『帰還』①
「これなら二年もかからないうちに王都に辿り着けますかね」
ちらりと後ろを振り返りながらゴルドーが言った。
魔王城に最も近い街を発ってから二ヶ月が過ぎた。日が経つにつれて世界を膜のように覆っていた瘴気が少しずつ薄くなっているの感じる。あと何年もしないうちに瘴気のない空を見ることができるはずだ。
帰路は魔王城を目指していた頃に比べると随分と気楽で負担も少なかった。力を失った魔族は身を潜めているのか滅多に遭遇しない。戦う機会が減ればそれだけ怪我をすることもなく、傷を癒やすために町や村に逗留する必要もない。先に進むために迷宮を潜る必要もなくなった。自分たちが足踏みをしている間に、どこかで誰かが死ぬかもしれないというプレッシャーもない。
「魔法艇があればとっくに帰り着いてるのによ」
「仕方ないわ。天空城の帰りに壊れちゃったんだもの。元々、再現不可能な古代の技術。あの時動いただけでも奇跡だったんだから」
空を走るように飛んだ船の話をしながら、トウリもユーミィも気にするように背後の様子を窺う。
「ねえ。もう少しゆっくりでもいいんじゃない。離れすぎてしまう」
先を歩くライの背にユーミィが言った。
「ゴルドー。探知はできているかい」
「微弱にはなりつつありますが、今のところは。ちゃんと後を追いかけてきているようです」
「ならいい。ヨキを探知できる範囲なら僕が走って追いつける。逃げ出せばそれまでだ。転移魔法を使わず馬も断っている以上、面倒なことを言われる前に王都を目指さないと」
ゆっくり、とユーミィは言うがパーティでの行軍としてはむしろ遅い。ライを含め全員の意識が後方へ向いているからだ。ヨキはもう豆粒ほどの大きさで辛うじて肉眼で確認できるまで離れてしまっている。
魔族は人よりも頑丈に生まれ人よりも一ヶ月もすれば歩き始めるという。十二歳ぐらいだろうヨキは体力だけなら人間の大人と同じくらい歩けるはずだ。遅れているのはライたちが早すぎることと、歩幅だけは子どもと同じでどうしようもなく差が生まれてしまうというだけだ。
ゴルドーが探知をしていることをヨキは知らない。だがどれだけ離れても逃げ出すこともすれ違った人間を襲うということもない。パーティが野宿をしているところに必ずやってきて、みんなと同じものを食べて寝る。その間もライの動きを逐一観察している。ライを殺して人間に復讐するという信念だけが彼を支えてた。
「次の町は俺が野宿をする。ライは宿に行け」
唐突にトウリが言った。
「いや僕はいいよ」
「あいつの事を引き受けたからって気持ちはわかるが。勇者にそんな身なりでいられたんじゃ俺たちが困るんだ」
ここに来るまでに立ち寄った村と町は二つずつ。今のところ全てライは挨拶だけを済ませて中には入らなかった。水浴びで身を清めていはいるが服も肌も薄汚れている。
「交代でと決めたんだ。パーティの約束事をお前が破ってどうするんだ。そんなに俺たちは頼りないか」
トウリが今にも泣きそうな顔をして言う。これがゴルドーなら嘘の可能性もあるがトウリは厄介なことに本音だ。本気でライのことを心配し、頼られないことを悲しんでいる。
ライは、お手上げだと肩を竦めた。
「すまなかった。確かに僕だけでなんとかしようと気負っていたのかもしれない。次はトウリ。お願いするよ」
「ならトウリの次は私が担当しますよ」
「その次は私がーー」
「いや、申し訳ないがユーミィには任せられない」
ライが即座に否定する。
「私だけ足手まといだということかしら」
「違うよ。ユーミィの力では万が一のことがあったときに危険すぎる。」
聖女たるユーミィの力は神の加護だ。聖なる力は魔族に効果は絶大だ。ヨキに対する危険は無いに等しい。
「人には使えないだろう」
