第8話 伍
食事を終え、寝ていた部屋から外に出る。
すると、そこには数人の若い男たちがたむろしていた。
もしかして、先日オレが暴れたことへのお礼参り的なあれなのだろうかとも思い少し警戒する。
すると、
「「「おはようございます!」」」
その男たちは、きれいに揃ってオレに頭を下げてくるではないか。
「えーっと、なんだお前らは?」
「はいっ! おいらたちは、アニキの強さにほれ込んで!」
「部下にしてもらおうと思ってます!」
いや、あなたたちどう見ても今のオレより年上でしょうが。
そんなツッコミを脳内でしていると、奥に座っていたもう一人の青年の男が立ち上がってこちらに近づいてくる。
その男の顔は腫れあがっており、いかにも殴られましたという風貌だ。
「あんたの名前は?」
今日はよく名前を聞かれる日だなと思いつつ、先ほどサナに答えたと同じ名前を告げる。
「トキオだ」
「‥‥‥家名は? いや、聞くべきではないのか」
この男が何を言っているのかがよくわからない。
「まあ、あれだ。この俺を倒したんだ。このへんの仕切りはお前に任せることになる。」
ほんとうに何を言っているのかわからない。
オレの戸惑ったような表情を見て取ったのか、その青年はいろいろと語り始めた。
青年の名前はアントニオ。
どうやら、オレが現れるまではスラムのこのあたり一帯を取り仕切る勢力の親分だったらしい。
で、あの時オレが暴れたのはこのアントニオの仕切る地域だったようで、そこの庇護下にある住人にオレが襲い掛かって食べ物を強奪し始めたと。
そして、自分の支配する地でそのような狼藉を働かれたアントニオとしては、そんあ不埒な輩をぶちのめすべくオレの前に立ちはだかり、見事オレに返り討ちにされたという事らしい。
オレ、あんたを殴ってたんですね。なんかごめんなさい。
ということで、このスラムの風習として一番強い者が全てを手に入れることになっていると。
そしてアントニオを打ち倒したオレはアントニオの後釜となり、ここら一帯のボスになったという事らしい。
で、その権力交代劇を間近で見ていた若者たちが、新たな権力者にお近づきになろうと集まったのが、さっき挨拶をしてきた若い連中とのこと。
聞けば聞くほど、どうしてこうなったという感想しかわかない。
オレは、単に腹が減って食い物を強奪するという強盗罪を犯したというのに、咎められるどころが崇められるがのような扱いでボスになってしまったようだ。
するとすかさず、さっきの若者連中が口をはさんでくる。
「いやー! トキオのアニキ! アントニオの兄貴をあんなあっさり倒しちまうなんてとんでもない強さっすねー! やっぱあれですか? 魔力とか持ってて身体強化とかしてる感じっすか?」
うん、キミの目の前にその倒されたアントニオさん居るんだけどね?
ふと見ると、アントニオさんはその腫れたお顔で苦笑いのような表情を浮かべてらっしゃる。
というか、今こいつなんつった?
魔力?
身体強化?
そんなオレの戸惑った表情をまた見て取ったアントニオさんが口を開く。
「ああ、若いもんがすまない。その顔を見るとトキオはわかってなさそうだから説明させてもらう。」
その後はアントニオさんの説明に調子のいい若者たちが追随する形で説明を受ける。
どうやら、このアントニオさんはかなりの強さを持っており、スラムに堕ちる前は国の騎士団にも籍を置いていたことがある人物らしい。
スラムにきたその諸事情とやらはこの場では語られはしなかったが、兎に角それほどまで強いアントニオさんを一撃でのしてしまったこのオレには、何らかの強さの理由があると思われていること。
その強さとは、先ほど若者が語った『魔力を使っての身体強化』であると目されていた事。
で、この世界では魔力を持つ者というのはほんの一握りであり、その多くは長い年月にわたり血統をコントロールしてきた王侯貴族に多いという事。
これらの事情により、オレはどこかの貴族から追放なりされた訳アリの人物と思われていた事を説明される。
そして、オレはそれらの事情を一切知らない様子なことから、この国の貴族ではなくどこか別の国からここにたどり着いた者なのでは? という風に評価が変わっているそうな。
そんな話をしていると、さっきまでオレが寝ていた部屋の片づけなりが終わったのか、サナがこちらの部屋にやってきた。
その表情は、さっきまでオレに向けていた親愛のようなものが削げ落ち、最初に見た時のように感情が抜け落ちた仮面のような表情に変わっていた。
サナの顔を見て思い出す。
さっきサナに言われたことを。
――この食事は、打算であり投資。
オレが今後生み出す価値の為に支払われた対価。
アントニオさんらの話では、オレはこれからこの一帯に住む人たちのボスになるらしい。
ならば、そこに住む人々を養い、導く必要があるということなのか?
「なあ、オレはこれから何をすればいいんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます