第5話 声が導く、まだ見ぬステージへ
初配信から数日後。Link Zeroとしての初コラボ配信がいよいよ行われることとなった。
今回は、ファンに向けた“顔見せ”と“自己紹介”がメインとなる、カジュアルなトーク配信。各自の個性を活かす構成を意識し、運営サイドからも「無理に会話を回そうとせず、自然体で臨んでほしい」という指示が出ていた。だが、“自然体”というのは、時にいちばん難しい。
「……喋るだけなら、歌う方がずっと楽だな」
準備段階でマイクを調整しながら、響夜は軽く肩を回した。初配信とは違い、今回は他の誰かと並ぶ場面だ。自分の声がかすんでしまうかもしれない。何も言えずに、置いていかれてしまうかもしれない。だが、その不安をかき消すように、画面の向こうから明るい声が飛び込んできた。
「こんばんは〜! Link Zero、全員集合しました〜っ!」
先陣を切って喋り始めたのは、やはり燈だった。彼女は飾らず、迷わず、まっすぐに言葉を紡いでいく。
「今日はね、みんなのことをもっと知ってもらいたくて、わいわい自己紹介していきます! 緊張してる人もいるかもだけど、……あっ、響夜くんとか?」
「うっ……」
名指しされた響夜は一瞬、言葉を詰まらせたが、燈の声に笑いが混じっていたことで、少しだけ緊張が緩んだ。
「……否定は、しないです」
その一言に、配信画面には、
《かわいい反応》《正直で好き》《応援したくなる》
といったコメントが流れる。
「でも、それも“響夜くんらしさ”なんだよね。静かで、でも言葉の重みがあって……なんか、ほっとする」
不意に、燈がそう言った。それは、台本には載っていない言葉。彼女自身の、率直な感想だった。
「……ありがとう。燈の声も、すごく……なんていうか、まっすぐで、強いのに、優しいっていうか」
「えっ、褒められた! わーいっ!」
燈は楽しそうに笑い、ほかのメンバーたちもその空気に自然と乗ってきた。沙羅は少し照れながらも、
「おふたり、相性よさそうですね」
と言い、ルイは、
「そのままデュエット組めば?」
と茶化した。
冗談交じりのやりとり。けれど、それは確かに——音が交わる“予感”だった。
配信終了後、響夜はマイクを切り、静かに目を閉じた。ただ喋っただけ。たったそれだけのことが、なぜこんなに胸に残るのだろう。特に、燈とのやりとりは、まるで歌を交わしたときのように、どこか心の奥に余韻を残していた。
仮想の姿を通して、初めて他者と向き合った夜。この声が、届くかもしれないと感じた夜。それは、彼にとっての“静寂の終わり”だった。
翌日、響夜のもとに一通のDMが届いた。
From:花霞 燈 「昨日はありがとうっ! もしよかったらさ、今度……一緒に、歌ってみない?」
そのメッセージを見たとき、彼の胸に微かな旋律が走った。何かが始まろうとしていた。声が、重なり合う物語が。
そしてそれは——きっと、“ただの歌”では終わらない。
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第1楽章 序章までを読んでいただきありがとうございます。
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