慮外な推理人
事件のあった日から二日がたった。
不気味な事に、いちしさんの連絡先からは何も送られて来ていなかった。
もしかしたら捜査中で忙しいのかもしれない。
あるいは、何らかの理由で自分が助手としてふさわしくないと判断され、切られたのかもしれない。
焦る気持ちはあるけど、そんなものはどうしようもない。そんな事を思っていると、スマートホンから着信音がした。
よしきた。そう思って確認すると、君友からのチャットアプリの着信であった。
肩透かしをくらった俺は、ちょっと落ち込みながら君友からの連絡を確認する。
「ヒマならゲームで遊ばないか?」
と打ち込まれていた。
「いいよ。いつものやつでいい?」
君友に返事を打ち返した。
そうしてすぐに「良いよ。じゃあ、待ってるぞ」と返事が返ってきた。
そうやって、俺は君友のゲームの約束を受けた。
色々と思う事はあるが、いちしさんからの連絡が来るまで手持ち無沙汰で落ち着かない。
それなら、連絡が来るまで遊んで時間を潰そう。
そう考えながら、俺は愛用のPCの通話アプリを立ち上げた。
アプリの通話部屋に入るとすぐに君友も入ってきた。
「よーす。そっちはどうだ?」
「まあ、ぼちぼち」
そんな簡単な挨拶をし、お互いゲーム内部屋に入った事を確認する。
「じゃあ、始めようか」
そう言いながら、俺はゲームを立ち上げ、君友と通信プレイを始めた。
そのように君友とゲームを始めて1時間を位たった時だろうか。
次のミッションまでの待機中、ふと君友が、「今回の事件についてどう思う?」と俺に聞いてきた。
「どう思うってどういう事だ?」
「今回の事件は密室殺人って事らしいだろ?」
どういうルートで広がったのはわからないが、今回の事件が殺人事件で、それが密室殺人であるらしい事は学校中に広まっていた。
こういう噂は以外と広がりやすいものだ。
それが、密室殺人という、人の興味を引くものなら尚更だろう。
噂の出所は良くわからないけど、いちしさんの尋問を聞いた誰かが漏らしたか、あるいはその時近くにいて話を聞いていた誰かが漏らしたか。
もしかしたら警察とか学校関係者とが何らかの事情で話した、あるいは漏らしたのかもしれない。
いずれにせよ、別に隠されている事でもないし、噂の出所を探したって事件には何も繋がらないだろう。
「まあ、そうらしいな」
「それで、俺、考えたんだけど、もしかしたら芽生さんが犯人じゃないかって思うんだよ」
君友から耳を疑うような発言が飛び出した。
「いちしさんが犯人って、お前どうしてそう思うんだよ?」
驚愕しながら、君友に問いただした。
「いちしさん?」君友は腑に落ちない。と言った様子でつぶやく。
「お前、芽生さんの事いちしさんって呼んでるのか?」
「そうだけど。なにかおかしいか? 本人がそう呼んでくれって言ってたし」
「いや……別に話を続けていいか?」
「いいぞ」
話の腰を折ったのはお前だろう。と心の中で呟く。
「それじゃあ、俺の推理を聞いて貰おうじゃないか?」
「いいだろう。マッチングの待機中の暇つぶしに聞いてやるよ」
「じゃあ、まず確認だ。東校舎の唯一の出入り口は中庭だけ。それ以外は、東校舎は内側から窓も閉じられ、完全な密室だった。これはいいな?」
「ああOKだ」
これは警察が確認している。
「そして唯一の出入り口には三姉妹が見張っていた。その三姉妹が見た中庭を通った人物は、十六時頃に被害者、十七時にお前と芽生さん。その後十七時十分位に俺が入った。これもいいな」
「ああ、あっているよ」
これも俺いちしさんで三姉妹確認したことだ。
というよりか結構情報漏れてるんだな。
「それなら俺の見立てはこうだ」
「まず被害者と芽生さんは組んでいたんだ。理由? それはわからん。多分誰かを驚かせたいとかそんな理由だと思う。まあこれについては本当にわからないのでおいておく」
そこは大事な所じゃないのか? と心の中で突っ込みを入れた。
だけど、取り敢えずは何も言わずに君友の推理を傾聴するとしよう。
「まず、被害者には、1−4の教室で倒れていてもらう。ただ、この時はまだ死んではいないんだ。言ってしまうなら演技ってやつだ。被害者は死んだふりをしていたんだ」
「そうやって被害者が1-4教室に倒れて待っていると、中庭を通って来た芽生さんと常夜、お前達が入ってくる。そうして部屋に入ると血まみれで倒れている被害者を発見するんだ。この血は血糊だ。血糊で被害者が死んでいるかのように見せかけたんだ」
「へえ……血糊か1」
「本来のプランならここで常夜を脅かして終わり。とかだったのかもしれないけど今回は違った。芽生さんは演技で倒れている被害者に近づき、お前に気づかれないように、凶器で首をこっそりかききった」
「つまり早業殺人ってやつだ」
早業殺人。
密室が開放された瞬間に殺人を行うことで、あたかも密室内で殺人が起こったかのように錯覚させる殺人だったかな。
「しかしそれだと俺も犯人の可能性はあるけど」
「お前が殺人するような奴じゃないのは分かっているからな」
根拠が身内贔屓かよ。
「それに、もしお前が犯人なら芽生さんじゃなくて性質を知っている俺を連れて行くはずだ。そっちの方が色々とやりやすいだろうからな」
それなら一応、筋は通ってはいる……のか?
