第11話 放課後の図書室、君の息が聞こえる距離で

放課後。

西日が射しこむ図書室の片隅で、俺は静かにページをめくっていた。


隣にはルイ。


さっきまでふたりでラノベの新刊を読んでたけど——

今は、会話もなく、ただ隣にいるだけ。


「……静かだね」


ルイが、ぽつりと呟いた。


「うん。……でも、こういうのも、悪くない」


「……ふふ、陽翔ってさ、ほんと変わったよね」


「え?」


「昔はもっと引っ込み思案で、目も合わせてくれなかったのに」


(そ、それはお前が可愛すぎる男の娘だったから……)


「今は、ちゃんと隣にいてくれる。触れても、逃げないし」


「……逃げるわけないだろ」


俺はそう言いながら、手を伸ばして、

そっとルイの指に触れた。


小さな手。細くて、でも意外と熱を持っている。


(この手を、握っていいんだろうか)


「……ね、陽翔。好きって、どうやって伝えるんだろうね」


「え……」


「言葉で言うのって、なんか……こわい」


「……俺も、そう思う」


図書室の空気が、ぴたりと止まった気がした。

ふたりの間に漂う“なにか”が、空気を変える。


そのとき——


「……だったら、キスで伝えてみる?」


ルイが小さく笑って、顔を寄せてくる。


距離、10cm……5cm……


(これ、また……来る!?)


その瞬間——


「こほんっ!」


司書の先生が通路を通りがかり、咳払いひとつ。


「……っ!?」


ふたりして、ビクッと肩を跳ねさせて、

慌てて距離を取った。


「……あー……」


「……タイミング、悪っ」


ルイが口を尖らせたあと、俺を見てふっと笑う。


「じゃあ、今日は……教室、行こっか」


夕暮れの教室。

生徒の声ももう聞こえない、放課後の静けさ。


「ここなら……いいでしょ」


ルイが、俺の胸元に手を置いて見上げてくる。


「さっきの、続き」


「……ルイ」


俺はもう、何も言えなかった。

ただ、顔を近づけて——


「陽翔」


ルイが俺の頬に触れて、ほんの一瞬、

唇が……触れそうになったところで——


「ガラッ」


「え? 誰かいるー?」


教室のドアが開いて、女子グループの声が響いた。


俺たちは反射的に机の下にしゃがみ込む。


(まじかよ!? ここで……隠れんの!?)


ルイは俺にぴったり寄り添って、囁くように笑った。


「……こういうのも、ラブコメっぽくて、好き♥」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る