ライが警戒しているのは人間に対してだった。天上の力を借りるユーミィの攻撃は人を傷つけることができない。もし街で起こったように人々がヨキを狙えばユーミィには為す術がない。
「そろそろ僕たちが魔族を連れていると噂が立つ頃だろう」
「……わかったわ」
ユーミィの顔は明らかに承服しかねるという顔だ。
「ライは危険な目に合わせたくねえんだよ。気にせず俺らに任せておけって」
「でも」
「代わりにユーミィには旨い食い物と酒を持ってくるっていう重大な役目があるんだ。頼んだぜ」
真顔で言ったトウリにユーミィは微笑して頷いた。
敵わないな、とライは思う。
豪放磊落な男に見えて、パーティの中で誰よりも目端が利く。ライとユーミィが喧嘩ををすれば仲裁に、ゴルドーが落ち込めば慰めに。亡くなった仲間がしていた役割を自然と年長のトウリがこなすようになっていた。今やパーティの大事な潤滑油だ。彼がいなければ魔王と戦う前にパーティは解散していたかもしれない。そんな危機は一度や二度ではなかった。
「トウリは王都に寄ったら故郷に帰るんだろう。その後は?」
王国の領地の右隣、帝国領の西南に広大な古い森がある。その最奥にある村がトウリの故郷だ。元々は父親の跡を継いで村長をしていたらしいが、まとまった金が必要になり王国領で護衛を請け負っていた。仲間になってすぐ、魔王を倒す旅に出ることを伝えるため一度だけ訪れたことがある。妻と二人の子供がいた。
「しばらくは酒飲んで飯食って寝る。もう護衛も必要ねえだろうしな。それから先は親父がやってたみたいに田畑でも耕すさ」
「もったいないですね。国王守護の役目は務まるでしょうに」
「俺は帝国領の人間だぜ。任せてくれねえだろう。それに似合わねえよ」
トウリは顔の前で手を横に振る。
「似合わないことには同意しますけど。王国と帝国は犬猿の仲なのは周知の事実とはいえトウリは仕事のために出自を偽っていたでしょう。大丈夫なのでは」
「とっくに調べられてるに決まってるだろ。俺はともかくゴルドーは魔法学院に戻るんだっけか」
「ええ。魔王を倒して帰ってたら研究職として雇ってもらえるよう言質も取ってます。やっと自分のやりたいことができますよ」
ゴルドーは生まれも育ちも王都の人間だ。知り合ったのはちょうど就職先を探しているころだった。大幅な飛び級で卒業が決まっていたが若すぎるが故に就職先を見つけることに苦労していた。本人は自分のこだわりが強すぎるのが問題なのだと言っていた。
強すぎるこだわりも魔法においては間違いなく才能の塊だった。旅の間にも魔法の修正を幾度も加えて続け、失われかけていた古代魔法も難なく使いこなす。研究職はうってつけだ。
人が踏みしめて作り出した道の両脇にはだだっ広い青々とした草原が広がっている。その中にぽつんと立っている古木の側まで歩いた時、
「少し休憩しよう」
とライが言った。
「先を急ぐんじゃないのか」
「みんなで今後のことを話すなんてなかった思ってね。王都に帰り着いてしまえばバタついてあっという間に別れてしまうだろう? ヨキが追いつくまでの間だけでも、どうかな」
「いいわね」
ユーミィは賛成の声をあげるとすぐに鞄から帆布の敷物を取りだして木陰に広げる。ヨキの姿はまだ豆粒ほどの大きさだ。
野宿の時と同じようにゴルドーが水筒の水を魔法で沸かし、茶葉を煮出して木をくり抜いたカップに注いで回す。トウリは麻の袋の口を広げる。中には乾燥させた果物の実が入っている。
「ユーミィはどうする。村に戻るつもりなのか」
トウリが果物を一つ手にとってポンと口に入れる。
「まだ決めてない。王都に帰れば仕事もいただけだろうし、教会のお手伝いができればいいのだけれど」
何を言ってるんですか、とゴルドーがため息を吐く。
「聖職者としてなら大司教以上でしょう。教会が放っておくはずないですよ」
