第4話 届いた声、動き出す物語
顔合わせから数日後、Link Zeroのメンバーたちは、それぞれの初配信に向けた準備に取りかかっていた。初お披露目は、個人配信+全体コラボの“二段構え”という形式。まずはそれぞれの世界観をファンに届け、その上でチームとしての魅力を見せていく、という戦略だった。
響夜の初配信は、日曜の夜。静かな時間帯を選んだのは、彼が今まで自分の歌を投稿してきた“深夜の空気”を大切にしたかったからだ。
とはいえ、配信者としての活動は初めてだった。どこまで話していいのか、どこからが演出で、どこまでが“本音”なのか。その線引きを、彼はまだ知らなかった。
それでも、準備は着々と進んでいた。
アバターは完成していた。声のモジュレーション設定も整い、マイクの音質もプロ並みに調整された。それでも、直前になればなるほど、心拍数だけが上がっていく。
「……こえぇ……」
配信開始10分前。響夜は息を整えながら、モニターに映る「配信準備中」の文字を見つめていた。
“本当に、俺なんかがやっていいのか?”
その思いは、ずっと消えなかった。けれど、あの凪月の言葉が、今も心の奥に残っている。
「あなたの声が“自分のため”だけにあると思っているなら、それは違います。——すでに、誰かの救いになっている声です」
ならば、今日くらいはその言葉を信じてみよう——そう思った。
配信スタートのカウントダウンがゼロを迎える。モニター上に、Link Zeroの新人ライバー「響夜」の姿が現れると、すぐにコメントが流れ始めた。
《新しい子! 初見!》 《えっ、声めちゃくちゃ良くない……?》 《低音の余韻すごい》《BGMと合ってる……しっとり系かな?》
まさか、こんなに反応が来るなんて。響夜は一瞬、言葉を忘れてしまいそうになった。
「……こんばんは、初めまして。響夜です」
自分の声が、配信として流れている。そして、その声に誰かが“返してくれている”。
「今日は、少しだけお話と……あと、最後に一曲だけ、歌わせてください」
カメラを見つめながら、響夜はできるだけ“そのままの自分”でいようとした。それがうまくいったのかは、正直わからなかった。けれど——
《癒された》《寝る前に聴けてよかった》《泣きそう》《また来ます》
コメント欄が、静かに満ちていた。
配信が終わった瞬間、響夜は大きく息を吐いた。画面が暗転し、モニターに自分の姿が消える。それでも、心の中に残った余韻は、確かに誰かとつながった証だった。
翌日、Link Zeroのメンバー用グループチャットに、咲夜からメッセージが届いた。
《響夜くん、配信見たよ。すごくよかった。》
《癒しボイス、反則じゃない?(笑)》(ルイ)
《静かなのに、なんか届く声って思った!》(燈)
その言葉に、思わず口元が緩む。初めて、「自分でいい」と思えた気がした。
——特に、燈のメッセージ。あの透明な声で、こんなふうに言ってくれたら。彼女の声と言葉は、どこか響夜の心に染み込んできた。
それが、何を意味するのかは、まだわからない。けれど、確かに一歩踏み出した実感だけは、そこにあった。
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