第10話 漆
「お腹の奥、へその下のあたりに何か熱い感覚はありませんか?」
「言われてみれば、何か熱を感じるな」
「それが魔力です。まずは魔力を感じることが、魔法行使の第一歩です」
オレがスラムのボスとなって数日。
オレは、自分に備わっているかもしれないという『魔力』というものを知ることに注力していた。
ボスになったその日は、サナを辱めた輩どもをぶちのめすことを考えていたが。
何にも考え無しに突っ込んで行ったところで、所詮、暴力というチカラはそれを上回る暴力の前では何も為せないという事に気が付いた。
輩どもはこの国の貴族や有力者でもあるというし、それなりの暴力装置を所持していることは明らかだ。
であれば、そんな輩どもに返り討ちにされてまでも特攻するのが『オレの欲望』なのか? いや違う。
オレは、オレの力で、オレの暴力で、気に食わない輩どもをぶちのめしたいのだ。
その為に、チカラを付ける。
自分の可能性を知り、出来ることを増やすことが必要だ。
という事で、オレが無意識に発揮した強さの原因を探っているのだ。
オレに魔法のことを教えてくれているのはシャハリという30歳くらいの女性。
某貴族家に繋がる系譜を持ち、上位貴族のメイドとして勤めていたが、家の中の勢力争いに巻き込まれ、あらぬ濡れ衣を着せられて放逐された過去を持つ。
貴族の血を引いているため、初歩程度ではあるが魔法を使えるという事でオレの魔法の教師役をやってもらっている。
シャハリが教師役になってから、なぜかサナの機嫌がよろしくないが、それでも夜になればオレに必死で奉仕をしてくれる。
それにしても、オレの日本人としての常識からすれば、オレのこの10歳に満たないであろう見た目の年齢からして、そのような行為を営めるような生殖能力はないはずなのだが、なんというか、底なしの体力というか、兎に角毎晩サナはぐったりと精魂尽き果てる状態に至っている。
「では、その感じた熱、魔力を全身にまんべんなく広げて行ってみてください」
そして、魔力を感じた後はその魔力を操作する訓練。
サナのことを考えたせいなのか、なぜか下半身の一部に魔力が集中していく。
もしかして、魔力というのは夜の営みにも影響を及ぼすのだろうか?
すると、なぜかシャハリが顔を赤くして息を荒げているではないか。
「はあぁ、トキオさまぁ‥‥‥、その刺激は、わたしにはきつすぎますぅ‥‥‥」
そう言われても、オレも何が何を刺激しているのかわからない。
そして、シャハリは腰が砕けたようにその場に崩れ落ち、なにやら内またをこすり合わせるように体を動かしている。
すると、どこからともなくサナが現れて、オレとシャハリの手を引いて家屋の中に連れ込まれる。
「もう、仕方ないです。トキオ、責任取ってあげなさい」
「はい?」
「トキオは今、魔力を暴走させてシャハリに『発情』の効果を付与しちゃったの。で、シャハリもレジストする気が無い物だから、すんなりやられちゃったってわけ。」
うん、よくわからん。
「で、その余波をわたしも受けちゃったと、そういうことなの」
で、よくわからないながらも迫ってくる二人と相対し、オレもオレで湧き上がる欲望に身を任せた。
‥‥‥
「はあ、はあ、トキオ様の魔力はとんでもないですね‥‥‥」
「‥‥‥ほんと、いつもの夜でもすごいのに、魔力を纏うとここまでなんて――」
シャハリとサナが息も絶え絶えに何かを言っている。
どうやら、オレの魔力とやらはとんでもないらしい。
ひとしきりのチカラの行使が効いたのか、オレの下半身の一部に溜まった魔力はいつの間にか霧散し、いまは全身に満遍なく魔力がいきわたっていると実感できた。
「こ、こんな方法で魔力を馴染ませるなんて、聞いたことがありません‥‥‥」
うん、オレもよくわからないので勘弁してほしい。
その後、復活したシャハリから再度の教えを受け、全身に纏う魔力を身体能力に変換する『身体強化』を任意で発現させる感覚を体得した。
◇ ◇ ◇ ◇
――夜。
オレはスラムを抜け出し、外壁で囲われた街の中へと忍び込む。
当然、外壁に設けられた扉は固く閉ざされ、それを守る衛兵も配置されているほか、壁の上には周囲を警戒している衛兵や篝火もそれなりに見受けられる。
そのため、普通の手段ではとうてい街中に侵入することなどできない。
日中に正面から入ろうとしても、スラムの住人は事情のない限り立ち入りが許可されることはない。
では、どうやって入り込むのか?
こうした外壁は、大概の物語で語られるように、どこかしらに壁の崩れた人の通れる隙間というものが存在する。
まあ、探せば地下の下水道やらの秘密の通路もあるだろう。
で、夜の昏さに乗じて、その壁の隙間から街中に忍び込んだ。
目指すは、この街の下級貴族の邸。
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