探偵だったものと助手
警察が来てから、俺と芽生さんは二人だけ校長室に入れられた。
第一発見者だからのVIP待遇なのだろうか。(他の理由も多分あるのだろうけど。多分芽生さん絡みで)
入口には警官が見張っているようだが部屋の中では二人だけだ。
それ以外の警官達や芽生さんの知り合い? の刑事達は事件現場及びその周辺の捜査をしているようだ。
あれから、いくらか時間は経過して、十八時を回っていた。
ふと校長室の窓から外を見ると、夜の帳が降り始めていた。
俺達以外の現場近くにいた人間は、相談室に入れられ、それ以外の学校に残っていた生徒や先生は、一旦は体育館に集められているらしい。
おそらく合計して200人くらいだろうか。
君友との通話アプリのメッセージでその事を知った。
……あいつも相談室に入れられて俺と状況さして変わらないはずなのにどうやってその事を知ったんだろうか?
まあ、そんな疑問は一旦置いておいて。
こんな事書き込める位だからあいつはショックから持ち直したのだろう。
その事で俺は少しだけ心が落ち着いた。
だけれども、今の俺がいるこの校長室の状況は、当惑。といった所だろうか。
校長室にはテーブルを挟むように来客用の肘掛け椅子が4つあり、芽生さんと俺は机越しで対面になるよう座っていた。
校長はいないが、流石にこんな状況校長が普段座っているであろう執務用の椅子に座ったりはしない。
それで、同じ部屋にいる芽生さんの様子はというと。
腕を組んで、意識しているかはわからないが(多分無意識なんだろうけど)組んだ腕で彼女のとても大きな胸を押しつぶして強調しながら、目を閉じて静かに考え事をしている。と思ったら、たまにその黒玉のような目を開けて何か言いたげにこちらを見つめるのだけれども、俺の視線に気がつくと、何でもない。といった様子で視線をそらして、手に持っているスマホを弄って何かしらをした後、目を閉じてまた考えこんでいた。
正直俺は今混乱している。
告白、死体、殺人、密室、これらが今からたった一時間の間でおきた出来事なのだ。
殺人は厳密には違うんだろうけど。
これらの出来事と、今のこの状況に整理がつかずに、頭の中をずっとぐるぐるしていた。
そして、彼女に告白やら色々な事について質問して吐き出そうにも、混乱しているせいで、詰まってしまって言葉が出てこない。
そんな感じだ。
だから、彼女の何か言いたげな仕草について、自分から何か事を起こすというのができないでいた。
だが、そんな現状を打ち破る言葉が、芽生さんから投げかけられた。
「深見君、お願いがあるんだ。聞いてくれるかい?」
その言葉を待っていた俺は、すぐさま彼女の前の座って、彼女に、向き合うように座った。
「何でしょうか? 先程……事件が発生する前の話の続きでしょうか?」
「いやそれじゃない。一部は被ってはいるのだけれどもね」
「単刀直入に言おうかな。深見君は僕の”助手”になる気はないかな?」
「へっ 助手ですか? この俺がですか?」
「僕はこの事件を探偵として解こうと考えている。だけどそれには色々と自分を助けてくれる助手が必要なんだ。そしてそれは君、深見君が現状一番いいと思っている。どうだ受けてくれるかい?」
あまりに急な話だ。しかし、彼女に興味がある俺にとって魅力的な提案だ。
彼女は、助手が欲しく、それに現状俺が適任と言っているのだ。
でも? 何故俺なんかに?
「なんで俺を助手にしようとするんですか? 他の人でも良いのではないですか?」
「僕が君を助手として選ぶその理由は二つ。一つ目に、今回の事件において、君と僕は推定犯行時刻の間ずっと一緒だった。だから、僕の目線で一番信用できるのが深見くんなんだ」
確かに、彼女の言う通り俺と芽生さんは図書室からずっと一緒ではあったけれども。
「そしてもう一つは、君は僕の本質に気づいたからだ」
え? 芽生さんの本質?
いちしさんに本質?
「どういう事ですか?」
理由の分からぬ事を言われた俺は思わず返した。
「僕には他の誰も気づいてない本質があるんだ。常夜君には、気付いた自覚はないだろうけど」
「皆目見当がつかないですが」
「今はそうだと思う。だけど、僕の本質について深見君は気づいている」
芽生さんの本質……か。
正直思い当たる節は無いけど本人がそう言っているならそうなのだろう。
「仮に俺が断ったらどうなりますか?」
「そうだね、君には何も起こらない。精々後一、二回警察が話を聞いてそれで終わりかな。きみが犯人でない限りね。そして僕は一人でこの事件に挑まなければならない。解決はまあたぶんきっと問題ないはずだよ。君がいなかったとしても事件は問題なく解決できるはず」
「一人で解決できるなら助手とか要らないのではないですか?」
「仮に一人で解決できたとしても、助手がいたほうがより簡単に事件が解決できると僕は思う」
助手が居たほうが簡単に事件を解決できる。か。
わかる話ではある。
俺は犯人ではない。
よって、ここで彼女の助手にならなければ、芽生さんと付き合いはここで途切れてしまいそうな、そんな気がする、いやその可能性が高いだろう。
仮に切れなかったとしても、これ以降で芽生さんと深く関われる機会はそう無いはずだ。
そう、根拠はと聞かれたら無いのだけど何となくそんな気がする。
なら、結論は一つ――芽生さんの事をもっとよく知りたいからね。
それに。
いちしさんが探偵であるならば、あの事件を解決してくれるかもしれない。
だから、ここで協力を申し出て恩を売っておいた方がいいだろう。
「わかりました。俺は芽生さんの助手になります」
それを聞いた彼女は、黒玉のような目を光らせながらこちらを見て右手を差し出した。
「本当に僕なんかの助手になってくれるのかい?」
俺は彼女のその差し出された手を右手で握り返した。
「ありがとう。契約成立だね。助手クン」
「その助手クンって言い方だけはやめてももらえますか?」
「気に入らないのかい?」
「はい」
そういわれ彼女は、少し思索した、そしてすぐに、「じゃあ君のことは永遠くんと呼ぶことにするよ。いいね?」と言った。
永遠くんか まあ助手クンよりマシか。
「はい、それでお願いします」
「了解したよ。それで、永遠くんは僕の事をなんて呼ぶんだい」
それを聞いて一瞬考えた、が無難な前と同じ呼び方で良いだろう。
「芽生さんって普通に呼びますけど」
「いちし」
「へ?」
「僕のことはいちしって呼んでほしい」
「何かしらの理由があるんですか?」
「君と一緒さ。それに、芽生の方は自分でつけた名前じゃないからね」
そう言われたら、こちらも彼女の提案を飲まざるをえない。
しかし、自分でつけた名前じゃないとは。
少し引っかかるが、とりあえず置いて置こう。
「わかりました。いちしさん、これからよろしくお願いします」
いちし”さん”の部分が彼女にとって引っかかったように見えた。やや他人行儀過ぎたかな?
とはいえ彼女は、別にこれでも良いか、と言う顔をしたあと次のことを言った。
「これで、僕は探偵で君は助手」
「お互い二人で頑張ろうね」
俺はそれに答えるべく、今まで握手し続けていた彼女の柔らかい手を決意を込めて更に強く握り返した。
そして。
女の子の手を握ったのはこれが初めてだなと思った。
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