第16話「倒れてもポイントは減るんです! ~推しとの奇跡(仮)~」

「……あれ、地面が……上にある……?」


――違う。自分が倒れてるのだ。


かろうじて開いた視界に映るのは、ぼやけたアスファルトと、眩しすぎる昼下がりの光。次いで、誰かの影が――


「大丈夫ですかっ!? あ、すみません! とりあえず、これ飲んでください!」


突然、冷たいペットボトルが唇に当てられた。ぬるい麦茶。なのに生き返る。


「……ありが……とうございます……」


沙織の意識は、またふわっと浮かんだ。


その数分前。通りがかる黒マスクとキャップ姿の男。


「……ここで倒れるって、タイミングよ……」


周囲の通行人は気づいていない。男――駿は素早く沙織の元へ駆け寄る。


「……息してる。熱中症か……?」


自身の持っていた麦茶を差し出し、持っていたカバンから保冷剤を探しながら、彼は名も知らぬ彼女の顔をちらりと見た。


(……不思議な人だな)


その手首に付けられた、びっくりするほどダサいマスコット付きのキーホルダーが目に入り、彼はふっと笑った。


「この、ゆるイルカ……どこで買ったんだろ」


しゃがみ込んだ拍子に、自分のリュックに付けていたキーホルダーがポロリと落ちたことには、気づかない。


それは――「プリン頭巾」という、誰が見ても突っ込みたくなるダサかわキャラだった。


「ごめんなさい、急いでて……!」


救護のためにスタッフを呼びに行こうとした瞬間、駿は通りの先にいるマネージャーから電話を受け、慌ただしく去っていった。


「うう……生き返ったけど……身体、重っ……」


沙織はゆるく復活。麦茶のボトルを握りしめたまま、ふらふらと立ち上がる。


「……あれ? 何これ?」


足元に転がる落とし物。


「プリン……頭巾……? うわ、かわい……くはないけど、なんか気になる……」


拾い上げ、バッグにしまい込む。


(……助けてくれた人のだよね。恩人の忘れ物……よし、大切に保管しておこう)


そして、コンビニへ。フラフラのまま購入したのは、麦茶、塩タブレット、そして――チョコミントアイス。


「これは……命をつなぐアイス……!」


勢いよく棒アイスをかじっていくと。


「……は?」


棒に文字が。


【あたり】


「ちょっと待って……こんなところで当たる!?」


その瞬間、スマホがピロンと鳴る。


《現在の数値:73→66/100》


「幸せ……感じちゃった……! あ、あれ? アイスって減るんだ!?」


空を仰ぐ沙織。だが、あたり棒はぎゅっと握りしめたまま。


「……くっそ、でも交換行く……不幸回避のために! 交換は正義!」


彼女はアイスのあたり券を握りしめ、再び立ち上がった。


その夜、駿は帰宅後、ニュースサイトを眺めていた。


「今日のサプライズ登場、騒ぎすごかったな……」


マスクを外してため息をつきながら、今日倒れていた女性のことを思い出す。


(あの人……どこかで会ったような気もするし、会ってないような……)


枕元には、キーホルダーのないリュックが置かれていた。


【現在の数値:66/100】


不幸回避成功。しかし、体力はすでに限界を超えている。

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