シンボル (2)

 バベルは四方を高い外壁によってぐるりと囲われている。もともとは壁ではなく簡易的な柵で囲われていて、場所によっては柵すら無かったのだが、マジュウが出現するようになり、外壁が建てられることになった。

 それに伴い、町に入るための門も造られ、東西南北にそれぞれ4つの門ができた。門には見張り台がついており、何か異常があった場合すぐに知らせられるようになっている。異常と言っても、マジュウ出現くらいのものなのだが。


 南門ではマジュウが出たことを表す狼煙があげられ、人が多く集まっていた。集まっているのはアサドを中心とした守護団のメンバーたちだ。守護団ではない人々もいたが、彼らは近場に住む者たちであり、興味本位の野次馬という訳では無かった。マジュウは生態も目的も不明な存在のため、バベルの住人は皆、その恐ろしさを理解していたのである。

 エハードが南門に着いた時には、すでにメンバーは集まっていた。

 「ようエハード。体調は大丈夫か?」

 守護団の一員であるエモンが声をかけてきた。赤色が好きだと言うエモンは守護団用の車までも赤く塗ってしまう程で、今日も赤を基調とした派手な作業着を着ていた。

 「問題ありません。エモンさんこそ大丈夫なんですか?顔色悪いですけど」

 「最悪に決まってんだろ」

 エモンはマジュウが大の苦手なのである。なぜ守護団に属しているのか分からないくらいにマジュウが嫌いなのであった。

 「そんなに嫌なら来なければ良いのに。運転ならアサドさんにも出来ますよ」

 毎度のことながらエハードはそう思う。

 「イヤだから行かないわけにはいかないだろ。誰かが行かなきゃならんのだし。あんまり見縊んなよ?」

 腕を組んで不貞腐れたように言うエモンだが、中心にいたアサドがマジュウについての説明を始めると肩をビクリと震わせた。

 変な見栄張らなくてもいいのにとエハードは思った。


 「皆、注目してくれ」

 守護団の中心人物であるアサドが手を叩きながら声をかける。その一言で周囲が緊張感に包まれる。

 「今回現れたマジュウは鳥型だ。飛行ができることも確認できている。だが、やることはいつもと変わらない。エモン、アリア、エハード、そして私が出る。他の者は防衛を頼む」

 その場が一瞬静まり返ると、ある者が手を挙げアサドに質問を投げかけた。

 「あの、鳥型なんて今まで出たことありましたっけ?いつもと同じ対応で大丈夫なんでしょうか」

 他の者も似たような意見のようだ。少々、不安そうな顔つきの者もいる。

 今まで出現したマジュウはムカデやヤギといった陸上の動物の型をしたものだけだった。しかし、今回現れたのは鳥型ということだ。

 「『同じ対応で大丈夫』というよりも、同じ対応しかできないというのが本音だ。マジュウは分からない部分が多い。よっていつもと同じように気を引き締めてくれとしか言えない」

 誰かが唾を飲み込む音がした。

 そもそも守護団はマジュウ討伐のプロフェッショナルというわけではない。マジュウという存在がバベルの技術力をもってしても解明することができていないため、対応のマニュアルやセオリーといったものは無い。弱点や有効手段といったものは無く、行使できる技術を適切に運用するしかないのだ。唯一できるとと言えば、翼をもつという共通点から、早期発見を目指す程度のものである。

 そんな中で飛行というイレギュラーを持った鳥型のマジュウは守護団の不安を煽った。

 「空を飛ぶということはあっという間にバベルへ来れるということですよね」

 「外壁も意味が無いものになるぞ」

 「対空の手段をかき集めなくては」

 「とにかく有効打を考えないと!」

 不安感から誰もが好き勝手に話し始めるとちょっとしたパニックのようになった。

 (大丈夫なんだろうか)

 様子を見ていたエハードは、まるで他人事のようにそう思った。良くも悪くも冷静なエハードにとってマジュウがどんな形をしていようが、やることは同じだと考えていた。

 (この騒ぎを収められるのはアサドさんと、それから、、)

 隣に立っていた影が一歩、前に踏み出すのがわかった。


 「はい!注目!」

 

 手を高く挙げながら声を張り上げたのはエモンだ。

 「マジュウがどんなやつだろうが、オレたちがやることは変わらない!マジュウからバベルを守る!それだけだ!だから!ここでウダウダ言ってても仕方ない!とにかく、どんな事にも対応できるように準備する!そうすればオレたちなら何とかできる!そうだろ⁈」

 一気に注目を集めたエモン。誰もが口を閉じ、エモンの声に聞き入っていた。

 「そうだな、ここで喋ってても仕方ない」

 「とにかく出来る事を、だ」

 「臆病なエモンがそう言ってるんだ」

 「そうだな、ビビりのエモンが」

 「エモンに言われちゃお終いだがな」

 「おい!なんでオレの悪口になってる⁈」

 いつの間にかリラックスした雰囲気になっていた集団は各自の持ち場へと向かった。

 残ったのはエモン、エハード、アサド、そしてアリアの4人だけだ。

 アリアはニヤニヤしながら口を開く。

 「いやー、カッコ良かったよ、エモン。手が震えてなければ、もっと良かったよ」

 「うるさい、アリア」

 舌打ちしながらそっぽを向くエモンにアサドが声をかけた。

 「いや、本当に助かったよ。あの状況じゃ私が何を言っても、きっと落ち着かなかったからね。全員に一目置かれてるエモンでないと駄目だった」

 「いや、そんな、、。アサドさんの方が皆に信頼あるでしょ」

 一目置かれてると言われたことが嬉しかったのか、言葉とは裏腹に照れくさそうにしている。

 しかし、その表情は

 「ビビりのくせに前線に立っているという意味で一目置かれてるエモンじゃないとね」

 というアリアの言葉によって消えた。

 またしても火花を散らしそうな2人だったが、エハードに

 「早く行きましょうよ」

 と言われて、やっと収まった。

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