのない村瀬だったが、何度か反芻するうちに一人の人物を思い出す。それはもう十年近く連絡を取っていない、それでいて学生時代に最も多くの時間を共に過ごした人物に他ならない。
もしやと思いつつも電話を折り返した先で、その人物、早坂美琴はかつてと同じように言うのだった。「今から会えない？」と。