容疑者達

 ここから先の話は、深見常夜と芽生いちしの二人が一旦分かれ、常夜が家に帰った後の話になる。

 警察の追加の捜査で、現場の教室内のある学校のイスの足が微妙に歪んでいるものが発見され、詳しく調査した結果、これに被害者の側頭部の皮膚片などが付着していることが判明し、そのことから、被害者がこの椅子で殴られた明らかになった。

 イスについていた指紋については、様々な生徒が使用していたイスなので、無作為にたくさんついており、同定は不可能との結論に至った。

 また、東校舎周辺を調査したところ、北側にはソフトテニス部が練習していた事がわかった。

 さらに捜査を進めると、東校舎は職員室の東側一面が窓になっており視界が通り、(当然だがこの時間の職員室には多数の先生が業務をしていた。そのため、人の目が無い事はありえない)西側は三姉妹が中庭でお喋りしており、南側は後述する地崎という生徒がいた事が確認できた。

 そして、

(ただし、三姉妹が見た常夜といちしと君友の三人と被害者は除く)

 つまり、事件前後の東校舎全体が衆人環視の密室だったということになる。 

 警察は、被害者保健二の身辺を詳しく洗ってみた。

 見た目に違わずかなり素行が悪く、学校や家族や警察等とも度々問題を起こしていた。

 その結果、退学寸前で家族との仲も悪く半別居状態、元々警察が要注意人物としてマークしているような人物であった。

 それにより、大なり小なり保に恨みを持つ人間は相当数存在するため、動機から犯人を特定するのは難しいだろうと考えられた。 

 警察は、いちし探偵の推理の元、十六時から十七時までの間のアリバイがはっきりとしない、濱永北高校の関係者を洗い出し、容疑者としてそれぞれに事情聴取を行った。

 その結果、以下の六人の濱長北高校の関係者が容疑者として上がった。その供述内容を、ここに簡単にまとめる事とする。

 なお、この事情聴取の内容についてはいちし探偵も立ち会い、その内容を全て把握しているし、後に常夜も全て知ることになる。

 また、それ以外の人物には全て、信用に足るだけのアリバイがあった。

 因みに、三姉妹についてはいちしが尋問した時とほぼ同じ証言をしており、疑わしい部分は無かったので、嘘を言っておらず、犯人である可能性はほぼないと警察では考えている。

 これはそれぞれの事件が起きた周辺の時刻に何をしていたのか聞いた際の調書結果である。


一人目 育田 学いくた まなぶ高校生教師(国語) 男

「私は十五時から十七時まで教材室で授業の教材を作ってました。なんの教材ですかって? そりゃもちろん現代文の教材ですよ。誰かといたのか? 一人で作ってましたよ。造り終えたのは十六時の少し前だったかな。教材を作り終えたので、教材室に置いてそのまま職員室に戻ろうとしました。その途中、中庭に誰かの声が聞こえたので中庭に向かいました。中庭には三姉妹が居たので、声をかけました。なんで声をかけたのかって? 先生が生徒に声をかけるのはおかしいことですか。それで、簡単な話をしていたら、親君が東校舎に入っていったと思ったら叫び声がして。なんだなんだ? なんて思ってたら、件の君友がこちらに走ってきて。何かただならぬ事を伝えようとしているのはわかったのですが、本人は慌てすぎてて伝わって来ませんでした。そうしたら、常夜といちしがこちらに走ってきて、死体があったっていうじゃないですか。私もびっくりして常夜たちと確認しにいきました。保のやつ、こうなるからあれだけ指導していたのに。おっと失礼。その後は他の先生をピッチで呼んだ後、その人達と一緒に警察が来るまで、東校舎の見張りをしていました。警察が来てからは警察の指示通りに相談室にいました。」


二人目 地崎 現ちざき げん 2-5組生徒

「俺は、十五時から十七時位までずっとクロスケと遊んでました。クロスケ? クロスケはこの学校に住み着いてる黒猫のことですよ。野良猫だと思いますよ。動画見せましょうか? かわいいですよ? 後で確認する? わかりました。場所は東校舎の一階非常階段の近くです。クロスケはいつもその時間にその場所にいるんですよ。ここ一ヶ月位は毎日クロスケとおやつあげていつも通り撫でたりして遊んでいるんです。そうですね、十五時過ぎに一回英雄、――同じクラス裏染英雄ですね――と会いました。英雄と軽く話をして別れました。五分も無かったと思います。それから、十七時をすぎたぐらいに『東校舎で何か騒ぎが起きてるみたいだ。事件みたい』と英雄からクラスのチャットアプリでメッセージが来たので様子を見に行こうと思って中庭まで向かいました。時間は十七時ちょっと過ぎだったと思います。そのまま中庭についたら、誰かが騒いでて、なんだなんだと様子を見ていたら、人が死んでるとかなんとか。そして警察が来るまでそのまま中庭に居ました。東校舎には入れませんでしたけど」


