第16話
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七夕の飾りが目立ってきた。
商店街のそこここに、キラキラ飾りつけをした竹飾りがたてられる。
河野くんは、学校の人にしか見えないようだ。
私と一緒に帰る時、自分たちが他の人からどういうふうに見られているか、ようやく客観的に考えられるようになったらしい。
学校の外では、一歩離れて歩いてくれる。
商店街の入り口には大きな竹飾りが立てられていて、
その下で、短冊に誰でも自由に願い事を書いて飾れるようになっている。
いつものように商店街の入り口で河野くんと別れると
彼が学校の方に消えていくのを確認した。
私は急いで竹飾りの所まで戻ると
短冊に願い事を書き込んだ。
『河野くんとずっと一緒にいられますように』
竹飾りが立てられてから、願いが叶うように毎日一枚ずつこれを書いている。
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杏奈が竹飾りに手を合わせて立ち去った後
じっと短冊を見ている少年がいた。
道路を行き交う人たちは、彼の姿に誰も気づかなかった。
(もう無理なんだけどなあ)
ーーー
細かい雪が降りしきる中
たくさんのパトカーと救急車が、赤いライトを点滅させていた。
ストレッチャーで運ばれる自分の姿が見えた。
(うわー、これ俺かよ
これはもうダメだなー)
体が宙に浮いてきた。
俺はそこにあった、タヌキ出没注意の立て看板につかまって、体が空に昇るのを必死でこらえていた。
何日もそうやっていたら、頭の上から声が聞こえた。
「少年、そんな所にずっとしがみついていたら、
タヌキの地縛霊と間違われるぞ」
「あっ、おっさん、もしかして神様か?」
「いかにも、おまえを迎えに来たんじゃ、
手間をかけさせおって。」
「やったー!
神様なら、杏奈助けてくれよ!
死にそうなんだ、
すげーいい子だから、死んじゃダメなんだ!」
「なあ、俺の最後の願い叶えてくれよ!」
「こら、襟を引っ張るな、
はだけてしまったではないか」
「分かった分かったから。」
神様は遠くを見るような目をした。
「安心しなさい。
おまえの彼女は、元気になるよ。」
「ほんとか?」
「ああ、奇跡的に移植が成功するんじゃ、
ピッタリ合致する人が見つかってな。」
「そうか、よかったー。」
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「こら泣くな
では、大人しく天国へー」
「ちょっと待て、俺の願いはまだ残ってるじゃないか。」
「その子が元気になるのだからそれでいいだろう?」
「それは教えてくれただけじゃん。
願いを叶えてくれたわけじゃない。」
「このクソガキ、
屁理屈こねおって、この欲張りが!
じゃあ何だ、おまえの願いは?」
「その子を花火大会に連れて行きたいんだ
まだ見た事がないって言ってたから。
俺、凄くよく見える場所を知ってるから、
それを教えてあげたいんだ。」
神様は、クックッと笑い出した。
「おまえは、バカか。」
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