「私が大司教様以上なんて恐れ多いわ。もちろん私にできることがあるのならできる限り力になりたいと思う。でもそれと同じくらいあの村で静かに暮らしていきたいという気持ちもあるの……思い出が辛いだけかもしれないけれど」
ユーミィは僅かに顔を曇らせ、困ったように微笑を作る。
「魔王を倒した後のことなんて考えてもいなかったのよ。目の前で起こる出来事に立ち向かうだけで精一杯で。まさか本当に倒した後の世界が来るなんて思わなかったの。それもこんなに早く」
「魔王は神話に出てくるくらい昔から存在してたんだもんな。俺もだよ」
「私もです」
「僕だけかい。倒せると思っていたのは」
ライが不満げに茶に口をつける。
「あなたなら倒せると信じていましたよ。ただその中に自分が含まれていることを失念してたんです。たぶん、みんな」
「そうなのかい?」
ライの言葉に三人は頷く。
「この旅はあなたが始まりで、あなたが導いてくれた旅だもの」
ユーミィは一拍置いて慎重に口を開いた。
「ライは本当に村に帰るの?」
「ヨキのこともあるしね。僕が王都にいる意味もないし」
「でもあなたは魔王を倒したのよ。何だって望んでいいはずよ」
「王様が魔王を倒せたら娘と結婚して次の王になってもらうって言ってたっけな」
「ありましたね。でもライは『王女は景品じゃない』と腹を立てて。それを聞いた彼が『いいじゃん、娘も国も全部奪っちまえば』って――」
全員の視線がユーミィとゴルドーの間、自然と空けて座るようになった空白に目をやる。
「……やりたいことはたくさんあったでしょうね」
「あの馬鹿。盗賊は身軽さが命って自慢してたが、身軽すぎるってんだよな」
いつの間にか一緒に旅をした時間よりも亡くしてからの時間の方が長くなった。それでも出会いから別れまでの間をはっきりと思い出せるし、思い出すとチクリと胸が傷んだ。
『おや。久方ぶりに会いに来てみれば随分としんみりとしておるの』
声がどこからともなく耳に届いた。
周囲に人の姿はない。それどころかあらゆる生き物の気配が消えている。
「やあ。シルフィ。君の領地は遙か先だろう」
何もない中空に向かってライが挨拶をする。光が集まり小さな女の子の姿になった。
半透明の透けた身体は浮いていた。上下する度にふわふわと長い髪が揺らぐ。幼い顔立ちに碧玉の瞳。だが表情は姿とは不似合いな傲岸不遜さが現れている。
当然だ。目の前にいるのは風を統べる大精霊シルフィなのだから。
『小僧よ。元々風が吹くところは全て我が領地ぞ。魔王の瘴気に阻まれあんな狭苦しい土地に押し込められておっただけじゃ。本来風を捕まえるものなどありはせん』
旅立ちから三年、まだ魔王の足元も見えていなかった頃。四大精霊の中で一番最初に出会ったのがシルフィだった。
「機嫌がいいね」
『ここまで来るのも久方ぶりじゃからのう』
シルフィはその場でくるりと回ってみせる。顕現している姿は幼いが、この世界とほぼ同時期に生まれた神代の存在だ。
『相変わらず小僧は動じぬな』
「存在してるなら姿を見ることもあるだろうからね」
事も無げにライは口にするが、他の三人の表情は若干引きつっている。シルフィの姿はたった一回、聖典に記されているだけだ。数千年、誰も見たことのない髪に次ぐ序列の大精霊を存在しているならと簡単に受け入れられる人間はいないに等しい。まして対等に話すなどできるはずもない。だがそれをすんなりとやってのけるからライは勇者でもあるのだ。
『小僧が魔王を倒すというのは半々の期待じゃったがよくやってくれた。礼を言おう。ありがとう』
人に倣ってか軽くシルフィが頭を下げると、「ひっ」とユーミィは身体を震わせ卒倒しかけた。神話を歴史、聖典を教科書に生きる彼女にとって大精霊が礼をするなど恐れ多いにも程があった。