三人目 大山 数おおやま かず 1−2生徒

「俺はその時間ずっとスマートフォンでゲームをしてた。具体的な時間? 十五時半から十七時過ぎ、つまり騒ぎになり始める前までずっと。場所は3-4教室。なんで一年生がそんな所にいるのか? 逆に聞きますけど、そこにいたら駄目な理由は? 強いて言うなら、空き教室だったのでって所ですかね。イヤホン着けてゲームやってたら、なーんかバタバタしてる気配。落ち着かないからイヤホン外して周りの様子を見ていたら、教室の前に通りかかった生徒が事件だ、とかなんとか。興味を持って追いかけたら中庭に人だかりが出来ていてそこで足止め。そしてそのまま相談室に連行された」 


四人目 裏染 英雄うらぞめ ひでお2-5生徒「僕は放課後、クロスケに挨拶しに行った後、三時ちょっと過ぎからずっと2-5で自習をしていました。あ、クロスケに挨拶した時に地崎会いましたよ。ま、一人でやってた自習なので進みは良くなかったんですけど。それで十七時過ぎ位だったかな? なんか中庭が騒がしい。しかも、話を聞く限り事件だとかなんとか。だから、いつものチャットアプリでクラス全体にチャットを飛ばしたんですよ。うちのクラスだと、2-5の生徒全員が入ってるグループ部屋があって、そこに『東校舎で何か騒ぎが起きてるみたいだ。事件みたい』って送りました。こういう事を送るのはこのクラスではよくあることです。丁度その時の画面をあとで見せますね。それでその後僕も中庭に確認しようとしたら、うっかりすっ転んで足を強打。あまりの痛みに五分位かな――そこで悶絶してました。なので、中庭には先に地崎が居ましたね。そうして中庭についた僕は、既に結構騒ぎになってたので中庭で待機してました。その後は刑事さんに連行されて相談室へ、それ以上の事は言わなくてもわかるでしょう。」


 ※その後、彼が発したという通話アプリのメッセージは確かに存在した。

 内容は

『東校舎で何か騒ぎが起きてるみたいだ。事件みたい』 17:05

 であった。


五人目八幡 清美やはた きよみ 1-5生徒

「私はソフトテニスのマネージャーをしてました。はい、事件があった日の中庭でのソフトテニスです。ソフトテニスは放課後すぐの十五時に練習を始めました。とは言っても練習中はマネージャーの私は暇なので、部員から許可をもらってちょっと横になって休んで居ました。なんでやすんだのかって? それは……その……女の子の日ですよ。本校舎にある保健室のベッドでよこになって寝て休んでました。それを証明できる人? たぶんいないと思います。ベットで休み始めてすぐに、養護教諭のさら先生はどっかにいかれたので。そのまま二時間位横になって、そろそろ練習が終わりかな。とか考えていたら、さら先生が血相を変えて教室に入ってきてまして。なにかあったんですか? って聞いたら殺人事件が起きたので、体育館に来なさいって。その後は混乱しながらも体育館にさら先生と一緒に行って、そこで待機してました。」

 ※確認した所、彼女が体調不良で横になっていた事は事実なようだ。ただし、ずっとそこで休んでいたことを証明はできなかった。

 また、保健室は抜け出そうと思えば誰にもわからずに抜け出せる状態であった。

 ※この時に居た養護教諭のさらは仕事の都合で職員室にずっとおり、そこで事件発生時の連絡が来るまで働いていた。つまり、さら養護教諭には犯行は不可能である。


六人目山星 半やまほし はん 3-5年生 (卒業済み)

「おれは3-5で受験勉強をしていました。卒業してるのに受験勉強? 確かにおかしいかもしれませんね。でもまだ後期入試があるんですよ。だから、先生に教えてもらいながら勉強をしていたんです。場所は3-5の教室です。十六時から十七時までの間に何をしていたのかって? 覚えてないですね。なんでかって? 寝てましたから。十五時四十五分位までは意識があったんですけどね。その後寝落ちしてたみたいで。自分でいうのもなんですけど、結構無理して勉強していたから反動が来たんだと思います。それで見回りに来ていた先生に起こされて体育館まで連行されました。時間? 十七時半とかじゃないですか? わかりませんけど」


 ※先生に確認した所、山星は後期入試のために受験勉強を頑張っていたのは事実で、十五時半過ぎくらいまではわからない所を聞きに来ていたようだ。だがそれ以降は姿を見ていないとのこと。


以上がこの事件の容疑者六名の証言となっている。


 

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