第19話

55


杏奈の目の前には、アロハを着た男が2人いた。

「お姉さん、ひとりで寂しそう、ねえ俺たちと遊ばない?」

「おあいにく様、彼氏と一緒です。」


「何言ってんの

さっきからずっとひとりじゃん。

なあ、いいじゃねーか。」

(やだ、この人たちヤバい)



「お兄さんたち、その子俺の連れなんだけど、」

「何だおまえ?」


「おい、ヤバい、こいつF校の西村だ。」

「チッ、バカが、おい行こうぜ。」


「あー、びっくりした。

西村くん、助かった、ありがとう。」

「あれ、河野は?」

「犬に追いかけられて、どこかへ行っちゃいました。」


「まったくー、しょうがねえな、

犬には見えるのかなぁ、

その、幽霊って。」

「そうかもね。」


「俺さ、河野に頼まれてっから

これからは杏奈ちゃんを守ってくれって。」


「あいつらしいよな

教室に住み着いちゃうなんて、」


「クラスの皆んなが大好きだったんでしょうね。」

「杏奈ちゃんは平気だったの?

あいつの幽霊見て、」


「もう会えないと思って、凄く後悔していたから

最初に見た時、嬉しい方が先にきちゃったのかな、

もう皆んなに、馴染んでたし」


「俺たちは、大パニックだぜ


大野なんか拝みながら『もうバカって言わないから成仏して下さい』とか

内海は『ピザまん食っちゃったのは俺だ、許してくれ』とか勝手にゲロしちゃうし、」


あはは


「そうしたらさ

『おまえたちに恨みはない、

そうじゃなくて、頼みたい事があるんだ。

大好きな子と花火大会に行く約束をしたのに

死んでしまった。


神様に猶予を貰えたからそれまでここに置いて欲しい。』

って」


「ハマジが、メガネを半分ズリ落としながら

『そうか、彼女との約束をスッポかしてはダメだぞ。』

とか言ったもんだから、

あいつ教室にいついちゃったんだ。」


西村は楽しそうに笑った。


「河野は死んでからも

どうすれば杏奈ちゃんが幸せになるか

ばっかり考えているやつだから。

だからさ、俺も大野も協力するから心配すんなよ。」


「ありがとう。」


「おーい西村、」

「何だおまえ、どこ行ってたんだよ。」


「あのイヌ、ひつこくてなー」


「じゃあ俺、大野待たせてっから」

「ああ、大野にもよろしくな、

じゃあな。」

「ああ、じゃあな。」



56


「海岸まで降りて行くやつは観光客さ、

地元民は海を見下ろせる、自分だけの特別な場所を知っている。

水中花火が、よく見えるんだ。」


「うん、少し歩くって聞いたから

ほら、スニーカーに履きかえちゃった。」


「あはは、正解、

ここが俺のお気に入りの場所、

人が少ないし、ずっと見渡せるだろう。」


「うわー、天の川がはっきりみえる。

綺麗な夜景ね。」


花火が始まった。

打ち上がるたびに歓声が、ここまで聞こえる。


「俺、杏奈ちゃんに会えて良かった。

神様が保証してくれたから、杏奈ちゃんはこれからもずっと元気だよ。」


「河野くんは今夜どうしても天国に行くの?」


「ああ、俺の願いをちゃんと叶えてくれた

ステキな神様との約束だからな。

裏切る訳にはいかないんだ。」


意外だった。

河野くんは付け込む隙のないほどの

清々しい笑顔を見せた。


「そう、分かったわ、

私のことは心配しないで、大丈夫よ。

河野くんのことは、一生忘れない。」


私は精一杯の笑顔を作った。

「あなたの事は忘れない、

ずっとずっと一緒よ。」


私たちは長い長いキスをした。


「さようなら、河野くん

ありがとう。」


そしてそのまま

最後のスターマインが終わると同時に

河野くんは空に消えて行った。


私は、最後まで笑顔で見送ろうと決めていた。



「さてと、」


私は浴衣の裾を少し持ち上げて、急ぎ足で、来た時とは反対側の北鎌倉駅に向かった。

(何のためにスニーカー履いてきたと思ってるのよ。)


観光客が帰路について、道路が混まないうちに、

私は駅前でタクシーを拾った。


藤沢にある自宅まで、急いで!





















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