『さて。話は変わるがお主らの後方から魔族が歩いてきているな』
「追いつきそうかい」
『この一帯は我が空間を切り離しておるがまあもうすぐじゃろうな。どうやら気づいておるのだな』
「色々あってね。彼は僕たちと共に王都を目指している」
シルフィがぽかんと開いた口を閉じユーミィたちを睥睨する。
「本当です」
ユーミィが恐る恐る声を絞り出す。
途端、一面を覆う草が揺れ始める。何の気配もない周囲を風が流れ始める。そよ風のように頬を撫でた風は次にはもう速度を増していた。
『小僧。己が何を言っているのかわかっておるのか』
眉間に皺を寄せた表情とは違い、声は甘やかすように柔らかい。
「理解しているよ」
『たわけがっ!』
シルフィが声を低くし一喝する。ライは平然と立っているが、他の三人は叩きつけるような大精霊の神威に身が竦んで動けなくなった。
『魔王は死んだ。それによって力を失した魔族たちも獲物だった人の手に、あるいは自然の淘汰の中でいずれは滅ぶじゃろう。それほどまでに今の魔族は弱い』
「そうだね」
「魔王の誕生から世界を覆っていた瘴気は消え去る。長きにわたる大病はやっと終わりを告げたのだ。世界には健やかな巡りが戻ってくる。だというのに勇者よ。救ったその手のひらで新たな病を育むつもりか』
「違う」
断言したライの返答が気に入らなかったのか、シルフィの操る風は更に勢いを増し、渦を巻きはじめた。草が切れ、土が抉れて巻き上がる。
『ならば今ここであの魔族を殺せ。一切の禍根を残すな。それができぬなら我がここで貴様らごと葬り去ってくれよう』
「聞いて下さい、シルフィ様」
『口をッ! 挟むな!』
怒号と共に叩きつける風がユーミィを襲い軽々と吹き飛ばされる。慌てたトウリが走り背後から受け止める。ユーミィの頬には血が滲んでいた。
「大丈夫か」
「平気。薄く切っただけ」
そうか、とトウリは安堵の息を漏らす。だがすぐにシルフィーの操る風が二人を襲う。
「ゴルドー」
鋭い風が到達するより先にブン、と低い音が耳に届く。トウリの傍らまで退いたゴルドーが防御魔法を展開した音だ。風が防御魔法で二つに割れて通り過ぎてく。
「大精霊が本気を出せば紙も同然ですが……もう少しなら保つでしょう」
それはシルフィの機嫌一つでこの場にいる四人はもちろん、追ってきているヨキも呆気なく死ぬということだ。
ふん、とシルフィーは一瞥し興味をなくしたように視線をライへと戻す。
全員の生死の鍵を握るライは退くこともなく、近距離でシルフィと対峙したままだ。すでに身体は風に切られて無数の傷ができていた。だがどれも致命傷になるほど深くない。怒りはしているが加減できる冷静さも残っている証拠だ。話をする余地はまだあった。
「シルフィ」
ライの声は風の唸りに負けることなく大精霊の耳へと届く。
「魔王が生まれて僕たちが討つまでに何年経った」
『おおよそ一千年。だからなんじゃ』
「悠久を生きる君たちにとって一千年はうたた寝にも満たない間だろう。僕と話しているのだって君の瞬き一つの気まぐれかもしれない」
『我の瞬き一つの時間も貴重ぞ。くどくど話を続けるなら今すぐ首を落とそうか』
シルフィの顔に剣呑さが増す。トウリがいざとなれば自らを盾にするつもりで飛び出す構えを取る。だがそうはさせないと風が防御魔法に守られた三人を取り囲むように渦巻きはじめた。風の向こうが歪むほどの勢いは、防御魔法を纏ったとしても抵抗する間もなく全身を細切れにされるだろう。到底助けには行けない。
「聞いてくれシルフィ。人間にとっての一千年は君たちとは大きく違う。知っての通りもう何十代を命を繋いでいる。今、生きている人間は魔族がいて当たり前の世界に生まれて育ったんだ。人だけじゃない。植物も家畜も瘴気が漂う空気の中で生き抜けるよう育ち、時には人の手によって改良されて種を繋いできた。君たちを除いて健やかなこの世界を知る者は誰もいない」
