6話


 よく朝。

「まったく、どういうつもりで、おまえはこんなに私を心配させるのだ?」

 王子のしたことは、王様の耳にも入り、王子は王様から長いお説教を頂きました。

 そして、きょう1日、自分の部屋から出てはならないというお仕置きも。


 王子は、何をする気にもなれず、しかたなく形だけ机の上の書物をめくっていると、開けておいた窓に、舞い降りるように1羽の白い鳩が。

 今までにも鳩が来ることはあったので、王子が手を差し伸べると、その鳥は、なんと人の言葉で、こう鳴きました。


「ああ、とうとう最後の人魚も、あなたの家来に捕まってしまった。

王子と魂を分けた者が、みな殺されてしまうとは、なんと罰当たりな。この城はもうおしまいだろう。」


 王子は、びっくりして口がきけません。

椅子を蹴って立ち上がり、鳩に向かって叫びました。


「一体おまえは何者だ?人魚が僕のなんだって?」


 鳩の円いふたつの眼は、王子の眼をしっかり見つめています。


「わたくしは、ただの鳩の一族の1羽にすぎません。

しかし、空からずっと、貴方がたの一切を見届けておりました。

貴方がたのことは、一族の間で大事に語られてきました。」


「人魚がぼくと魂を分けたとは、どういうことだ。」


「あなたには、父君の血が半分流れている。

そして父君の血は、すでに人魚によって犯されている。

なぜなら人魚とは、交われば相手の魂の欠片を奪っていくものですから。

人間もまた、そうであるように」


 王子は、はっとして、問いかけました。


「父は、人魚と交わったのか?それなのに、母とも結婚したと?」


 鳩は、目を伏せて鳴きました。


「こう申し上げるのは何ですが、あの人魚姫はたいそう可愛らしくあられた。

人間の男なら、放っておくことのできる者は、まずいません。…」


 王子は、思わず自分の両手を見ました。

「そんな大事なことを、今になって初めて知るだなんて…。」


それから、王子は鳩の言ったもうひとつのほうを思い出して、顔が真っ青になりました。


「さっき、なんと言った?あの人魚が捕まったって?」


その時、部屋のドアからノックの音が聞こえ、同時に鳩は、さっと飛び立って逃げていきました。


「王子様、3時のお茶をお持ちしました。」


 聞こえてきたのは、まだ少年の召使いの声。

 

 王子の中で、何かが弾けました。


 王子は召し使いを部屋の中に引き入れ、彼の腕をつかむと強引に、自分の着ている服と召使いの着ている服を取り替えさせました。

 わけがわからないで震えている召使いに、決して部屋の外に出ないように言いつけ、自分は召し使い用の、簡素な衣に短剣だけをつかみ、部屋を飛び出しました。

 城から抜け出すまで、すれ違う召使いや門番が、こそこそ噂しているのが耳に入ってきました。

「…久しぶりに人魚が捕まえられたらしいな。血の気の荒い漁師どもが、生け捕りにして、城に持ってきたとか。…大臣が、たいそう喜んで、ほうびをたっぷり渡したらしいよ。…」

「…その人魚は日が落ちる前に、崖の上の聖堂で、火あぶりだってさ。…街なかでは多くの者が見物に行きたいと、騒いでいるらしいよ。あーあ、あたしも仕事がなきゃ、ちょっと見てみたいもんだ。…」


 王子は身の毛がよだちました。

「大変だ…!あの人魚が何をしたというのだ。」

何としても、崖の上の教会まで行かないと。

王子は、何とか城を抜け出すと、賑やかな城下町の通りを、ただひたすら走りました。















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