概要
私の見た夢を元に書いてます。
その日も、風は穏やかだった。
陽は傾き、歩道橋の上には誰もいなかった。夕焼けの中に溶けていくような、静かな午後だった。
彼女は振り返らなかった。
肩まで伸びた黒髪が、風に揺れている。黒いカーディガンの裾が小さくはためいた。だが、その背中は終始まっすぐに前を向いたまま、一歩一歩、橋の向こうへと歩いていく。
呼び止めようとして、声は喉の奥に貼りついた。
「ミサキ……」
たしかに名前を呼んだ気がした。だが、彼女は気づかなかった。いや、気づいていて、無視したのかもしれない。それさえも、今となってはもう定かではない。
足元には、壊れた懐中時計が落ちていた。金属のカバーは半分開き、長針と短針は、ずれたまま止まっていた。秒針だけが、わずかに動いているような気がした。だがその音