ライの脳裏には街での光景が浮かぶ。恨み、憎しみ、魔族を殺す人々の姿。殺すな、と言える立場ではない。ただあれが健やかな世界を手に入れた人の姿とはとても思えない。
「僕は世界を魔王から取り戻したかった。けれど歪みが当たり前の世界が正常に戻るときにも、歪みは起こるんじゃないのか。きっとその時に魔族、ヨキがいることは必ず意味があるものになるはずだ。だから僕は彼を殺さない」
シルフィが腕を組んで目を閉じる。
『それは人の理屈じゃな。我らには関係のないこと』
「わかっている。けれどシルフィは理解してくれる」
『ほう……なぜそう言い切れる』
「君が人間を好きだからさ」
虚を突かれたような顔でシルフィが固まった。それに合わせるように吹き荒んでいた風もぴたりと止んだ。
風に閉じ込められていた三人は取り囲んでいた風が消えて動かなかった。いや動けなかったというべきか。ライの発言に呆れてしまったから。
くくく、と小さく笑い始めたシルフィは徐々に笑い声を上げいき、腹を抱えて涙を浮かべた。
『馬鹿じゃなあ、小僧は』
ひとしきり笑ったところでシルフィが言った。涙を拭う顔には傲岸不遜さもなく慈しむように穏やかで美しい。
「何も間違えていないさ。シルフィは人間のことが好きだろう。特に僕のことが」
「ライ!」
とユーミィが怒りにも似た声を上げる。切り傷程度で済んだだけでも奇跡に近いのに、その上自分のことが一番好きだろうと煽るような軽口を叩いけば誰でも声も上げたくなる。
しかしシルフィはユーミィに向かって手をヒラヒラを振った。
『よいよい。確かに我は小僧を気に入っておる。当然人という存在もな。勇者たるお主がそこまで言うのであれば確かに意味があるのだろう。他の大精霊にも伝えておこう』
「助かるよ。君以外なら僕が口を開くより先にヨキを殺してしまうだろうし」
ふっと笑ったシルフィは真顔に戻る。
『ただあの魔物が万が一にも世界に牙を剥こうとすれば遠慮はしない。厄災となる前に我が殺す。もちろん危険を招いたお主も一緒にな。よいか』
「ありがとうシルフィ」
『忘れるなよ』
シルフィの姿がゆっくりと光の粒となって分散していく。完全に姿が見えなくなると辺りは何事もなかったかのように、穏やかな風が吹き鳥が鳴く平穏な景色へと戻る。
「大丈夫だったかい、三人とも」
振り返ったライに向かって小走りで駆け寄った三人は、一発ずつ頭を叩く。
「いたた。何をするんだ」
「お前こそ何してんだ、死ぬところだっただろうが」
「大精霊が寛容で許してくれたからよかったものの。今回ばかりはさすがに覚悟しましたよ」
「ちょっとは私たちの身にもなって」
口々に文句をいう三人にライは思わず苦笑する。
「まったく。ライ、シルフィに言ってた事は本当なの」
「どれのことだい?」
「ヨキの力が必要になるってこと」
本当だよ、とライは頷く。大精霊相手に嘘を吐けるほどライは豪胆ではない。下手な嘘は簡単に見破られるだろうし、それこそ命はなかっただろう。
「ただの同情ってわけじゃなかったんだな」
「トウリ、僕は勇者だ。目覚めた日に彼が来て街の人たちの醜い一面を見た。彼を助け連れて行くことを決めた。ただの偶然じゃない。全て意味がある」
「勇者の必然ってやつか」
「うん。まあそう思ったのも最近のことだけどね」
ライが三人の背後に目をやる。ヨキの姿が少しずつ近づいてくる。
「ヨキを少し休ませたら出発しよう。くれぐれもさっきのことは口にしないようにね」
勇者のその後 環槙一 @tamaki000
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