告白
中庭にある時計は午後四時過ぎた頃を差していた。
その時、
この三人は仲がよく、周りから三姉妹と呼ばれている。
初めは、理江と歴木が別棟でおしゃべりしていたのだが、一旦落ち着いたため、帰ろうという話になった。
しかし、その帰り際に本校舎で民子と偶然出会い、立ち話が弾み、そのまま流れ で民子を含めた3人をでおしゃべりをすることにしたのだ。
そうして話し始めたのはついさっきである。
他愛のない大切でくだらない話しをしている3人にはある一人の男が、西棟から中庭に向かっているのが見えた。
その人物に3人の女子たちには見覚えがあった。
この時間に中庭を通って、東棟へ向かう人間など珍しい。
ましてや、それが悪名高い保ならなおさらだ。
眼の前の予想外の出来事に3人をは思わず口を閉じた。
しかし、保は我関せずといった態度で女子には見向きもせず東校舎へと入っていった。
「今の保じゃない?」理江が沈黙を破った。
「うん。あんななにもない所へ何しに行くんだろう?」歴木が言う。
「さあ? どうせまたなんか良からぬ事でも考えているんじゃ無いの?」民子が答えた。
そして。
「さ、そんな事はおいておいて、話しの続きを始めましょう」
民子がそういったのを皮切りに、3人をはまた、話の続きを始めた。
そして、彼女達は、これ以降西棟から中庭を通って、東棟に向かうものを見なかった。
常夜といちしがくるまでは。
窓を見ると、薄っすらと夜の帳が落ち始めていた。
慌てて図書室の時計を見ると四時五十分、そろそろ帰る時間だ。
君友も帰る時間つもりなのか、片付けを始めていた。
俺も帰り支度を行うが……しかし……なぜか体操服だけない……。
どうやら教室に置いてきてしまったようだ。
あの時何か忘れてる気がしたけどこれだったのか。
「君友悪い。忘れ物した」
「忘れ物? 何忘れたんだ?」
俺と一緒に帰り支度をしていた君友が言った。
「体操服。教室に忘れたから帰り、取りに行きたいんだけどいいよな」
「いーよ」
君友の返事を返事を聞きながら、忘れてしまった体操服以外の荷物を荷物をそそくさとまとめ同じく先にまとめ終わった君友と一緒に図書室を出た。
それと同時にもう一人、ある人物がまるでついてくるかのように図書室から出てきた。
芽生いちしさんである。
たまたま帰るタイミングが被ったのかな?
そんな事を思いながら、本校舎東棟の自分の教室へと向った。
本校舎へ向かっている間も芽生さんずっと俺達の少し後ろをついてきているようだった。
ただ、新校舎にある図書室から本校舎までの一番短いルートを通っているので別におかしなことではない。
一年生の玄関は本校舎にあるのだ。
彼女も最短で帰りたいだけなのだろう。きっと。
新校舎から続く、二階の本校舎西棟の最初の分かれ道で君友は、「先に玄関で待ってるぞ」といいながら左へ曲がり、玄関へと続く階段を降りていった。
そして、俺はその分かれ道を自分のクラスへ向かうために右へと曲がった。
すると、芽生さんもまるでついてくるかのように右へと曲がった。
おや?
流石に少し疑問を持った俺は、中庭の入口前で立ち止まった。
芽生さんも立ち止まる。
やっぱり芽生さんはついてきているのだろうか?
俺は思わず芽生さんの方を向きなおった。
芽生さんは少し驚いた表情でこちらを見つめ返した。
そして、しばしの静寂。
しまった。なんて声をかけよう。
振り返ったはいいものの、彼女にかける言葉が思いつかない。
芽生さんからかけてくれればと思ったが、彼女は当惑顔だった。
なんとも言えない空気。
そんな俺達の状況をあざ笑うかのように、中庭には女子達のお喋りする声が広がっていた。
そして、彼女は少し逡巡した後、そして、その目を決意に変えて言った。
「実はね。君に話したい事があるんだ」
「話したい事ってなんですか?」
「聴いてくれるというなら、それはここでは話せない。いい場所があるんだ。そこで話さないかい?」
彼女はこちらを真剣な目で見つめながら言った。
「周りに聞かれたくない。隠しておきたい事なんだ」
それを聴いて俺も逡巡した。
ここまでして彼女が話したい事って何なんだ?
しかも殆ど関わりの無かったこの俺に。
いや、たまーに彼女の方を見てたりした事はあったけど。
やましい気持ちで見てはないはず。
向こうからどう見えていたかはわからないけど。
そんな事を考えていたら、ある考えが浮かび、俺はそれを軽率に言ってしまった。
「もしかして告白……とかですか?」
言った後、心の中でしまったと思った。
女の子と話すのに慣れていないとはいえ、いくらなんでもデリカシーがなさすぎる。
「簡単に言えば告白、それはそうなのかもしれないね。だけど、僕の告白は多分君が思うものと比べて大分違う。それは君に覚悟を強いる。興味本位や酔狂のつもりで聞くならやめた方がいいね」
彼女は言いにくそうにただ目を少し下にそらして答えた。
「そしてこれは恐らく一方に負担を強いるものなんだ。その負担を受けるのは、多分君だろう」
それは先程までの寂然とした声ではなく、何か抑えられない物がこもっていた。
「それでも、君は僕の話を聞いてくれるかい?」
一瞬、デリカシーの無い事を言った意趣返しかと思った。
しかし、これは違う。
おそらくは警告だ。
これ以上
そんな感じの事が伝わってきた。
だけど、俺からすると芽生さんに近づけるチャンスなのだ。
彼女は俺の思っている以上にとんでもない存在なのかもしれないのは確かだ。
彼女の申し出について永劫とも思える程の思案をした。実際には一瞬だったんだろうけど。
そして、ある問いを彼女に投げかけた。
「話を聞くことは、芽生さんの助けになりますか?」
「うん、それは勿論だよ。それは僕にとって相当に助かる事さ」
それを聞いて俺は決心がついた。
だったら答えはひとつ。
「わかりました。芽生さんが何を話すつもりかはわからないけど、貴女の話をお聞きします」
「本当にか……」
「ただし」
「教室へ忘れ物取りに行った後、君友に後で帰ると連絡をした後でです」
彼女の感激を含めた感謝の言葉に対して、俺は条件を差し込んだ。
それを聞いた彼女は「ああ、そうだね、じゃあさっさと用事を終わらせよう」といい中庭へ向かていった。
結果的に言うと、この条件が満たされる事は無かったのだが。
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