「まあ、まとめるなら犯人は芽生さんで、被害者と組んでいた。あらかじめ被害者に死んだふりをしてもらっていたんだ。芽生さんはそこをついて被害者を殺害しあたかも密室で殺されたかのように見せかけた」
「どうだ、俺の推理は」
君友の推理を聞き、俺は黙った。
ゲームは相変わらずマッチング中を示す静かなBGMを響かせていた。
「なあ、君友」
「なんだ?」
「お前、いつから見ていた?」
「いつからって具体的にどういうことだ?」
「俺といちしさんの教室でのやりとり、いつから見ていたんだ?」
「いつからって言われても……教室に入って死体みてびっくりしてすぐ出て行ったからな。多分全く見てない。時間にして30秒も見てないとおもうぞ。」
やっぱりだ。
君友の発言で俺は確信する。
そして、確認のためにもう一つ質問をする。
「それならお前は死体をほとんど見てない。そうだな?」
「それはまあ……だけど血の池みたいになっていて、死んでる事ぐらいは俺でも流石にわかったぞ」
「そうか」
それを聞いて俺は安堵する。
君友の推理はやはり間違っている。
「君友、お前の推理とやらは間違ってる。少なくともお前の見立てでは絶対にありえない」
「そりゃどういう事だ。間違ってるっていうならおかしい点を指摘してほしいもんだ」
「いいだろう。お前の推理で決定的におかしい点をこれから二つ指摘する」
「へえ、なんだ?」
「一つ。俺は遠目で死体を見つけてからいちしさんの腕に抱きついていた。そしてそのままの状態で二人で死体まで近づき、死体を検めた」
「え? 芽生さんの腕に抱きついてたの? お前が? 嘘だろ?」
反応する所そこか?
「何かおかしいか?」
「ああ……いや何でもない続けてくれ。 」(信じられん。 まあ常夜も動揺していたってことか……?)
小声で君友が何か言ったような気がしたが、俺には良く聞こえなかった。
「続けるぞ。だから、いちしさんにはお前の言うような、先に被害者へ近づいて俺に気づかれないよう殺害する。そんな事はできないんだ。俺といちしさんは一緒に死体へ近づいたんだからな」
「それなら死体を検めた時はどうだ? お前の事だ、検めたのだろう? 検めた時は流石にお前も手を離していただろう。検めたのが芽生さんじゃないと成り立たないけど」
「それも無理だ。俺は検めている間のいちしさんがずっと視界に入っていた。無論、目を離していた時間が一切なかったというわけではないが、それでも殺せるような時間目を離してはいなかった。そもそも、実行するにしても万が一俺が気づけばその時点で現行犯だ。あまりにリスクが高すぎる」
「そして二つ、これでお前の推理は否定される。お前はほとんど死体を見ていなかったからわからないだろうが、あの死体はどう見ても今殺された殺されたてというものではなく、明らかに少し時間が経っていた。少なくとも1時間か30分くらいはな。だから、俺の眼の前やそれに近い状況で殺したというお前の推理は成り立たない。その場合、死体はどうあがいても殺されたてになるはずだからな」
君友は俺の反論を聞き、返す言葉がない。と言った風に黙り込んだ。
そして少し時間をおいて「わかった。俺の推理は間違っていた」と言った。
返す反論は無理矢理作ればはあるかもしれないが、それは重箱の隅をつつくような反論にしかならないとわかったのだろう。
「まあ、所詮暇つぶしで考えた妄想みたいなもんだったって訳か」
「お前はほとんど見てないからな。それでもまあ考えられている方じゃないか?」
「お世辞ならもっと上手に言え。お、ミッションの待機が終わったな。さっさと出撃するぞ」
「わかった」
そう言って俺達は再びゲームに戻った。
君友とゲームをやりながら考える。
君友の推理は穴だらけの証拠もない間違ったものであった。
けどいちしさんはどう考えているのだろうか。
彼女は密室に入る方法は既にわかったと言っていた。
もしかしたら、事件についてもう全てわかっているのかもしれない。
そんな事を考えていると、ちょうどミッションが終わったタイミングで自分のスマートホンから着信音が鳴った。
見てみると、待望のいちしさんからの連絡であった。
確認すると。
「急にすまないね。今から学校にこれないかい?」
「今すぐは無理ですけど十五時時位からなら」
「わかった。じゃあ十五時に学校の校舎前広場にある、「再誕」像の近くで待っているよ」
そうやっていちしさんとの連絡を切った。
そして君友に言う。
「悪い君友、急用が入った。これで終わりにしていいか?」
「ん? なんだ、急だな。別にいいけど」
「ありがとう。じゃあ切るよ」
そういい終わった後、ゲームから抜け、通話アプリを切断し、PCの電源切った。
そして、すぐさま学校向かう準備をし、目的地へ向かった。
胸をわくわく膨らませながら。
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